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膝枕

 久しぶりの、眠くて何書きたかったのかよく分かんない。

 あ、トリック・オア・トリート! お菓子? やらんよ!

「んっ……ぅ」

 それからしばらく。気を失っていたリルが、小さく呻きながら目を覚ます。

「ユウシア、様……?」

「ん、おはよう、リル。気分はどう?」

「……はい、大丈夫です。すっかり回復しましたわ……って」

 と、復調を伝えたところでリルは気が付いた。自分が今どんな状態かに。

「え、あのこれ、もしかして……」

 今自分は仰向けに寝転がっていて、視線の先にはユウシアの顔がある。頭の下は少し硬めで――枕などではないだろう。

「もしかしなくても、想像の通りだと思うけど」

「っ!?」

 慌てて起き上がろうとするリルだが、目が覚める前から彼女の頭を撫でていたユウシアの手がそれを許さない。

「ユ、ユウシア様? あの、起き上がれないのですが……」

「休憩時間はまだあるみたいだし、それまではゆっくり休んだほうがいい」

「ですが、その……膝枕だなんて、皆様に見られたら……」

 そう、膝枕。この感触にこのアングル、それ以外には考えられない。

 そして、こんなことをしているのを皆に見られたら、確かにまずいだろう。普通、平民が王女に膝枕をするなどあり得ないし、どんな関係か疑われるのが当然だ。

 しかし、ユウシアもそれはしっかりと考えていて。

「それは平気。しっかり【偽装】してるから、今周りからはリルは普通に寝転がって休んでるように見えてるはず」

「あたし達は除き、だけどね。リル、おはよ」

 と、ユウシアに続くように会話に加わってきたアヤ。見ると、他にも事情を知っているフィルとリリアナは【偽装】の対象外になっているようだ。

「アヤさん、フィル、リリアナさん……ご心配をおかけしました」

 そう言って、寝転がりながら器用に頭を下げるリル。

「スゴいね、リル。あたし、すぐギブアップしちゃったよ」

「……本当は、わたくしもすぐにでもギブアップしたかったのですけど……王女として情けない姿は見せられませんから。結局、気を失ってしまいましたが……」

「……そういえば、姉上が気を失ってからのユウシアは凄かったな」

 と、フィルが思い出したように言う。

「あれねー。ユウ君、実は結構怒ってたよね?」

「いや、別にそんなこと……」

「フィル、アヤさん、後で詳しく」

「はいはーい」

「任せろ」

 思わずため息を吐いてしまうユウシア。そんな彼にリリアナは軽い同情の視線を向けて、

「……愛されるって、大変なのね」

「そんな哲学じみたこと……あながち、間違ってないかなぁ」

「仲睦まじくて、いいことじゃないですか」

「うわっ!? って、フェルトリバー先生……」

 いきなり現れたヴェルムに、腰を浮かせて驚くユウシア。

「ヴェルムでいいんですよ?」

「……じゃあ、ヴェルム先生。気配を消して忍び寄るのはやめて下さい。それやられると、全力で警戒してないと気付けないから……」

「……全力で警戒していれば気付けるというのが、地味にショックなんですが」

「本業なんで」

「自信あったのに……」

 なんて言って項垂れるヴェルム。と、そこでユウシアは気付いた。それどころじゃないことに。

(って、ここまで近付かれると【偽装】もさすがに……)

「あぁ、そんな『しまった』みたいな顔しなくても平気ですよ。ガイルさんに全部聞いてますから。いやぁ、いいですねぇ、青春してますねぇ」

 既に知っていたということにホッとしつつも、その言い方にイラッとくるユウシア。その表情を読み取ったのか、ヴェルムはすぐさま離れると手を叩く。

「さて、休憩はそろそろ終わりにして、説明に戻ります! 皆さん、席についてください!」

 ユウシアは、寝転がるリルに問いかける。

「リル、起き上がれる?」

「……はい、大丈夫ですわ」

「辛そうだったら、支えるから」

「ありがとうございます……んっ」

 ユウシアに支えられ、ゆっくり起き上がるリル。本人は回復したと言ったが、実際はまだ辛かったのだろう。起き上がった後も、ユウシアに寄りかかるようにして体を休めている。

「すみません、ユウシア様……」

「いいって。むしろ、もっと頼ってくれたって平気だから」

「はい、ありがとうございます……」

 そんな会話をしつつも寄り添い合う二人。気のせいだろうか、【偽装】の効果外の者からは二人の周りに何やらハートマークが……。

「お熱いわねぇ」

「いつも通りだよ。気にしちゃ負け」

 負けなのだ。

 と、そんな間にもヴェルムは説明を続ける。

「では次に、クラスについて説明しましょうか」

 そう言うとヴェルムは、黒板に大きく「S」という文字を書く。

「皆さんのクラス分けの紙にも書いてあったと思いますが、“クラスランク”についてですね。これはその名の通り、クラスの階級を表す値です。高い方から順に、S、A、B、C、D、E、F、Gの八種類。高ければ高い程、授業のランクも、生徒のランクも上がることを示します。ご存知の通り、我がフェルトリバークラスはSランククラスですね」

 それを聞いた者達の反応は、大きく三つに別れた。

 まず一つは、「当然だ」みたいな顔でふんぞり返る者達。ラインリッヒとか。

 二つ目は、「やった!」と、純粋に喜んでいる者達。アヤやリリアナがここにあたる。

 そして三つ目は、「ふーん」なんて言いながら興味なさげにしている者達。主にユウシア。

「そしてこのクラスは、一年ごとに再選考が行われます。新しくSクラスに上がってくる人もいれば、Sクラスから落ちてしまう人もいる。しかもその評価は、既に始まっています。皆さん、Sクラスに残りたいのなら、常に気を抜かないでくださいね」

 それを聞いた途端、一部の生徒が身嗜みを整え始める。早速意識しているようだ。騎士は身嗜みから気を使うのである。

「そうそう。皆さん、このクラスの建物が他に比べて豪華なことにはお気付きでしょうけど、これも当然、Sクラスだからこそです。他にも、ランクが高ければ高い程、色々と優遇される場面が出てきます。例えば、施設の優先使用権だったり、校内にあるお店で割引があったり……どうです? モチベーション、上がりましたか?」

(それが狙いか)

 ヴェルムの言葉に目を輝かせる一部の生徒を見て、ユウシアはそんなことを考える。

「……行事についてはその都度説明するとして、とりあえずはこの辺ですかね。丁度いい時間ですし、昼休憩の後、校内の案内とします」

 それを聞いて、クラスの皆はそれぞれ思い思いの場所へと移動するのだった。

 いつからユウシアが膝枕されると錯覚していた? 残念、結局ラブラブイチャイチャしてるだけだ。ほら、お菓子の代わりにこの甘さで我慢してくれ。

 あぁ、リリアナの出番増やしたかった……。だって楽しいんだもん。

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