大事なお知らせ
※五国間学生武闘大会の出場人数を五人→三人に変更しました。
デートの翌日、休日明け。
昨日のテンションのまま手を繋いで登校したユウシアとリル(【偽装】は完璧。マジ便利)を対象外のアヤが怨念すらこもっていそうな目で見ていたが、それはさておき。
教室に入ったユウシア達を見て、クラスメイト達がザワつく。
ユウシアとゼルトの決闘――は、関係ないだろう。ユウシアとSクラスの生徒の決闘など、なんだかんだでよく行われていたし。
となれば何か。ユウシアとリルの距離感に関しても、問題はないはずだ。そこから【偽装】している。
そんなことを考えつつ首を傾げるユウシアのもとに、リリアナが駆け寄ってくる。
そして、
「ちょっとユウシア! 一体何したの!?」
「え?」
「え? じゃないわよ! ユウシアとリル様が仲良すぎるんじゃないかって、みんな関係を噂してるのよ!?」
「え!?」
先程とはまた違ったニュアンスの「え」という言葉が、ユウシアの口から漏れる。リルも少し目を丸くしているように見える。
「いや、でも、なんで……」
と言ったところで、ユウシアは気付いた。
そういえば昨日、色んな人が見てる前で親しげに話してた。くっついてた。軽い感じで誘ってた。【偽装】とか意識してなかった。と。
(そりゃ噂されますわ)
されますな。
やっちゃったな、と遠い目をするユウシアのもとへ、ラインリッヒにでも言われたのかゼルトがやって来る。ちょくちょく二人で話していたりしたので、仲がいいというのは分かっているのだろう。
「ユウシア、どうなんだ?」
何が、という部分が抜けているが、ユウシアとリルの関係以外にはあり得ないだろう。
だが、上手くはぐらかすにしても説明が難しいし、本当のことを言うなど論外(リリアナは例外)。
という訳で、
「んー……卒業までのお楽しみ、ってことで」
ユウシアは、口元に人差し指を当てて、少し困ったように笑いながら言う。
「……どういうことだ?」
「その頃になれば分かるってこと」
「……それ以上言う気はない、か」
「イエス」
ゼルトは、いまいち釈然としない様子ではあるものの、仕方ない、と息を吐くとラインリッヒの方へ戻っていく。ゼルトの話を聞いたラインリッヒは、一瞬ユウシアを睨みつけるも、それに気付いたリルに笑顔(黒い)を向けられると何事もなかったかのように視線を戻した。汗はびっしょりかいているが。
ともあれ、実際にユウシア達が卒業することになれば分かることである。卒業と同時、という訳ではない……というより、正確な時期は未定だが、近いうちに婚約発表はすることになるのだから。
(……あぁ、それまでに立派な身分と、仕事を見つけなきゃいけないのか……領地とか、知らないし。いっそ騎士にでもなってしまおうか)
身分に関しては、なんだかんだで功績があるので、多分問題はないのだ。あとはちゃんと収入を得る方法を探すだけ。さすがに、黒竜を売った金だけで生きていくことなど出来やしないだろう。平民ならともかく、貴族――というか、実質王族なのだし。税金生活はパスで。
「ユウシア様?」
考え込み始めたユウシアに、リルが不思議そうに声をかける。
「……あぁ、ごめん、ちょっと考え事してた」
「そうですか……ちなみに、何を?」
「これからのこと、かな?」
「これから……ですか」
あまりピンと来ていない様子のリルに、ユウシアが頷く。
「卒業後の……進路、って言えばいいのかな?」
「進路……あぁ、そういうことですか」
その言葉にリルも分かったようで、納得したように頷いている。
「いざとなれば、こちらでどうとでも出来ますのに……」
「ヒモにはなりたくないから。絶対」
「ふふっ、そうですわね。ユウシア様は、そういう方ですわ」
笑い合う二人に、アヤ、フィル、リリアナ全員がジト目を向ける。
「……ホントユウ君、リルのこと好きだよねぇ」
「姉上もだ。いつでもどこでもイチャついて……」
「私には、いつ春が来るのかしらね……」
はぁっ、と、思わず漏れるため息。目の前でピンク色の空間を展開される独り身達。辛い。
