合同訓練
「ところで、リル達はなんでこっちに?」
座り直したユウシアが、隣に座るリルに問いかける。
「いえ、何度かこちらを見ていたようでしたから……」
「あぁ、なるほど」
「ユウ君、何か用でもあったの?」
納得したように頷くユウシアに、今度はアヤが聞く。
「いやさ、本戦を見据えて、魔法使いとの訓練もした方がいいんじゃないかってフィルと話してたんだよ。そうだ、休憩終わったら合同訓練でもどう?」
その質問に、リル、アヤ、リリアナの三人は一瞬顔を見合わせると、ユウシアを見て頷く。
「いいわね。あたし達もいい経験が出来そうだし」
「えぇ。近付かれてしまったときの対処法とか……色々と学べそうですわね」
「……ユウ君、本気出しちゃダメだよ? 手も足も出ないから」
「いや、さすがにそんなことは――」
ないでしょ、と言おうとしたユウシアだったが、アヤ達三人のみならずフィルからもジト目を向けられているのに気付き、言葉を引っ込める。
(ないと思うんだけどなぁ……)
あるんだなぁ。
と言うか実際、ユウシアが本気を出せばここにいる四人くらいなら普通に纏めて相手に出来たりする。集団戦は森の魔獣相手に散々経験していたのでお手の物である。
「……分かった、分かったから、その目をやめて……」
ジトーッ、と見られ続けたユウシア。美少女四人にそんな目を向けられても、生憎ユウシアにそんな趣味はないのでギブだ。
「……ふふっ、冗談ですわ。私がユウシア様に、本気であんな目を向けることなどあり得ませんから」
「リル……それにしては、中々に名演だったと思うけど」
今度はユウシアがジト目になる番らしい。リルはそっと目を逸らす。
「……これでも、表情を作るのには慣れていますから……」
「あ、私も慣れているぞ! 王女だからな!」
「……あぁ、そういう」
一応ユウシアも納得したようだ。王女なら、表情を取り繕わなければならない場面もままあるだろう。
「そういうことならあたしも出来るわよ」
侯爵家の娘であるリリアナも手を上げる。
「……あたし、無理だぁ。すぐ表情に出ちゃうよ……」
アヤは、まぁ、仕方ないだろう。
「……っていうか、なんの話だっけ?」
「表情の話……では、なかったな。なんだっただろうか……」
「元々は合同訓練の話でしたわよ?」
「「そう、それだ!」」
ユウシアとフィルの声がキレイにハモる。思わず顔を見合わせて笑う二人。
「よし」
ユウシアは、手を叩きながら言って立ち上がる。
「それじゃ、休憩は終わりにして訓練再開と行きましょうか」
その言葉に、他の四人は頷いて立ち上がった。
++++++++++
合同訓練は、リル対フィルと、アヤ&リリアナ対ユウシアの組み合わせで行われた。ユウシアがニ対一になっているのは、実力を鑑みての調整。その相手がアヤとリリアナなのは、ユウシアとリルのお互いが組むのを拒否したからだ。
その理由は、ユウシアが「リルが相手だと例え寸止めでも殴れないし。そもそも、どうしても甘くなっちゃうな」、リルが「ユウシア様が相手ですと、本気で魔法を放つなど出来ませんから。ユウシア様なら無傷で切り抜けてくれるでしょうが、もし当たってしまったらと思うと、私は……」とのこと。相変わらずである。アヤ達は思わずため息を吐いた。
そういう訳で、ユウシアはアヤとリリアナを同時に相手にしている訳だ。
ユウシアは、〔アイス・ブレイド・ダンス〕を発動させたばかりのアヤを見て声を上げる。
「始めから近付かれることを考えてどうする! 最初は近付かせないことだけを考えるんだ!」
この魔法は、どちらかと言えば近距離用の魔法であった。
「はいっ!」
そう声を返すアヤに小さく頷くと、次いでユウシアは魔法を詠唱中のリリアナに目を向け、一瞬の内に懐へと飛び込む。
「きゃっ!?」
思わず声を上げるリリアナ。
「詠唱が長い。複雑な魔法は、相手に決定的な隙が出来たときだけだ」
「わ、分かったわ……」
ユウシアに指摘を受けたリリアナは、驚いた体勢のまま固まりつつも小さく頷く。
「……さて、もういっか――」
「ユウシア!」
もう一回、と言おうとしたユウシアの耳に、フィルの声が届く。
「ん?」
そちらに顔を向けるユウシア。
「少し指導してほしいんだが……自分達だけだと、何が良くて何が駄目なのか分からないんだ」
「あぁ、そういうこと。分かった、任せて。アヤ、リリアナ、ちょっと休憩」
「はーい」
「分かったわ」
そうして、武闘大会までの一月は、すぐに過ぎていった。
短めですが、第三章は武闘大会で終わりにする予定です。他の国とのやつはその後……か、その更に後の章。今回はほぼ息抜きの章ですね。