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組み合わせ

『ご来場の皆様、お待たせしましたっ! ついに! 本日より、王立ヴェルム騎士学校・武闘大会、本戦、スタートです!!』

 エルナの宣言と同時に、一気に会場が盛り上がる。意味不明、無意味な雄叫びを上げる者がいれば、本戦出場者の名前を叫ぶ者もいる。その中に、やけに必死な人がいるのは何なのだろうか。

 と考えたユウシアに、リルがこっそりと耳打ちする。

「本戦では誰が優勝するかの賭けも行われているようですわ。かくいうわたくしも、ユウシア様に有り金全部賭けて来ましたの。予選の活躍のせいか大勢の人がユウシア様に大金を賭けていたようで、オッズが低かったのが残念ですけれど」

「いや、学校側もリルも何してるのさ……」

「信頼の証、ですわっ! ……それに、どの道あまりお金を持っていても使いませんし」

「まぁ、それもそうかもしれないけど」

 王女なのだし、大抵のものは揃うだろう、と納得するユウシア。考えを完璧に見抜かれたことについてのツッコミはない。そんなものは、王城で暮らしていた間に諦めている。

『さぁ! 盛り上がってきたところで、組み合わせの発表です! ついでに、大穴を狙った人の命運もここで決まります!』

 賭けというのは、何も優勝者を当てなければ払い戻しがない訳ではない。二位や三位を当てても相当な額をもらうことが出来るだろう。そのため、確実に優勝出来るだろうけど払い戻し額の倍率があまり高くない者に賭けるより、大穴を狙って、上位に食い込むことを期待する者も少数だがいる。その“大穴”の相手次第では、万に一つの可能性すらもあっさりと潰えるので、エルナはああ言った訳なのだが……学校として、生徒を賭けの対象にするのはどうかと思うユウシアだった。

『さ! 学園長の無駄に高度な魔法で作られたスクリーンをご覧下さい!』

 エルナに促され、全員の目がスクリーンに集中する。

『それでは発表します! 本戦の組み合わせは――これだぁっ!』

 その言葉と同時、スクリーンに表示されるトーナメント表。ヴェルムは頑張っている。

 ユウシアは、自分の相手よりも先に、リルの相手を全力で探した。すぐに見つかったその相手は――

「――クソッ!」

 拳を握りしめるユウシア。もし近くに何か手頃な物があれば、思い切り殴りつけていたことだろう。

 初戦、リルの相手は、ヴァイツだった。昨日のリルの話は聞き間違いではなかった訳だ。

「……っ」

 隣でリルが息を呑むのを感じる。

「や、やっぱり、わたくしのお相手はヴァイツさんでしたわね! ユウシア様はどうでしょうか?」

「え? あぁ、えっと……」

 ユウシアの試合はすぐに見つかった。リルの次だったからだ。

「サイラス・フォルモンド……確か、四年の近接二位……だったかな」

「予選第二十一試合の勝者だったと思います」

「そんなことまで、よく覚えてるな」

 リルの言葉に、軽く目を丸くするユウシア。それに彼女は笑って、

「これでも王女。これまでも色々なことを覚えてきましたから」

「記憶は得意なのか」

「はい。それで、サイラスさんですけど……豪快に斧を振り回していた記憶がありますわ」

「豪快に斧を……あぁ、あの試合か。あの威力は脅威だなぁ」

「ユウシア様なら当たらない気もしますけれど」

「まぁ、見えたしな。ちゃんと」

「さすがユウシア様です」

「……えっと、ありがとう?」

 自然な流れのヨイショに、若干首を傾げつつ礼を言うユウシア。

「どういたし、まして……?」

 礼を言われることなのか、という疑問を抱きつつもそう返すリル。若干疑問形になってしまっている。

「……他の皆の相手はどうなってるかな」

「……そうですね」

 二人してどこか不思議そうにしつつも、再びトーナメント表に目を向ける。

「フィルのお相手は、ステライト・ハルムント……第十四試合勝者の四年生、だったと思いますわ」

「偶数試合ってことは遠距離型か。フィルの苦手なタイプだけど……」

「確か、一撃の威力に重きをおいている感じでしたから、フィルなら平気でしょう。あまり弾数が多くなければ、捌ききれると思いますわ」

「なら平気かな。……お、面白そうなのがあるぞ」

 そう言ってユウシアが指差した場所に、リルが目を向ける。そこには、

「まぁ、アヤさんとリリアナさんが……確かに、面白そうです」

 アヤ対リリアナの組み合わせがあった。

「リルはどっちが勝つと思う?」

「……訓練のときの様子では、互角だったように思いますが……」

「どうなるかは分からないか……楽しみだな」

 ユウシアの言葉に、リルは頷きを返す。

「あとは……ゼルトはどうだろう」

「ゼルトさん……あ、あそこに」

 ユウシアよりもリルの方が早く見つけ、トーナメント表の端を指差す。

「最後か……相手はレブニル。名字がないってことは、平民かな?」

「第三十一試合勝者、二年生。……最後の方ですから……」

「あぁ、出来レースの」

「ユウシア様、わざわざ口に出す必要も……」

 リルに注意され、ごめんごめん、と軽く謝るユウシア。普通の人は知らないことだろうが、リルは王族だからなのか、出来レースのことも知っているようだ。

「何はともあれ、それならゼルトも勝ち抜くかな」

「はい。レブニルという方が何か隠してでもいなければ、ですが」

「能ある鷹は爪を隠すとは言うけど……隠しておく必要もないだろうし、平気だと思うよ」

「……? ノウアルタカハ……?」

「あ」

 首を傾げるリルに、そういえばこの世界にはこの諺はなかった、と思い出すユウシア。慌てて、別の言い回しを探す。……が、そもそもユウシアはこちらの世界の諺をほぼ知らなかった。

「えぇと……普段は力を隠しておいて、いざというときにその力を発揮すること。遠い国の諺だよ」

「なるほど、そんな意味が……こちらには、そういった意味の諺はありませんわね」

 誤魔化すことには成功したようだ。「為になります」なんて呟いて頷いているリルからそっと視線を外し、ユウシアは小さく息を吐いた。いずれ彼女には自分のことを全て、生まれ変わったことも、その目的も話すつもりでいるが、今話すことでもないだろう。とはいえ、あまり遅すぎるのもよくないので、遅くても卒業までに、とユウシアは考えている。

 閑話休題。

 ユウシアが顔を上げたのと同時に、エルナが声を上げる。

『組み合わせの確認は出来たでしょうか! 三十分後に第一試合を開始します! 第一試合の出場選手は控え室に、それ以外の選手は観客席に移動してください!』

 いよいよ、本戦開始だ。

 「能ある鷹は爪を隠す」の異世界版諺。考えてもよさそうなのが浮かばなかったので諦めました。なんかない?

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