最初の決闘
「疲れた……」
ヴェルムによる校内の案内を終え、放課後。ユウシアは、開口一番、そんなことを呟いた。
何せ、この学校、広いのだ。とても。正確な時間は分からないが、これだけでニ時間は取ったのではないだろうか。紹介のため足を止めることが多かったことを考えても、長過ぎ広過ぎである。
ユウシアの呟きを聞いて苦笑いするリル達。と、ふと顔を前に向けたアヤが、頬をヒクつかせて、
「……ユウ君。なんか、もっと忙しくなりそうな感じだよ……?」
「え?」
アヤの言葉を聞いて顔を上げたユウシアは、それを目にした。してしまった。
敵意を最前面に押し出してユウシアを睨みつける、大勢の人を。
「え」
まさか、とユウシアが思った直後、一人の男が進み出て、ユウシアに指を突き付ける。
「フェルトリバークラス、ユウシア! グラッドクラス、ノルト・フェネスが、決闘を申し込む!!」
「えー……」
思った通りだった。
グラッドクラス。ヴェルムが言っていた。フェルトリバークラスより一ランク下の、Aランククラスだ。
ちなみにこの口上は、この学校における、正式な決闘の申し込みとして受け取られる。もちろん、決闘を受ける義務はないが……
「ノルト君といえば、Aランク首席生徒じゃないですか! いいですね。ヴェルム・フェルトリバーの名において、フェルトリバークラス、ユウシアと、グラッドクラス、ノルト・フェネスの決闘を認めましょう!」
運の悪いことに、ユウシアの後ろには、何故かヴェルムがいた。焚き付けた張本人である彼が、認めない訳がない。
「……先生。俺はまだ、決闘を受けるだなんて一言も言っていないんですが……」
「おや、そうでしたか? 残念ながらもう認めてしまったので、今から取り止めることは出来ないんですよねぇ」
ニヤニヤしながら言うヴェルム。憎たらしい顔である。
「……はぁっ」
ため息を吐いて、諦めの意を示すユウシア。ヴェルムはそれに満足そうに頷くと、
「それでは、一時間後、第三闘技場にて両者の決闘を執り行います。立会人は僕、ヴェルム・フェルトリバーです。では二人とも、しっかりと準備して臨むように」
「ハイ!」
「……はい」
元気に返事をするノルトとは反対に、肩を落とさずにはいられないユウシアであった。
++++++++++
それからおよそ一時間。
まもなく決闘。ユウシアは、闘技場の控え室にいた。
「めんどくさい」
「ユウシア様、そう言わず……」
「分かってる。ちゃんとやるさ。でも、めんどくさい」
「あっはい。頑張ってください」
「ぼちぼち頑張ります」
とは言うものの、ユウシアの顔に覇気がない。全く、ない。
「……それにしても、最初の相手はAクラストップか」
「フィル、最初のとか言わないで。この先ないことを祈りたいから」
フィルの言葉を聞いて、変なところにツッコミを入れるユウシア。目が割と本気である。
「でも、最初は同じクラスで誰か来ると思ってたんだけどなー」
と、アヤ。ユウシアは彼女をチラッと見て、
「……多分、先生のせいだよ」
「?」
ユウシアの言葉に首を傾げるアヤ。王女姉妹は分かっているようだ。
「どういうこと?」
「ほら、今日さ、先生が俺達にプレッシャーかけてきたじゃん」
「あぁ、あれ……怖かったなぁ」
「それは置いといて。俺ってさ、あの中でも割と平然としてたと思うんだけど」
「してたね」
「それが、プレッシャーでへばりそうな人からだとどう見えると思う?」
「……あー」
ユウシアの言わんとすることを察して頷くアヤ。
「確かに、力の差感じちゃうかもね」
「そういうこと。まさかの展開ではあるけど、個人的には嬉しい限りだよ」
「あはは、確かに」
アヤが苦笑する。変に焚き付けたりなんかしていたせいかヴェルムを見る度嫌そうな顔をしていたユウシアだったが、その彼のおかげで面倒が減った――いや、そんなこと全く考えていない。「そもそも、先生が変なことさえ言わなければ……」なんて呟いている。結構根に持っているようだ。
「ん」
ユウシアが顔を上げる。その直後ノックされる扉。
「時間みたいだ。ちょっと言ってくる」
ユウシアは立ち上がり、扉へと歩いていく。
「行ってらっしゃいませ、ユウシア様」
「応援しているぞ」
「頑張ってねー」
三人の言葉に、ユウシアは手を振って答えた。
++++++++++
決闘は、入学試験のときの模擬戦とは違って、真剣で行われる。もちろん、相手を殺してしまったら失格だ。ただ、致命傷でさえなければ回復魔法を使える教員がいるので治療することが出来るので、意外と思い切り戦うことが出来る。
闘技場の真ん中に立ったユウシアとノルト。
装備は自由で、ノルトはオーソドックスな片手剣、盾に、軽装鎧を身につけている。典型的な前衛型だ。バランスもよく、Aクラスともなれば、かなりの使い手であることが予想出来る。
対してユウシアは、制服の上からいつものマントを羽織り、腰には黒竜の角で作った短剣。そして、ベルトポーチの中には投げナイフと、いつも通りの装備である。
「決闘を受けてくれたこと、感謝する」
位置につくなり、ノルトはそう言ってユウシアに頭を下げる。
彼は名字を持っていた。なので貴族だろうと考えていたユウシアは、その態度に思わず目を丸くする。
(やっぱりラインクッヒみたいなのが少数派なのかな)
ラインリッヒだ。
ただ実際、あのような傲慢(と言えるかは微妙だったが)で尊大(と言えるかも微妙だったが)な貴族は、この国においては大分少ない方だ。代々の国王による意識改革の成果である。
「……僕は、本気で騎士を目指しているんだ。でも、自分の力を過信する気はない。正直、見ただけで君に勝てないのは分かる」
「それじゃあ何で決闘を?」
「何か学べるものがあればと、そう思ったんだ」
「……分かった。胸を貸そう」
「借りさせてもらう。全力で行くよ」
そう言うと、ノルトは左手の盾を前に、右手の剣を中段に構える。
「両者、準備はいいですね?」
ヴェルムの言葉に、二人は頷く。
それに頷きを返したヴェルムは右手を上げ――
「――始めッ!」
ノルト君、この決闘が終わったら出てくるかは分からない。出てくるとしたら、多分ゼルトの枠が食われてるね。さぁ、どちらを取るか。……なんか、名前似てるな……。




