旅立ち
ラウラに全てのスキルを教えてもらったユウシアは、疲れたようにテーブルに突っ伏す。
「何でか知らないけど、すっごい疲れた……」
「結構インパクトの強いスキル達でしたからね」
「だよなぁ」
軽くため息を吐いたユウシアは、そうだ、と呟きながら顔を上げる。
「これで、さっきの謎が解けたな」
「謎……? あぁ、ユウさんが入ってきた時のことですね」
先程ユウシアが部屋に入った時、普通ならそれに気付くはずのラウラが見向きもしなかった。その原因は、
「うん。【隠密】を無意識に使っちゃってた、とかだろうな」
「はい。私もそう思います」
ユウシアの言葉に頷くラウラ。と言うよりも、それ以外に思い付く原因がない。
「……さて」
体を起こす。
「これでスキルも手に入れた訳だし……そろそろ、ここを出ることになるのか」
「……そう、ですね」
沈鬱な表情になるラウラ。若干俯いてしまう。
それを見たユウシアは、身を乗り出してラウラの手を取ると、まっすぐと彼女の目を見つめる。
「ラウラ。確かに俺も、君と離れるのは寂しいさ。でもそれは、覚悟していたことだし、ラウラだって、分かってはいたはずだ。それに、これで最後って訳じゃない。俺だって、またここに戻ってくるつもりだし、他の“神域”でも会えるかもしれない。だから、そんな顔しないでくれよ。せっかく決めたのに……揺らいじゃうじゃん」
そう言って微笑むユウシア。ラウラは、上唇で下唇を隠すようにしながらゆっくりと頷き、何かを思いついたように顔を上げる。
「ラウラ?」
「ユウさん。出るのであれば、明日まで待って頂けないでしょうか? “本体”の方で、レイラと話がしたいのです」
「妹さんと? それは別にいい――っていうか、元々明日出発の予定だったけど、急にどうしたの?」
「ふふふっ、内緒、です」
ユウシアの質問にウインクしながら答えるラウラ。ユウシアはそれに一瞬見惚れつつも、調子が戻ったようでよかった、と安心する。
「それではユウさん。今日は誕生日ですから、昼食も夕食も頑張って作りますから、楽しみにしてて下さいね!」
「うん、楽しみにしてる……あっ」
ユウシアは、ラウラの手を握りっぱなしだったことに気付き、顔を赤くしながら慌てて離すのだった。
++++++++++
翌日。
ユウシアはあの後、自身のスキルの確認をして過ごしていた。ちなみに、【集中強化】に関しては、身体能力上昇系のスキルではあるものの、時と場合によって強化箇所や強化度合いが変わることもあり、慣らしても仕方ないと判断してあまり使ってはいない。
そして今は、旅に出るため、荷物をまとめているところである。
「とりあえず換金用に魔石とか魔獣の素材とかは持っていくとして……せっかくだから狩猟道具とかも持って行きたいよなぁ……」
ユウシアは、さして大きくもないリュックサック(のようなバッグ)に、旅の資金になりそうなものをホイホイと詰めていく。明らかに容量オーバーしているのだが、【収納術】の恩恵は絶大である。
そして、苦労して作った狩猟道具の数々。旅の途中の食料調達にも使えるし、何より自作した分少し愛着が湧いている。持って行こうか、いやでもさすがに入らないか、などと考えていると、
「とりあえず入れてみたらどうですか?」
というラウラの声が。
それを受けてユウシアは、とりあえず一番小さい(といってもリュックの入り口より大きいが)ものを入れてみる。吸い込まれるように入っていく狩猟道具。
それに味をしめたユウシアは、もう少し大きな物を入れる。入る。もう少し大きく、もう少し大きく……と続けるうちに、いつの間にか残った狩猟道具は一つに。
「おぉ、結構入ったな。でも、これは……」
「確か、森の真ん中に居座っていたジャイアントタートルを倒すために作った物でしたっけ……」
「うん。それ以来、一回も使ってない――っていうか、使う機会がなかったんだけど」
見上げる程の巨体を誇るそれは、言ってしまえば砲台。それも、弾ではなく、槍を射出するための物。これを更に超える大きさのジャイアントタートルの硬い甲羅を貫くため、ユウシアが必死に造り上げた、言わば兵器である。さすがに旅の途中で使うには用途が限られすぎるが、手間暇かけた分愛着も一入だ。
「出来れば持って行くだけ持って行きたいんだけど……それっ」
そんな気の抜ける掛け声とともに、リュックの開いた口めがけて砲台に付いた車輪を転がすユウシア。ちゃんと踏みつぶさないようにだけ考えられたそれは、リュックに触れることはなく、しかし、リュックの口付近に来た時にユウシアが「入れ!」と念じてみると――
スポッ。
「「へっ?」」
見事に同期するユウシアとラウラの声。顔を見合わせ、もう一度、砲台があったはずの場所を見る。
「……さっき、砲台がリュックに吸い込まれたように見えたんだけど、俺の見間違い?」
「……いえ、私にもそう見えましたが……」
恐る恐るリュックに近付き、持ち上げるユウシア。散々物を入れたというのに、リュックのサイズ相応の重量しかない。
リュックの口に手を突っ込み、何かを掴むと、一気に引っぱり出す。
ズドンッ!
