それから
前半、超説明。我慢してね。
――それから一週間が経ち、その間に色々なことが決定した。
まず、ユウシアとリルの婚約に関しては、しばらくは秘匿されることとなった。
理由は二つ。
まずは、地盤が固まっていないこと。具体的には、ユウシアの身分的な問題が大きい。貴族位、もしくは騎士団か何かの国直属の組織の中で高い地位に上り詰めなければならないのだ。
本当のことを言えば、国王であるガイルに「黒竜を討伐して街を一つ救って、更に第一王女の命を二回も救えば、貴族位を与えるには十分だと思うぞ」などと言われたので、この問題はほぼクリアしたようなものなのだが。
もう一つは、ユウシア自身の意思だった。当初の予定通り、学校を卒業してからにしたかったのだ。
プロポーズが半ば勢いだったことは否定出来ないので、改めて心の整理をしておきたかったのと、学校に通っている間にリルを受け入れる準備をしたかった。
さすがに、無収入で第一王女を嫁にもらう訳にもいかない。何かしら職を得るか、そうでないにしても稼ぎ口を探しておく。貴族になっても領地の運営をする気など更々ないユウシアにとっては急務である。
それに伴い、ユウシアが学校に通う間に、国内の有力貴族達に、彼らの結婚を認めるようにとガイルの方も働きかけるようだ。
よって、卒業後、学校で高い功績を残したのであればそれも合わせて貴族位を授かり、それと同時に結婚について発表することとなった。
次に、今回の事件についてだ。と言っても、主にセリックの処遇だが。
まず最初にセリックは、ギール同様記憶を失っているようだった。オーブが強く出ているときのものだけなので、ユウシア達のことは覚えていたが。
まぁもちろんオーブのせいだし、あの事件自体セリックの意思ではないので、本来なら死刑確実なところをユウシアは、『魔法で操られていた』としてなんとか騎士としての地位剥奪と数年の懲役にまで落とし込んだ。頑張った。
ちなみに、大体ラウラの要請だ。神々の事情に人間を巻き込む訳にはいかないとかうんたらかんたら。「だったら俺はどうなるんだ」というユウシアの質問は華麗に無視された。
そして最後、自分の偽者と戦っている途中に様子がおかしくなったユウシア自身だが。
「だから、気にしなくていいって」
「うー、でも気になるんだよ。あたし、なんか避けられてた気がするし……もしあたしが何か悪いことしてたらって思うと……」
「いいんだよ、全部俺の事情。むしろ、変な態度取っちゃって、こっちが謝りたいくらいだから」
少し申し訳なさそうに言うユウシアを、アヤは上目遣いに見る。
「……そう?」
「そうそう」
「……分かった。じゃあ、気にしない。……でも、何かあったら、迷わず相談してね? あたし、出来るだけ力になるから」
ふんす、と張り切るアヤに、ユウシアは思わず苦笑してしまう。
「あ、もちろん、恋の相談もオーケーだよ?」
続いて出てきた言葉に、一昔前のお笑い番組か何かのようにズコッ、とこけるユウシア。アヤがニヤニヤしているのを見て、これはまずいと直感的に悟る。
「ふふふ……そうだね、まずはデートプランを立ててあげようか。もちろん最後はホテ」
「さぁてそろそろ勉強でもしようかなぁっ!」
ガタッ! と大きな音を立てて椅子から立ち上がるユウシア。そのまま今度は、ジトッとした目でアヤを見る。
「……っていうか、アヤの方が勉強しないとマズイんじゃない? 入試、受けるんでしょ?」
「うぐっ」
呻き声を上げるアヤ。
何だかんだで半月後に迫った入学試験だが、アヤもいきなり受けると言い出したのだ。彼女はあまり成績がよろしくないようなので、ユウシア以上に勉強しなければならないのだが……どうにも、サボり気味なようで。
「お願いユウ君、勉強教えて!」
顔の前で手を合わせ、そう懇願してくるアヤ。
「えー」
「いいじゃん、ユウ君頭いいんだし! 教え方も上手だし! っていうか、ユウ君ならもう合格余裕でしょ? 模試も満点取ってたし……」
「確かアヤは、百点満点のテストで四十点くらいだっけ」
「四十三点ですー!」
「大して変わらないでしょ。平均点、六十五点だよ? 本当に平気なの?」
「平気じゃないから教えてって言ってるんだよう!」
若干涙目になっているアヤを見てさすがに可哀想になってきたユウシア。「仕方ないなぁ」と言って教本を取りに行こうとしたところで、扉がノックされる。
「ユウシア様、リルですわ」
「ん、開いてるよー」
扉が開かれると、リルだけでなくフィルもいるのが見て取れた。
「どうしたの?」
「いえ、面白そうなお話が聞こえたものですから」
クスクスと笑いながら入ってきたリルは、そのまま椅子に腰掛ける。フィルも同様だ。
「ユウシア様」
「ん?」
教本を取ってきたユウシアも椅子に座ると、リルが声をかけてくる。
「私とフィルも、学校に通うことになりました」
そう言ってくるリルに、ユウシアはちらと目を向けて、
「ふーん」
と、興味なさげに答えてから。
「……え? ……えぇ!?」
腰を浮かせて、驚きを顕にする。
「ですので、ユウシア様」
リルは再び笑って、
「私達にも、教えて下さいます? ……特に私には、手取り足取り」
「欲望丸出しだよ!!」
「姉上はまたそんなことを……」
「ふふふっ、ユウ君とリルが一緒にいると面白いね」
「こっちは疲れるんだけどな……」
「あら、ユウシア様。将来の妻に向かってそのようなこと、言うものではありませんわ」
「そういうことをさらりと言っちゃうあたりが疲れるって言ってるんだけど」
ニコニコと笑うリルに、ユウシアは思わずため息を吐く。その顔には、困ったような、しかしどこか楽しそうな笑顔が浮かんでいた。
これにて第二章は完結! 次は登場人物紹介……と、行きたいところだけど、ほとんど新登場の人いない……三人くらい? モブすらほぼいないよ。……ま、いいか。どうせ二話同時投稿だし。あー、おまけ何書こっかなー。