余談だが、このクラスにも、周りと打ち解けてそろそろ恋が芽生え始めそうな気配がある。その場合、人気が出るのは間違いなくリルとフィル、アヤ、リリアナの四人だろう。……いや、リルやフィルに関しては、身分的に憧れる程度か。リリアナは貴族位で言えば高いが、まだ手が届く。アヤは平民。よって誰でも手が届く。
そんな理由で、ユウシアが知らない内に行われていたらしい、「付き合うなら誰がいい?」アンケート(男子対象)では、アヤが僅差でトップだったとか。完全に男子高校生のノリである。いや、年齢的には間違ってもいないのだが。騎士学校の生徒としては……学園長が学園長なので、問題ないか。
ユウシアは、フェルトリバークラスの四大美女(と一部に呼ばれている)と仲がいいため羨望やら嫉妬やら何やらの視線を男子達に向けられていることも気付かずに、席につく。
それと同時に、扉を開けてヴェルムが教室に入ってくる。
「おはようございます。皆さん、ちゃんと揃ってますね」
全員出席していることを確認したヴェルムは、「大事なお知らせです」と前置きして話し始める。
「皆さんが入学して、半月が過ぎました。……そして一月後、毎年恒例の『武闘大会』が開催されます! 拍手!」
ヴェルムの謎のハイテンションに乗っかって(あげて)まばらに起こる拍手。
「知らない人もいるようですね。では、説明しましょうか」
ヴェルムは、黒板に大きく『武闘大会』と書く。
「武闘大会は、年間通して最初のイベントにして、最大といっても過言ではないイベントです。内容は文字通りですね。戦って、戦って、戦って、戦います。とことん、戦います」
ユウシアは、うへぇ、と思った。
「ちなみに強制参加です」
ユウシアを見ながら言うヴェルムに、ユウシアは、うざぁ、と思った。
「武闘大会はトーナメント方式で行われ、組み合わせはくじ引きで決定します。組み合わせの決定は武闘大会の前日です。そして、ルールは決闘と同じ。今日から武闘大会本番までの一ヶ月間は、放課後全ての闘技場が開放されるので、個人で特訓するもよし、仲間で特訓するもよし、僕達教師に教えてもらうのもいいでしょう。もちろん、クラスメイトに教えてもらうのも」
ヴェルムはそう言って、またユウシアを見る。ユウシアは、またうざぁ、と思った。
「そのため、武闘大会が終わるまでは決闘禁止です。それだけは注意してください。……そして」
ヴェルムはニヤリと笑うと、少し大げさに手を広げ、続ける。
「武闘大会で上位三名に入った者は! その半年後に行われる、五国間学生武闘大会に挑戦することが出来るのです!!」
ユウシアは、これまたうへぇ、と思った。
「もちろん、強制参加です☆ あ、嫌だからって手加減するのは禁止ですよ、ユウシア君?」
「すいません、殴っていいですか」
「駄目です☆」
「殴ります」
「ちょっと待ってシャレにならないから本気で来られると反応出来るか怪しいんですって危なぁっ!?」
ユウシアの拳が黒板に突き刺さっている。何の偶然か、丁度『武闘大会』の文字のど真ん中だ。
「……先生、避けないでくださいよ」
「よ、避けますよ……っていうか、黒板に刺さってる……そんな力で殴られたら、僕の美しい顔が待ってごめんなさい調子に乗りました謝りますから拳を向けないで」
「……まぁ、いいでしょう」
涙目にすらなっているヴェルムに、ユウシアが溜飲を下げる。しかしその目が、「次はありませんよ」と言っている。ヴェルムはコクコクと頷いた。クラスメイト達は学園長を必死に謝らせたユウシアに戦慄の目を向けた。ただしリルの目は「さすがはユウシア様ですわ!」と言っていた。
「……こほん。ともかく、結構大事な行事なので、皆、全力で臨むように。我々も全力でサポートします。――では、授業に入りましょう」
ユウシアをチラチラ確認しながら言うヴェルム。ユウシアは後でフィルとリリアナに「やりすぎだ」とこっぴどく叱られた。反省は、ちょっとした。
なんだろう、前回深い傷をおった反動? 後半ふざけ過ぎました。反省はしているが後悔はしていない。嘘、やっぱ反省もあんましてない。