ドス黒いオーラ
この学校の寮は、男子寮と女子寮が、合わせて十棟存在する。毎年入学生の人数は三百二十名で固定、五年で卒業し、在校生の男女比は一対一なので、丁度一学年につき一棟を使用している計算だ。
「……相変わらず、建物は大きいし部屋も広いし……凄いな」
広い、と言っても、学生のひとり暮らしには、という前提での「広い」だが、それでも日本の基準で言えば4LDKはある。
建物は十階建てで、一階につき十七部屋存在する。一部屋ずつ多いのは、念の為、ということらしい。使われることがほとんどないので、基本的には共用の物置のようになってしまうらしいが。
部屋の設備としては、先程言ったようにリビング、ダイニングに相当する部屋を含め四部屋あり、キッチン、トイレ、バスルーム完備。もちろん、俗に言うユニットバスなどでは決してない。魔石を使用しているので、火も水も自由に使えるのだ。強いて言えば、魔石を使うための魔力は自分で負担しなければならないことか。
(アヤに、多めに魔力渡しとかないとな……)
魔石を確認しながら、ユウシアはそんなことを考える。
ベッドやタンス、テーブルに椅子など、基本的な家具も備え付けだ。下手をすれば王城の家具を持ち込むことになっていたユウシアからすれば、これはとても嬉しい。
この寮自体についてだが、消灯時間や門限のようなものも存在せず、各寮には教官が一人ついているだけ。その教官も、寝るとき以外はほとんど寮にいないので、寮で問題が発生したときなども、基本的には生徒達で解決することになっている。そのために、寮生の中から寮長のようなものが選ばれることもあるらしい。
寮の近くには、生徒が自由に使える訓練場や研究施設、図書館なども存在する。どれもかなり大規模なものなので、休みの日だろうと退屈することはなさそうだ。
「――っと、これか。クラス分け」
そんなことを思い出しながら部屋の中を物色していたユウシアは、テーブルの上に一枚の紙が置いてあるのを発見する。
ユウシアはそれを手に取り、読んでいく。
「なになに……」
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ユウシア
所属クラス:フェルトリバー
担当:ヴェルム・フェルトリバー
クラスランク:S
担当より一言:ユウシア君、君との授業を楽しみにしています。
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「……いや、学園長……」
何故わざわざ、学園長自らクラスを受け持っているのか。人員不足という訳でもなかろうに。
……ともあれ、自分のクラスは分かったのだ。細かいことは考えず、とりあえずユウシアは、リル達を迎える準備を始めた。
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「……遅いな」
リル達と別れてから、もう一時間近くが経過している。寮間の距離もそこまである訳ではないので、とっくに来ていてもいいはずなのだが……。
「まさか、何かあったんじゃ……!」
と、ユウシアが立ち上がったところで、扉がノックされる。
ユウシアは飛び付くようにして玄関に向かい、扉を開く。
そこには、勢いよく開いた扉に驚いたように目を丸くしているリル達の姿が。思わずホッと息を吐くユウシア。
「……ユウシア様? どうされたんですの?」
そんなユウシアの様子に不思議そうに聞くリルに、ユウシアは苦笑しながら答える。
「いや、あまりにも遅かったから、何かあったんじゃないかと思ってさ。何もなかったならよかったよ」
「あっ……」
そう言われて、遅かったことに気付いたか。慌てて頭を下げるリル。
「申し訳ございません、ユウシア様。ご心配をおかけしてしまって……」
「リルが謝る必要はないよ。さ、入って」
「はい、失礼いたします」
ユウシアに促されて部屋に入っていくリルに、それに続くアヤとフィル。
ユウシアは三人を席につかせると自分も座って尋ねる。
「それで、なんで遅くなったの?」
「……貴族がいたのです」
「へ?」
リルの意味の分からない答えに、首を傾げるユウシア。
「今はまだ平民であるユウシア様が首席で合格されたことに、自分達は大したことも出来ない癖に文句ばかり言う無能貴族共が、何人も、何人も……」
「ちょ、リル、ストップ」
俯いて、何やらドス黒いオーラを発するリル。口調も崩れている。
ユウシアに止められた彼女は、顔を上げると、キョトンとした表情で首を傾げる。
「はい?」
(可愛い。じゃない)
そうではない。いや、それも間違いないのだが、そうではないのだ。
ともあれ、いつの間にかあのドス黒いオーラは最初から存在しなかったかのように消え去っている。
「……いや、いいよ、続けて」
「? ……分かりましたわ」
そう言うとリルは、再び少し俯いて、
「――ユウシア様を不快にするような輩は、排除しなくてはなりません」
(あれ、なんかおかしい)
「ですから私、一人一人と、お話させて頂いたのです」
(なんだ、ただの説教か――)
と、息を吐いたのも束の間。
「よかったですわ。皆様、お家が大変なことになる前にご理解頂けて」
(うん?)
