昔は昔、今は今
その日の放課後から、生徒の大半は早速開放された闘技場に通い始めた。
そしてユウシア達もまた、闘技場へとやって来ていた。
「大振り過ぎる! 相手は魔獣じゃないんだぞ!」
「くっ!」
ユウシアは、横から振るわれた剣をしゃがんで躱すと、姿勢を低くしたまま相手の懐に潜り込み、首元に訓練用の木製の短剣を突きつける。
「……また、私の負けか……」
剣を振り切った姿勢のまま固まるフィルが、悔しそうに呟く。
ユウシアは短剣を引き戻すと、少し考えるようにしながら口を開く。
「やっぱり、魔獣相手の戦い方が染み付いちゃってるみたいだな。騎士の仕事が基本そっちだろうから仕方ないけど」
「対人では、通用しないか」
「相手が弱ければ全然平気だけど、多分うちのクラスに見きれない人はいないんじゃないかな。リルとアヤは別として」
「むぅ……厳しいな、ユウシア」
「厳しくしてくれって言ったのはフィルの方だよ」
「それもそうだが……いや、泣き言を言っていたって始まらないな。ユウシア、もう一度頼む!」
「もちろん」
二人は、再び刃を交わす。
こんなやり取りが、もうしばらく続いていた。当然、武闘大会に向けての特訓だ。
別のところでは、リルとアヤ、リリアナの三人が、魔法を教えあっていた。
「……ですから、ここで魔力を一気に右手に集めるのです。そうすれば、上手く制御出来るはずですわ」
「ふむふむ。ここで、こう、だね!」
「……あなた、上手いわね……あたし、繊細な操作は、苦手、でっ!」
実演してみせるリルを真似て、アヤとリリアナも魔力操作に挑戦する。【魔導の極致】を持つアヤは難なくこなすが、リリアナは苦戦しているようだ。彼女は繊細な魔力操作は苦手らしい。
その代わり。
「……で、ここで一気に圧縮して、撃つ!」
「えいっ!」
「はっ! ……上手く行きませんわね……。魔力の塊を魔力で押し込めるという感覚が、あまり……」
魔法の火力に関しては、右に並ぶ者はない程だった。アヤは例外。そして反対に、リルはこういった力技のようなものは苦手なようだ。
アヤはまだあまり知らない魔法について色々と学べて、リルとリリアナは互いの苦手な部分を補える。中々いい組み合わせなんじゃないかと、剣戟の隙間を縫って彼女達の方に目を向けたユウシアは思う。
「何を余所見しているんだ!」
「っ、と!」
それを目ざとく捉えたフィルが、確実に攻撃を当てるためか、コンパクトな動きで突きを放ってくる。ユウシアはそれをギリギリのところで躱すと、ひゅう、と小さく口笛を吹く。
「さすが、吸収が早いな」
「伊達に騎士をやっている訳ではない……し、今は私との時間だ。姉上達の方に意識を向けられるのは気に食わない」
「それは失礼。お詫びに、フィルに最適な戦闘スタイルでも提案しようかな」
「何っ!?」
ユウシアの言葉に食らいつくフィル。しかしその直後に、「やっぱり駄目だ」と頭を振る。
「なんで?」
「今更戦い方を変えたって完全に自分のものにするには間にあわないだろうし、それに、それは自分で見つけなければいけないものだと思うんだ」
ユウシアの問いに、フィルは真面目な顔で答える。
その答えを聞いたユウシアは一瞬キョトンとしたあと、すぐに笑顔になると、
「はは、確かにそうだ! それじゃあ、少なくとも何かきっかけを掴めるまでは付き合おうかな」
「よろしく頼む」
ユウシア達以外にも、大勢の人が訓練に打ち込んでいた。中には、ゼルトの姿もある。
「だからっ……あぁもう、なんで同じことを何度も言わせるんですか……ヤンク、お前もだ」
「むぅ……ゼルト、細かいぞ」
「そーだそーだ!」
「情けない結果を残したいなら俺は構いませんが」
「よし、続けよう!」
「……ぐぅ」
彼は、ラインリッヒとヤンクに戦いを教えていた。あの三人の中ではゼルトが一番強いのだ。まぁ、ヤンクは乗り気ではないようだが。実は彼、ギリギリ、なんとか、かろうじてSクラスに入れたレベルだったりする。来年にはノルトあたりと入れ替わっていてもおかしくないかもしれない。
閑話休題。
「そういえば、武闘大会では魔法使いと戦うこともあるんだよな」
一旦休憩に入ったユウシアは、隣で座るフィルに思い出したように問いかける。
「ん? あぁ、そうだな。確か、予選は別で行って、本戦は一緒になるんだったか」
「……だとすると、やっぱり魔法相手の特訓もした方がいいと思わない?」
「魔法相手……? あぁ、そういうことか」
首を傾げるフィルだったが、ユウシアの視線の先にいるリル達を見て、その意味を理解する。
「そう、だな……。向こうも休憩に入ったようだし、終わったら聞いてみようか」
「そうしよう。ちなみに、フィルは魔法使いと戦った経験は?」
「姉上と喧嘩したことならあるぞ」
「……え?」
何を言っているのか分からない、とでも言いたげな顔をするユウシア。
(……喧嘩? 仲良しなこの姉妹が?)
「信じられない、というような顔をしているな。でも、事実だ。たった一回だけだが、とてつもない大喧嘩をしたんだ」
懐かしいなぁ、なんて呟くフィル。
「……なんで?」
「理由か? 今となってはくだらないことだよ。小さな頃だったから……」
「あぁ、小さい頃ね」
なら喧嘩することもあるだろうと納得したユウシアの耳に、衝撃的な言葉が届く。
「周りにも迷惑をかけて……何せ、城の壁に大穴を開けてしまったからなぁ」
「うんちょっと待って?」
何を言っているのだこの王女様は。
「城の壁に、大穴? え? 小さい頃だよな? 何があったの?」
「姉上が怒りのままに魔法を撃った」
あっけらかんと答えるフィル。
「怒りのままに? リルが? 魔法を? 小さい頃のリルが大穴?」
「……ユウシア、少し落ち着いた方が……言っている意味が分からないぞ」
「私が何か?」
「どわぁっ!?」
混乱する頭にいきなり飛び込んできた声にひっくり返るユウシア。
「あっ、ユウシア様!? だ、大丈夫ですか!?」
リルはそんなユウシアを慌てて引き起こす。
「あぁ、大丈夫、大丈夫……うん」
「そうですか、よかったです……」
ホッと息を吐いて微笑むリルを見てユウシアは、
(昔は昔、今は今、だな。うん)
考えるのをやめた。
リルはテクニック型。リリアナはパワー型。アヤはチート型(なんだそれ)。