出てきたのは、砲台。
「……」
「……」
「……ラウラ」
「……はい」
「確か、【収納術】の収納量って、魔力依存だったよな?」
「そのはずですが」
「俺さ、まだ魔法関連のこと何も調べてない気がするんだけど……ラウラ、調べられる?」
「あっ、はい。出来ます」
「ちょっとお願い」
頷いたラウラはユウシアに近付き、その額に触れる。
目を閉じ、集中するラウラ。しばらくして目を開ける。
「……えっと、魔法そのものの適性は、驚く程ありませんね。多分、全く使えないと思います」
「……マジで?」
「マジです。ですが……魔力が、常人の五十倍は、軽く超えてるかと……」
「宝の持ち腐れじゃん! って、ちょっと待って、五十倍!? 多過ぎない!?」
ユウシアのツッコミが迸る。
「はー……そりゃこんなに入る訳だよ……」
「あはは……」
納得した風のユウシアに、乾いた笑いをこぼすラウラ。
「……じゃ、気を取り直して」
再び砲台をリュックに収めると、上着を羽織って、それを背負うユウシア。そのままラウラを振り向く。
「……それじゃあラウラ」
そのまま別れの言葉を告げようとした、その時。
「お別れなんかしませんよ?」
「え?」
ラウラの言葉に、意味が分からない、というように聞き返す。
ラウラはそれに微笑で答え、ユウシアの前髪を上げると……そのまま、額に口付けをした。
「!?」
驚きに身を硬直させるユウシア。
唇を離したラウラが微笑む。するとその直後、彼女の体が制御を失ったように崩れ落ちる。
「ラウラっ!」
慌てて支えるユウシア。しかし、ラウラは目を閉じたまま、身動き一つしない。
「これは、一体どういう……」
混乱のあまり、頭が回らない。
と、そこへ、どこからが声が。
『慌てないで下さい、ユウさん』
「ラウラ!? どこから!?」
目の前のラウラの体は、相変わらず目を閉じたまま。口を開いてはいない。
そこへ、ラウラのクスクスと笑う声が聞こえる。
『ユウさん、貴方の中です。ファナリアの神であるレイラに、私がユウさんの中に宿ることを許可して貰ったのです』
「ラウラが、俺の中に、宿る……?」
『はい。会話こそ、ここ、神域等の特別な場所でなければ出来ませんが、私は貴方の中にいます。ずっと一緒ですよ、ユウさん』
「……何か、変な気分だ」
『ふふっ、そうですね』
二人して笑い合う。
残ったラウラの体が光に包まれ、分散し、ユウシアの額――ラウラにキスされた場所へと集まっていく。この時、ユウシアには見えなかったが、額に、ラウラの本体が持っていた天使のような翼を象る紋章が刻まれていた。
ユウシアは立ち上がる。
「それじゃあ、行こうか」
『はい、ユウさん。貴方の中から、ずっと見守っています』
そうして彼等は、旅に出る。
なんていうか、ここまでをプロローグにした方がいいんじゃなかろうか……。あぁでも、転生前ってことでプロローグとしては多分いい区切りになったしなぁ……。どうしよう、悩むなぁ……。