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野次馬(?)

「まぁ、分かってたさ。分かってたとも」

 次の日、ユウシアは、自分の部屋で頭を抱えていた。

 ちなみに、今日も休日だ。しっかり週休二日らしい。

 で、ユウシアが何故そんなことを言っていたかというと。

 校内新聞(号外)に、またしてもユウシアの決闘の記事が載っていたから。わざわざ号外で(校内新聞は基本週一)出すとは……これを作った人はどれだけユウシアに注目しているのか。

 だが、問題はそこではない。ユウシアが言ったように、それについてはなんとなーく察していたのだ。さすがに号外というのは予想外だったが。

 なら問題は?

 答えは外にあった。

 ユウシアは再び外を見る。今日でもう五回目くらいにはなるだろうか。

 外にはなんと、

「こんなの予想出来る訳ないって」

 大勢の人、人、人。実際に決闘を見て、それか号外を読んで来たのだろう。耳を澄ませばそのほとんどが、「弟子にしてくれ」というようなことを叫んでいる。一階に住む生徒が何度も何度も注意しているというのに、収まる気配がない。挙句の果てに、その生徒から恨みがましい視線を感じる。

(分かった、分かりましたよ、出ますよ……どうせ卒業後には嫌でも注目されることになるだろうし……)

 何せ、第一王女と結婚するのだ。注目されないはずはない。とうに覚悟は出来ているのだ。

 ユウシアは、抑える気のないため息を吐きながら部屋を出た。たまたま廊下にいた同級生に、同情の目を向けられた。


++++++++++


 ユウシアが外に出ると。

「「「「きゃー! ユウシアくーん!!」」」」

 という黄色い歓声と、

「「「「ユウシアさんっ! 俺(僕)(私)(拙者)を弟子にして下さいっ!!」」」」

 という野太い(+一部女子の)声に迎えられた。とりあえず、忍者か武士の人出てこいとユウシアは思った。思考を放棄したとも言う。

 わーわーと騒ぐ弟子志望者と乙女達。ユウシアはその真ん中に立つと、

「すぅー……」

 大きく息を吸い込んで、

「弟子を取る気はありません! 寮生の迷惑になっています! 帰りなさーい!!」

 そう叫ぶ。

 すると、素直に帰っていく野次馬(?)。この寮に戻る者は誰一人としていない。

「え……? もしかして、男子は全員先輩だった?」

 そうなるだろう。

「若干命令口調になっちゃったけど……っていうか、後輩の弟子になりに来てたのか? プライドとか、ないのかな……」

 もちろん来ていたのはほんの一部(ただし母数が大きい)だが、プライドなんか捨てて強くなりたいのだ。そもそも最初からプライドのプの字もなかった者もいたりするが。具体的に言うと、一人称が「拙者」だったあの人とか。

 閑話休題。

 どこか呆れた表情をするユウシアに、後ろから声がかかる。

「……大変だな」

 その声に振り向くとそこには、

「ゼルト。おはよう」

「あぁ、おはよう。……まさか、ここまで影響があるとはな……」

 顔を顰めながら言うゼルトに、ユウシアは思わず苦笑する。

「俺の方にも、『槍を教えてくれ』と何人か来たぞ」

「まぁ、ゼルトの槍さばきはすごかったし……っていうか、あの人達は何を教わる気で来てたんだろう」

 ユウシアの言葉に、さぁな、とでも言うように肩をすくめるゼルト。

「ところで、ゼルトは何か予定でも?」

「あぁ、ラインリッヒ様が出かけると……護衛だ」

「あー、なるほど。大変だな」

 ユウシアは、先程ゼルトにかけられた言葉をそのまま返す。

「仕事だからな。それに、お前程ではないさ。……それじゃあ、そろそろ行く」

「行ってらっしゃい」

 ゼルトを手を振って見送るユウシア。彼の姿が見えなくなったところで手を下ろすと呟く。

「……せっかくだし、俺もどこか……いや」

 自分の部屋を見上げると、ユウシアはおもむろに口笛を吹く。すると開けっ放しの窓から飛び出す影。

「ぴぃっ!」

 ハクだ。

「ハク、いい天気だからどこか遊びに行こうか。リル達も誘って」

「ぴ!」

 ハクはユウシアの言葉に嬉しそうに鳴くと、何かを思い出したように部屋へと戻る。少しして出てきたハクは、ユウシアのマントを咥えていた。

「わざわざ持ってこなくても……あぁ、飛ぶ気ないんだな。分かった、分かったからつつくなって」

 ユウシアとハクは、軽くじゃれ合いながら女子寮へと向かった。


++++++++++


 ユウシアは、気安く女子寮に来たことを軽く――どころではなく、結構後悔していた。

 だって、また、囲まれた。

「ユウシアくんユウシアくん、これから暇かな?」

「きゃー、ドラゴン連れてる! かわいいー!」

 みたいな。女子だけでキャッキャキャッキャと騒いでいる。思わず辟易とした表情を浮かべるユウシア。

 念の為言っておくと、ユウシアはそこまでイケメンという訳ではない。それでも、“平凡”よりは上だろうが、こうも女子が騒ぐ程ではないのだ。

 なら何故こんなことになっているか。

 ユウシアは知る由もないことだが、今ここにいる者は全員、直接ユウシアの決闘を見ていた。そしてこれまたユウシアは知る由もないことだが、全員が全員、試合中のユウシアの表情に惹かれたらしい。要するに、真面目な顔が良かった、と。もちろん本気と言う訳ではないが。

 目を閉じ、無心になって嵐が去るのを待ち始めたユウシアに、助けがやってくる。

「何の騒ぎですか?」

 ユウシアを中心とした女子の輪の外から聞こえてきた声に、ユウシアは目を開ける。それと同時に、その声の方にいた女子がその場をどき、道が開く。

 その先にいたのは、

「あら、ユウシア様!」

 リルが、嬉しそうに駆け寄ってくる。さすがに分別は弁えているのか抱きついたりはしないが(普段はすることもある)、その直前くらいまで近付いてくる。

「おはよう、リル」

「おはようございます、ユウシア様。こんなところでどうされたのですか?」

「暇だし、ハクをどこかに連れて行ってあげようかと思ってさ。それで、リル達もどうかと思って来たんだけど……」

「ご一緒させていただきますわ!」

 即答である。

 しかしリルは、その直後に少し表情を曇らせると、

「……ですが、フィルとアヤさんは用事があるとのことで……」

「そっか……残念だけど、それなら」

 ユウシアは、周りに聞こえないようにリルの耳元で囁く。

「デート、しようか」

「!!」

 顔を真っ赤にし、目を丸くするリル。しばらく口をパクパクとさせた後、

「〜〜きっ、着替えて参りますわ!!」

 ピューッ、という擬音が似合いそうな勢いで、寮へと戻っていった。

 その後には、にこやかに手を振るユウシアと、彼のフードの中でウトウトするハク、そして、あっけに取られた様子の女子達が残っていた。

 これを機にユウシアとリルの関係を噂する者が一気に増えたりしたのだが、それはまた別の話。

 よっしゃぁ! 次回はイチャつかせるぜぇっ!!

 ……って意気込んでると、逆に上手く書けなかったりね。いや、ホントにあるんですよ。「こういうの書こう」って思ってると上手くいかないのに、いきあたりばったりで行くと案外上手くいくこと。

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