そこの水色
「……ただいま」
どこか疲れた様子で、リル達のもとへ戻ってきたユウシア。それを三人は、揃って苦笑しながら迎える。
「お疲れ様です、ユウシア様」
「うん。いや、ホントに疲れた。何だあれ」
「いやいや、あたし達も驚いたけどね。ポケットに武器入れるって……物理法則とサヨナラしてるよね」
「スキルにそんなもの求めてはいけないと思うぞ」
「確かに」
フィルの発言に頷くユウシア。スキルに物理法則なんぞ求めてはいけないのだ。
「……なんか、すごい視線を感じるんだけど」
「ユウシア様、目立ってましたからね。凄く」
「そんなつもりはなかったんだけどなぁ……」
本当に、目立つつもりなど全くなかったのだ。ただ、ユウシアは考えておくべきだったのだ。ポケットから武器を取り出すことがどれだけ異常かを。
「でもまぁ、まだまだ試験は続くみたいだし、多分その内関心も移るさ。ほら、次ももう始まってるし。見た感じ魔法つか」
ゴォォォオオオウッ!!!
話していたユウシアのすぐ目の前にまで広がってきた火柱。
「「「「……………………」」」」
絶句する四人。
「……ほら、凄いこと起きた」
「……そう、ですわね」
「……うん、まぁ、確かに」
「……はは」
心なしか、元気がないのは気のせいだろうか。
やっと炎が収まると、魔法で防いだのだろう、片膝を付きながらも無傷の教官。そして彼女が見る先には、今の大魔法を放った少女が……体からプスプスと煙を上げて、倒れていた。
「えー」
知らない人ではあったが、思わず呆れの声を漏らしてしまうユウシアであった。
++++++++++
その後は大したアクシデントもなく、入学試験は終了し。結果については、後日、校内に貼り出されることとなった。その日になったら各自見に来い、ということだ。
試験が終わった以上ここにいる意味もないので、ユウシア達も帰ろうとした、その矢先。
「ちょっとそこの水色!」
後ろから呼び止め……
(いや、俺じゃないな。うん、違う)
られてない。ということにした。
アヤなんかは「反応してあげなよ」みたいな目を向けてくるが、無視だ無視。関わってはいけないとユウシアの本能が言っている。
だが。
「ねぇ無視!? あたしみたいな美少女に呼び止められて無視するなんて……あっちょっ、待って! ウソ、ホントに!? ホントに無視なの!?」
「…………」
「えっ、あの、ちょっ……ちょっと待って! えっ? あ、自分が呼ばれてると思ってないとか? ほら、そこの水色の髪の! 女の子三人と一緒で、マントを羽織ってる……え、ここまで言っても分からない!? えーと、えーと……あ、ドラゴンの子供連れてるじゃない! え!? ドラゴン!? 何で!?」
(騒がしい子だなぁ……)
「ユウシア様……」
リルまで変な目をしていらっしゃる。
だが、このまま放置すると下手をすれば泣き始めそうなのも事実だ。さて、そろそろ相手にしてやろうか、なんてユウシアが考えた直後。
「無視……あたし、相手にされてないのぉ……? うぅっ、ふぇぇぇん……」
泣き始めた。
さすがにこれには焦るユウシア。
「いやちょっ、ストップ! 分かった、悪かったから、謝るから! 頼むから泣くのだけは……!」
周りの目が痛いのだ。特に婚約者の目が。というか最早怖い。
(いやホントに怖っ!?)
なんてことを思いつつも、中々泣きやまない少女にあたふた。
それでも、しばらく必死に謝り続けるユウシア。
「……ほんと? ほんとに悪いと思ってる? もう無視しない?」
やっと顔を上げた少女。上目遣いで、未だ目元には涙が残っている。まるで小動物……なんて、普段のユウシアから思っただろうが、さすがに今はそんな余裕もなく。
「しないしない! 絶対しないから!」
コクコクと何度も頷くユウシア。
「……わかった。ぐすっ、じゃあ、泣くのやめる……」
涙を拭った少女は、立ち上がるとこほん、と一つ咳払いをすると、ビシィッ! とユウシアに指を突きつける。
「まっ、負けないからっ!!」
「いや、何が」
「とにかくっ! 負けないからぁっ!!」
「いやだから……あーあ、行っちゃった」
今日は話している途中で立ち去られることの多いユウシアだった。
「……一体、なんだったのでしょう?」
「さぁ」
いつの間にか近くにいたリルが首を傾げる。ユウシアも同様だ。
「……でも、あの子、どこかで見たような……」
そんなユウシアの呟きに、これまたいつの間にか近くにいたアヤが口を開く。
「さっき……ユウ君の後に大魔法打った子、あの子じゃなかった?」
「あー……あぁ、そうだ、確かに」
金色の髪をツインテールに纏めた少女。確かに、あの大魔法を放ったのもそんな子だったはずだ、とユウシアは思い出す。
「……でも、負けないって、何がだろう」
首を傾げるユウシアに、フィルが言葉を返す。
「さぁ。ユウシアは魔法を使えないのだし、魔法で、という訳でもないだろうがな」
「まぁ、それはそうだけど」
「ですが、あれだけの魔法を使えるのなら、筆記試験が余程悪くない限り合格出来るはずですわ。いずれ、また会うこともあるでしょう」
「……そうだな。そのときに聞けばいいか」
「えぇ」
それに、結果発表のときに会うこともあるかもしれない。あるいはそちらで聞いてもいいだろう。
そう考えたユウシアは、あの少女についてはとりあえず置いておいて、王城に帰ることにした。
水色。
まぁ、それはさておき。ツンデレの代名詞、金髪ツインテールですよ! まぁ、デレが来るかは分からんけども! そもそも、ツンデレとか上手く書けるか分からない!!