開会式
ユウシア達の入学からおよそ一月と半分。
ついに今日から、武闘大会が開催される。
「外部からも人集まるんだな」
開会式のため第一闘技場に集まった生徒達。その中でユウシアは、周りを見てそんなことを呟く。それに答えたのはリルだ。
「学園祭と並ぶ二大イベントですから。注目も高くなりますわ」
「学園祭あるの!?」
リルの言葉に目を輝かせるアヤ。
「当然だ。私も昔来たことがあるがな、あれは盛り上がるぞ……やるのが楽しみだな!」
フィルにそう言われ、更に目がキラッキラに。
「今はそれより先に武闘大会よ……」
リリアナの冷静なツッコミが入る。ユウシアとリルがその通りだと頷く。
と、そんなこんな話している間に、開会式が始まるようで、闘技場内に設置された簡易ステージにヴェルムが登る。
「好天に恵まれ――なんて、前置きは抜きにして」
なんかもう色々とすっ飛ばしたヴェルムはニヤリと笑うと、
「生徒諸君! 自分が勝利する未来は見えているか!!」
『オォォォオオオッ!!』
「勝ち登るためにやれることはもうやって来たか!!」
『オォォォオオオッ!!』
「新入生! 倒すべきライバルはちゃんと見つけたか!!」
『オォォォオオオッ!!』
「ならば! 君達がやることはあと一つだ! 勝って、勝って、勝ちまくれ! 目指すは頂点! 五国間学生武闘大会優勝だ!」
『オォォォオオオッ!!』
「……ふぅっ。さ、という訳で、王立ヴェルム騎士学校武闘大会、開会です! 皆さん頑張りましょう!」
『ウオオオォォォォオオオオオオッッ!!』
最後の最後で気の抜ける感じだったが、無事開会の宣言もし、武闘大会が開会した。ちなみにユウシア達は、周りの勢いに完全に飲まれていた。全く付いて行けていない。
「さて。本日はなんと、国王陛下が直々にお祝いの言葉を――」
会場がザワつく。
「送ってくれませんでした! 薄情者!」
ズルッ。
まるで昭和のコントのようにずっこける生徒、観客一同。ユウシア達も例外ではない。
「せっかくですし、代わりに王女殿下のお二人にでもお話を伺いましょうか?」
「え?」
「はぁ?」
思わず変な声を上げる王女姉妹。ヴェルムがこちらをジッと見つめている。ついでに周りの人達もすごい見てる。
「……いえ、そんなに見られても、私、やりませんわよ……?」
リルがボソッと呟く。それに同意するように何度も頷くフィル。さすがに声は聞こえないはずだが、リル達の言いたいことは分かったのか、残念そうにしながらも引き下がるヴェルム。
「残念ながら、やりたくないようですね。仕方ありません。ではこれより、ブロック毎に集まり、ルール説明等が行われます。ブロックは昨日通達した通りです。皆さん、集合場所に移動してください」
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近接職と遠距離職、別々に予選が行われる訳だが、この学校はその二つがほぼ半々で分かれていた。生徒の総数が千六百人なので、大体八百人ずつだ。
そして、予選は各十六ブロック、計三十二ブロックに分けて行われる。本戦はトーナメント方式で行われるが、予選は人数が多いためそうもいかず、五十人入り乱れたバトルロワイヤルである。これで勝ち残った一人のみが、本戦への切符を手にするのだ。
という説明がされたのが、つい先程のこと。
そして今ユウシアは、大絶賛絡まれ中だった。
「えぇと……先、輩? なんのご用でしょう?」
目の前の巨漢を見上げ、頬を引き攣らせるユウシア。
そんな彼を何やら上から目線で見るこの巨漢こそ、学園随一の腕力を誇る(とかなんとか自分で言っていた)、三年のゴードン先輩である。名前からしてゴツい。周囲の反応を見るに、力があるのは間違いなさそうだが。
「く、くくくっ……」
微妙に状況に付いて行けていないユウシアをよそに、何やら悪そうな笑い声を漏らすゴードン先輩。顔と合っていない。
「この日を心待ちにしていたぞ、ユウシアァ!!」
キィィイイーン!
と、ユウシアに耳鳴りが。思わず耳を押さえる。
(うるさっ! この人声大きすぎ! うるさっ!!)
「ど、どういうことで」
「入学式の話は聞いたァ! 学園長が面白いことを言っていたそうではないかァ!」
いっちいちうるせぇ先輩だ。
「そしてェ!」
(もう終わりでいいんですけどぉ!?)
「貴様の決闘もォ! 何度か見せてもらったァ!」
(そうですかよかったですねお願いだから黙ってください!)
口には出せないユウシアである。後輩だから仕方ない。
「だからこそ言おぉう! 貴様は強ぉい!」
「……えぇと、ありがとうござ」
「そして俺はァ! 強い奴と戦うのがどうしよぉぉうもなく好きだァッ!」
(せめて最後まで言わせて!? っていうかもうなんか流れ読めた!)
「……えっと、ずっと戦いたかった的なかん」
「そのとぉぉおおおりッ!!」
うるさい。うるせぇ。うっせぇ。
結局このうるさい先輩は、このあとも散々声を張り上げたあとで去っていった。ユウシアはもう、声枯れないのかな、しか考えられなくなっていた。
そして、たまたま同じブロックになっていたのでユウシアに声をかけようとしたが、ゴードンのせいで近寄れず、悲しげな目でユウシアを見つめていたラインリッヒが可哀想だった。
同じブロックの、ゴードン先輩とラインリッヒ君。ユウシアがいる以上、どうなるのかは明白。かわいそ。