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デート

 ……うん、上手くイチャつかせることは出来たと思う。思うんだけどね? 心に深い傷を負った気分だよ……。

 あ、壁は一枚千円になります。

 王都ジルティスから少し離れたところにある山。ここは、王立ヴェルム騎士学校の私有地であった。

 魔獣も多少なり現れるので、訓練に使用されることがあるのだが、普段は生徒に開放されている。

 ユウシアとリルは、デートの場所にここを選んでいた。

 生徒に開放されているとはいえ、わざわざ魔獣も出るこの山に訪れる者は少ない。魔獣が出たとしてもユウシアからすれば煩わしいだけで大した障害ではないし、それなら見られることが少ないというメリットの方を取ったのだ。

 ユウシア達は、特に問題もなく山頂に到着した。道中魔獣と遭遇することもほとんどなく、平和なものだった。まだ子供とはいえ魔獣からすれば最上位種であるドラゴンのハクがいるのだ。訓練に使われるだけあってここに出るのはそこまで強い魔獣でもないし、襲いかかる勇気はなかったのだろう。

「リル、大丈夫?」

 ここまで割とノンストップで登ってきた。少し高めの山だったので、疲れていないかとリルに問いかける。それにリルはにっこり笑って、

「はい、大丈夫ですわ。王女だからといって、運動をしていない訳ではありませんから」

「そっか、よかった。……ん、この先開けてるっぽいな」

 これまではずっと周りが木に覆われていたのだが、ユウシアの視線の先、山頂を少し通り過ぎたところは、木が少ないようで光が差していた。

「行ってみようか」

「はい」

 もう少し追加で歩き、開けた場所に到着する。

「まぁ……!」

「へぇ、これは……」

 思わず声を上げる二人。

 地面は芝生に覆われ、真ん中には巨樹が一本、ポツンと立っている。そして、そこからは丁度、王都ジルティスが見えた。

「ピクニックには丁度よさそうだ」

「はい。うふふ……お昼ご飯を作ってきた甲斐がありましたわ」

「え、お昼? 着替えにしては遅いと思ったら……」

「簡単なものしか作れなかったのが残念ですが……とにかく、早く行きましょう、ユウシア様!」

「あ、ちょっと!」

 リルは、ユウシアの手を取って木のもとへと駆け出す。手を引かれつつも慌てて追いかけるユウシア。しかしリルを追い抜かないように、ペースを合わせて走る。ただそれだけで、二人とも何故かとても楽しかった。


++++++++++


「まだ少し早いかもしれませんが……」

 リルが、持ってきていた籠を開く。その中には、

「え……これ、本当に簡単に作ったの……?」

 リルの発言を疑いたくなる程綺麗な出来栄えのサンドイッチが並んでいた。

 リルはその中から一つ取ると、ユウシアに差し出す。

「ユウシア様、あ、あーん……」

 なんて、顔を真っ赤にして言いながら。

「……え」

 ユウシアが硬直する。

 これはあれか、食べさせられなければならないやつか、と。

 しかし、サンドイッチを持ったまま動かないリルを見るに、それ以外に手はないようだ。

「……あーん」

 リルが、寂しげにもう一度呟く。食べてくれないのか、と、若干涙目にすらなっている。

「……あ、あーん……」

 覚悟を決めたユウシアは、こちらも顔を赤くしながら、リルのサンドイッチを一口齧る。そして、目を見開く。

(なんだこれ美味い超美味いもうそれしか言えなくなるくらいに美味い嘘でしょこれで簡単にとか本気で作ったらどうなるの)

 目を丸くしたまま硬直するユウシアに、リルが心配そうな顔を向ける。

「ユ、ユウシア様? どうされました? 何か変なものでも……」

「――くち」

「え?」

「もう一口」

「あ、は、はい」

 再びリルが差し出してくるサンドイッチを齧り、ゆっくりと味わって飲み込む。

「……もう一口」

「はい」

 そんなやり取りを繰り返し、最後の一口も食べると、

「もう一個」

「ふふっ、はい」

 感想は聞けていないが、ここまで来ればユウシアが何を思っているのかは分かったのだろう。嬉しそうに笑いながら二つ目のサンドイッチを差し出すリル。ユウシアはなんの抵抗もなく、そのまま食べる。もう、「あーん」が当然のようになっている。

 そして、二つ目も食べ終わり、三つ目に入ろうとしたところで、ユウシアは現実に帰ってきた。

「――はっ」

 いつの間にか籠の中のサンドイッチが減っている。リルはこちらに向かって真新しいサンドイッチを差し出しており、ユウシア自身には言いようのない幸福感と満足感が。

 察した。無意識の内に結構食べてると。

「俺だけ食べちゃってるな。リルも食べないと」

 リルはそれを聞いて、少し考えると、

「……では」

 と言って、ユウシアにサンドイッチを渡し、目を閉じて口を開く。

 これはつまり、

(食べさせろということですかマイハニー)

 ということだ。

 ユウシアは仕方ないなぁ、とでもいうように笑って、リルの口へとサンドイッチを運ぶ。

「はい、あーん」

「はむっ……ん、よかった、ちゃんと出来てますわね」

 確かめるように咀嚼して頷いたリルは、もう一つサンドイッチを取ると、ユウシアに差し出す。

 ワンモアタイム。これはつまり、

(自分で食べる気も、自分で食べさせる気もないということですねマイハニー)

 ということだ。

 リルが持つサンドイッチを食べ、彼女はユウシアが持つサンドイッチを食べる。

 そうやって交互に食べさせ合い、しばらくしてサンドイッチは全てユウシアとリルの腹の中に収まった。……いや、途中でハクがニ、三個掻っ攫って行ったので、二人と一匹の腹の中か。

「知らなかったよ……リルがここまで料理上手だったなんて。サンドイッチ一つでもここまで変わるものなんだな」

「ふふっ、愛情がこもってますから」

「リル……」

 微笑むリルに吸い込まれる。

「ユウシア様……」

 二人は、どちらともなく、ゆっくりと唇を重ねた。

 それからは、何をするでもなく、ただ木の下で、手を繋いで寄り添っていた。それだけで二人にとっては、不思議ととても満ち足りた時間だった。

 二人で走ってるだけで楽しい? 寄り添ってるだけで満ち足りる? (゜Д゜)ハァ?

 ……そうですよ想像で妄想ですよ。経験なんざねぇよこんちくしょう。

 まぁそれはそれとして、とりあえず、叫びたい。

 リア充爆発しろぉっっ!!!

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