合格発表
それから数日。
ついに、合格発表の日がやって来た。
試験結果は数日に渡って貼り出されるのだが、大多数が初日に見に来るらしい。気になるだろうし、当然か。
そしてユウシア達も例に漏れず、初日である今日、再び王立ヴェルム騎士学校へとやって来ていた。
合格発表の場所は、学校の中庭。丁度、この間ユウシアが金髪の少女に呼び止められた場所だ。その中央に、高校や大学の合格発表よろしく看板が立てられ、合格者の名前が書かれた紙が貼られている。一応こちらの世界ではまだ紙は高価な部類に入るらしいので、王立の学校だけあって金はあるのだろう。受験料からして馬鹿高い訳だし。
閑話休題。
看板の前は、とてつもない数の受験者でごった返していた。
「うわ、やっぱ人多いなぁ」
と、余裕の表情で呟くユウシア。
「仕方のないことですわ。皆様気になるでしょうし」
「高い金を払っておいて不合格などなったら、目も当てられないからな」
これまた余裕の表情で返す王女姉妹。
そして。
「見えない……見えないっ」
ピョンピョンと跳びながら必死の形相で自分の名前を探すアヤ。仕草だけなら可愛らしいのだが、その表情が全てを台無しにしている。
「アヤ、とりあえず落ち着こうか」
ユウシアに窘められ、跳ぶのだけはやめるアヤ。しかし、未だ目を見開いて名前を探している。
「だから落ち着いてって……今探すから」
そう言ったユウシアは、【五感強化】で視力を強化し、全員の名前を探していく。
「えっと……リル・ヴィレント・ジルタ……ある」
「王女として、当然ですわね」
ユウシアの言葉に、微笑みながらリルが言う。
「それで……あ、俺もちゃんとあるな。で……フィル・ゼネキス・ジルタ……うん、ある」
「姉上が合格したというのに、落ちられる訳がない」
フィルは謎の対抗心を燃やしている。
「って、これ、五十音順になってるのか。逆から読んじゃったな。じゃあ、アヤは最初の方……」
ユウシアは言いながら首を巡らせる。
「……ごくり」
「アヤ、さすがにそれはない」
「えへへ……」
わざわざ口で「ごくり」なんて言ったアヤに、ユウシアが名前を探しながらツッコむ。緊張しているはずなのに、ボケは忘れないアヤであった。
「……アヤ」
「っ!」
確認し終えたユウシアは、名前を呼びながら振り返る。アヤは、ビクッ、と体を縮こまらせて、覚悟を決めたかのような表情に。からの
ユウシアは、そんなアヤにニコリと笑いかけて。
「おめでとう。合格だ!」
「……ほん、と?」
信じられない、というような顔で聞き返すアヤに、ユウシアは笑顔のまま頷く。
それを見て、アヤは涙を浮かべると、
「うわぁぁあん! やった、やったよぉぉぉ!」
「っと」
ユウシアに思い切り抱き着く。
どうしたものか、とリルの方を見るユウシア。彼女は、微笑みながら頷いている。
それを見たユウシアは、少し困ったように笑うと、アヤの頭に手を乗せ、ポンポンと軽く叩くように撫で始める。
視線を感じてもう一度リルを見ると、どこか羨ましそうにしていたから、フォローは後でしておくとして。
「……ほら、アヤ、皆見てるよ」
「うぅっ……でも、あたし、嬉しくて……皆で一緒の学校に通えると思うと……」
「そうだよ、皆一緒だ。何なら、今こっちを見てる人の中にもいるけど」
「……ユウ君の、いじわる」
アヤはそう言うと、どこか名残惜しそうにしつつもユウシアから離れる。
「さて」
そこで、タイミングを見計らったかのように手を叩き、注目を集めるリル。
「皆様、受験票はお持ちですね? 入学に関する書類を貰いに行きましょう」
ユウシア達はその言葉に頷くと、揃って書類を配っている建物へと向かっていく。
その道中、合格発表の仕方や、受験票という言葉に、
(なんか日本と似てるよなぁ……)
なんて、思わずにはいられないユウシアだった。
++++++++++
受け取った書類の中には、入試の点数が書かれたものもあった。
そして、こういった点数を見ると、つい比べてみたくなるのが人というもので。
「うぅ……あたし、百点満点中六十二点だよ……模試よりは上がったけど、合格ラインギリギリだよね、多分……」
ガックリと項垂れるアヤ。合格出来たんだからいいじゃない、とは、ここにいる誰も言えなかった。何故なら。
「九十三点、ですわね」
「ふっふっふ……私は九十六点だ! 姉上に勝ったぞ!」
格が違い過ぎるから。
「なっ! フィルに、負けた……」
「恋愛なぞにかまけているからこうなるのだ!」
「ユウシア様ぁ……フィルが、フィルがいじめてきますわ……」
そう言ってリルは、ユウシアに甘えるように軽く抱き着く。
「……そういえば、ユウシアは何点だったのだ?」
思い出したように問いかけるフィル。ユウシアは、書類から顔を上げて、
「ん、俺? いや、俺は……って、リル!? 何急に羽交い締めに……」
「フィル、今ですわ!」
「分かっている! 貰ったぁっ!」
「あっ、ちょっ!」
ユウシアから奪い取った書類を、リルとフィルが覗き込む。
そして。
「「なっ……」」
絶句。
「……もういい?」
「「ハッ!」」
息ピッタリだ。
「な、何? 二人とも、どうしたの……?」
意気消沈していたはずのアヤが、不思議そうに近付きながら聞いてくる。
それにリルとフィルは、声を揃えて、
「「ユウシア(様)、満点……」」
「…………」
「はぁっ……」
絶句するアヤに、思わずため息を吐くユウシア。
「はぁぁぁぁあああああーーーー!?」
アヤは、記憶を失ってから一番大きな声で叫んだ。
合格発表とか、普通に日本の学校イメージして書いてるけど、まぁ、隣合う世界っていう設定だし、似てる部分あってもいいよねってことで。
でも、今は受験番号が貼り出されるとか、あんまないんだよね。少なくとも、私が合格発表に行ったときは違いました。