実技試験
スゴートさんのキャラ変更。
いきなり姿を消したユウシアを前に、スゴートは驚いたような顔をしつつも、特に何か行動を起こす素振りは見せない。あくまでこれは試験であり、受験者の実力を見ることが目的なので、開始後しばらくは基本的に防御に徹することになっているのだ。
ユウシアはそんなスゴートを見ながら、勝ち筋を考えてみる。
(うーん……訓練用の木剣だから、毒とか塗っても意味ないんだよなぁ)
そう。試験に使われる武器は、種類こそ豊富にあったが、全てが殺傷力を持たない木製のものだったので、ユウシアの持つ木短剣も、相手に傷をつけることが出来ない以上、毒を塗っても大した意味がないのだ。一応、皮膚の上からでも効果のある毒もない訳ではないのだが、皮膚に浸透するのに時間がかかるので、そちらも無意味になってしまう。
(こんなことなら、もう少し威力のある重い武器にしておくべきだったか……いや、これが一番使い慣れてるしな。うん)
そんな理由で自分を納得させてから、ふと気付く。
(そういえば、これ模擬戦なのか。じゃあ、真剣だったら決着が付いてるような状況に持っていけばいい訳で……)
「なら、行けるな」
そう小さく呟いて、ユウシアは限界まで速くスゴートへと向かって走る。そのまま、彼の背中、丁度心臓の位置に短剣を突き立て――
「うおっ!」
「っ!?」
スゴートは、何を思ったかいきなりその場を飛び退く。外れるユウシアの攻撃。
「……よく、気付きましたね」
少し目を丸くしつつも、ユウシアがそう声をかける。
スゴートはそれに頭を掻きながら、
「いやぁ、完全に直感だけどな。気付かなかったら普通に負けてたわ」
直感で回避されては堪らないが、まぁ、中には野生の勘のようなものを持つ者もいるのだろう。それに、もしかするとそういうスキルを持っているのかもしれないし。
「……なら、悟られても回避出来ないような攻撃を……」
「させねぇよ!」
ユウシアの言葉を遮り、とてつもない速度で突っ込んでくるスゴート。振るわれた剣を、ユウシアは飛び下がりつつ短剣で防ぐが、勢いを殺しきれずたたらを踏んでしまう。間髪入れずに叩き込まれるスゴートの連撃。ユウシアの初撃を見て、手加減をやめたか。
「っち!」
抜け出す隙のない剣撃の嵐に、ユウシアが思わず舌打ちする。
だが、この場から離れる方法がない訳でもないのだ。単純なゴリ押しになるので、ユウシアのスタイルとは合っていないが。
スゴートの次の攻撃が来る場所を、【完全予測】で知り、その剣の横っ腹に短剣を当てる。【集中強化】で強化済みの腕力により、スゴートの剣の軌道が大きく逸らされる。
「なっ!」
いきなり上がった力に、驚きの声を上げるスゴート。今までは自分が力では勝っていたのに、力の入っていなかった向きにとはいえ、いきなり弾き飛ばされたのだ。それは驚きもするだろう。
その隙にユウシアは、スゴートから大きく距離を取る。
「……いきなり戦闘スタイルが変わったな。何があった?」
「いえ、別に変えたという程じゃ……いや、そうか」
スゴートの言葉に、ユウシアが何かを思いついたように呟き、少し何かを考えるようにする。
「……うん、そうだな。そうしよう」
言いながら一つ頷いたユウシア。外からは見えないが、前髪に隠れた紋章が、いつの間にか赤く染まっていた。
ユウシアは短剣を投げ捨てると、ポケットから今度は大剣を取り出す。
「ハァッ!?」
常識的に考えてあり得ないその光景に、スゴートがユウシアのポケットを指差して口をパクパクしている。心なしか、いや、普通に会場がざわめいている。
「お、おま、それ、何が、どうなって」
未だにショックから復帰していないスゴート。
それにユウシアは、あっけらかんと答える。
「いえ。武器を何種類か持っていってもいいか聞いたら、構わないと言われたので。あ、これはこういうスキルなんです」
続けてユウシアは、「ほら」なんて言いながら、ポケットから次々に武器を取り出していく。シンプルな直剣、細剣、曲刀、鎚、槍、斧――とにかく、色々だ。
「そ、それを、全部扱えるってのか……?」
「まぁ」
大したことないように答えるユウシアだが、実際は大したことどころではない。器用貧乏になってしまっては元も子もないが、もしあらゆる武器を平均以上の水準で扱えるのであれば、それはどんなことでも出来るということ。物騒な話ではあるが、戦争なんかが起きたときも、有用なんてものではないのだ。それにユウシアに至っては、あらゆる武器を世界トップレベルで扱えるのだから、もうなんというか、もう。
閑話休題。
乾いた笑いを浮かべるスゴートは、一つ提案をする。
「なぁ、ユウシアとか言ったか。試しにそれ全部で、俺と打ち合ってみてくれないか。一合ずつでいい」
「……はぁ。まぁ、いいですけど」
そして、全武器で打ち合った(弓なども混じっていたので正確には全てが全て打ち合った訳ではないが)結果。
「よし。ユウシア、合格!」
「いや、何でそうなる」
ビシィッ! と指を突きつけながら声を上げるスゴートに、ユウシアが冷静にツッコむ。
「いや、だって武器の扱い超上手いし。俺より上手いんじゃないかって自信なくしそうになったぞ。っていうか、もうここ通う必要なくないか?」
「え、通うために来たんですけど。通う理由は別にありますし」
「ふむ、そうか。まぁ、理由についてはどうでもいいんだがな。せめて、俺みたいな教官、講師の心を折らないようにだけしてくれ」
「いやだから、なんで合格する前提で話が進んでるんですかっておーい」
ユウシアの言葉の途中で去って行ってしまうスゴート。ユウシアは色々と諦めた。
なんかちょっとふざけてた気がするけど。気のせいです。