おかしい。色々と。リルの笑顔が暗い。黒い。
思わずアヤ達を見ると、顔を真っ青にして震えている。何だ。何がどうしたというのだ。
アヤと目が合う。ジィっと見つめられる。その目から伝わる思いは……
(あ、うん、なんとかします。頑張ります)
とりあえずリルを落ち着かせなければならないらしい。
「リル」
「?」
ユウシアは、リルの隣に行くと、優しく彼女を抱きしめる。
何故こんなことをしたか。別に、アヤ達に見せつけたかった訳ではない。だから、そんなうざったそうな顔をしないでほしい。
何がいいのかユウシアには分からないが、リルは、こうやってユウシアと触れ合っていると、すぐに落ち着く傾向があるのだ。いつぞやは「この匂い、この感触、好き」などと言っていたので、それが関係あるのだろうか。いや、あるのだろう。
「リル。俺のためにしてくれたのは、凄く嬉しい。だけど、いくら君が王女でも、いくら君が強くても、君は女の子だ。もし、カッとなった男に襲いかかられたりしたら、リルは抵抗出来ないと思う。……だから、あまり自分を危険に晒すようなことはしないでくれ。俺は、何を言われてたって平気だから」
「ですが、ユウシア様……それでは、私の気が済みませんわ」
「……分かった。それじゃあ、もし次こんなことがあれば、そのときは俺が自分で何とかする。もう、リルの手を煩わせたりはしない。俺は、君に守られるんじゃなく、君を守らなきゃならないんだから」
「……はい、ユウシア様」
「よし」
更に強く抱き着いてくるリルの頭を、優しく撫でるユウシア。そのまま彼は、「これでいい?」と聞くようにアヤ達を見る。
その反応は、
「ユウ君の、女ったらし」
「すけこまし、というのは、こういうことを言うのだろうか……姉上限定かもしれんが」
「ひっどくない!?」
辛辣なコメントである。というか、ユウシアは決して、女ったらしでも、対リル専用のすけこましでもない。ない、はずだ。
ユウシアが思わず上げた声で周囲の状況を認識したらしいリル。顔を真っ赤にしながらユウシアから離れると、こほん、と咳払いをしてユウシアに問いかける。
「ところでユウシア様、クラスはどうでしたの?」
「ん? あぁ、忘れてた。学園長のクラスだってさ」
「あぁ、やっぱりな」
「えぇ。予想通りですわね。ユウシア様、今ここにいる四人、全員同じクラスですわよ」
「いやー、まさかあたしがユウ君達と同じクラスになれるとは思わなかったけどねー」
ということは、全員が成績優秀者として認められたということだ。王女姉妹は当然として、アヤも、魔法の扱いが高く評価されたのだろう。
「そっか。ならよかった。明日からが楽しみだな」
そのユウシアの言葉に、三人は嬉しそうに笑って答えた。
前回の最後、リル達が交わした“二言三言”の内容。
「なぁ、姉上。貴族……か? 何人か、凄い目でユウシアを見ている気がするのだが……」
「えぇ。平民なのに主席という名誉を頂いたユウシア様に、嫉妬しているのでしょう。いえ、分不相応、などと思っているのかもしれませんわね。……ふふ……人の力量も量れない無能共には、教育してあげませんと……ふふ、ふふふ……」
「リル、怖いよ……?」
ユウシアの敵が現れると少しヤンヤンしちゃうリル様でした。
……というか、今更だけど、ハーレムタグ外そうかしらん。……いや、外してきます。だって、ユウシアとリル、超ラブラブなんだもん。他入り込む余地ないでしょ。……ヒロイン候補は、いっぱいいたんだけどなぁ……。




