残虐非道
――第二試合勝者、三年、クリフ・ベルスター。
――第三試合勝者、二年、マキナ・トライト。
――第四試合勝者、一年、リリアナ・マクロード。
――第五試合勝者、五年、グスタフ・ハイゼフト。
――第六試合勝者、四年、セシル・キリスタス。
――そして、第七試合。
「これ……一体、どういうことだ……?」
試合が始まる前から、会場がざわめきに包まれる。――いや、騒いでいるのは一部の観客と一年生だけだ。大多数の観客と上級生達は平然としている。
騒いでいる一年。ユウシアもまた例外ではなかった。
ユウシアの放った疑問に、リル達は揃って首を傾げる。
一体、開始前から何が起きたのか――
「なんで、ほとんどの参加者が棄権してるんだ……」
「お答えしましょう」
ユウシアの再びの疑問にそう声をかけてきたのは、いつも通りどこからかひょっこりと現れたヴェルム。
「先生」
慣れているのか、特に驚くこともないユウシア。
「会場を見てください。今残っているのは、一年生と、いかにも自分の力に自信がありそうな上級生。そして、真ん中の彼だけですね?」
「確かに、そうですけど……それが?」
生徒の学年は、制服のネクタイの色で分かるようになっている。武闘大会においても、防具の装着は制服の上からとされているので、生徒自身を知らなくとも学年は分かるのだ。ちなみに、色は今年は一年から順に青、赤、緑、黄、紫となっている。この色は一年ごとに変わる。来年の一年は紫色、その次は黄色……と、前年の卒業生の色を受け継ぐのだ。
その色を見る限り、残る生徒の大多数は青色、その他の色が少数。真ん中にいる男子生徒は、だいぶ着崩していて見えづらいが赤色なので、二年であることが分かる。
「彼は、二年近接トップの――いや、実技トップのヴァイツ君。ユウシア君、君と同じ平民です」
「その、ヴァイツ……先輩が、どうしたんですか?」
「……彼が、原因ですよ」
「へ?」
首を傾げるユウシアに、ヴェルムは小さく息を吐いて少し話を変える。
「彼は、入学試験時、圧倒的な力で実技試験を合格しながらも、首席には選ばれませんでした。筆記試験があまりよくなかった、というのもありますが、一番の理由は……彼の性格にあります」
「性格……ですか?」
「……残虐非道、という言葉は、彼のためにあるのかもしれません」
ヴェルムはユウシアの質問に直接は答えず、そう言う。
「それって……」
「ひっ!」
ユウシアの呟きの直後、隣から聞こえた短い悲鳴。次いで、そちらから何かが抱き着いてくる。
「リル、どうし――っ!」
そちらを振り向こうとして、ユウシアは目にした。
いつの間にか始まっていた試合。闘技場の中央で、楽しそうに――愉しそうに笑いながら、一人の生徒を、まるで嬲るように……いや、嬲って、遊ぶ、ヴァイツの姿を。
「……それが、ヴァイツという男です」
リルを抱きしめ、あの惨状を見せないように彼女の目を隠すユウシアを見ながら、ヴェルムは苦々しげに言う。
「本当を言うと、止めたいのですが……まだ戦う意思のある者がいる以上、そうもいきません。勇猛……いや、無謀、ですね」
そう言いながら、ヴェルムはヴァイツを鋭い目で見、殺気を飛ばす。
それに反応してヴェルムを見た彼は、やれやれ、とでも言うように肩をすくめ首を振ると、今の今まで胸倉をつかんで持ち上げていた男子生徒を、場外に雑に投げ捨てる。……ボロ雑巾のような、とは、このことを言うのだろう。場外に力なく横たわる男子生徒は、そんな有様だった。
ヴァイツは、ヴェルムの言う「無謀」な者の一人に近付くと、無造作に剣を振る。
(見えない……ことも、ないけど。速いな)
倒れふす相手の生徒には興味も示さず、ユウシアはただヴァイツの分析を始める。彼は間違いなく本戦に進むだろう。そのとき、「上には上がいる」というのを、圧倒的な力を持って彼に示さなければならない。ユウシアはなんとなくそう感じた。
「……わざわざ頼む必要も、ないようですね」
ヴェルムは真剣な眼でヴァイツを見るユウシアの横顔を見ながらそうひとりごちる。
その間に、試合は終わっていた。
『しょっ……勝、者、ヴァイツ……』
歓声は起きない。皆ただ、血に塗れた闘技場を見ないようにと目を背けていた。
ヴァイツはつまらなそうに鼻を鳴らして姿を消す。それと同時に入ってきた人達が、重傷者から順に運び出して行く。
「……リル。もう大丈夫、終わったよ……」
ユウシアはそれを少し見ると、自分に抱き着いたまま震えるリルに目を向け、彼女の背中を小さく何度か叩く。
それに反応して顔を上げたリルは、悲しそうな眼をユウシアに向ける。
「……ユウシア様……あんな、あんなことが出来る人が、いるのですね……」
「皆見た目が違うように、性格も人それぞれだから……でも、あれは許されることじゃない」
「はい。……ユウシア様は、ああはなりませんよね……?」
「ならない。絶対に。俺は、リルを悲しませるようなことは絶対にしない」
「……ありがとうございます、ユウシア様」
リルは微笑みながらそう言うと、再びユウシアに抱き着く。ユウシアもまた抱きしめ返しながら口を開く。
「……リル。一つだけ、いい?」
「はい、何でしょう?」
「リルは多分、本戦に出場出来ると思う。……それで、もしもあいつに当たってしまったら……そのときは、迷わず棄権してくれないか?」
リルの魔法の才能は本物だ。だがそれでも、ヴァイツには絶対に敵わないだろう。ユウシアは、大切な恋人をみすみす危険に曝したくはなかった。
「分かりましたわ。……と、言いたいところですけれど」
リルは、ふふっ、と小さく笑う。
「実は、アヤさんとリリアナさんと、本戦で戦う約束をしているのです。もしもそのどちらかと当たる前に戦うことになってしまったら……少し、頑張ってしまうかもしれません」
「やめてくれよ、心臓に悪いから……」
「ふふ……ですが、ユウシア様なら、本当に危なくなったら守ってくれるでしょう?」
「そりゃあ、いざとなれば試合に乱入してでも守るけど」
「ですから、私は安心して頑張れますわ」
「……敵わないなぁ」
笑うリルを見て、仕方なさそうにそう呟くユウシアだった。
第二〜第六試合はダイジェスト。というか結果のみ。多分第八試合以降も大体結果のみ。下手したら全部。勝った人の名前考えるのめんどくさいとかでそれすらない可能性もなきにしもあらず。というかある。あと二十五試合分も考えてらんない。
最後に一言。
フラグビンッビンですね!




