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不意打ち

「ん、ぅっ……」

　勢いでリルにキスしてしまったユウシア。なんでこんなことしたんだと疑問に思いつつも、ここまで来たならとこれでリルが正気に戻ってくれることを祈る。

「……ん？」

　そして、やがて。

「…………んんっ！？　んっ！　ん〜っ！！」

　目を丸くしながらユウシアの肩を軽くペシペシと叩くリル。

「――ぷぁっ」

「んふっ……ユ、ユウシア様、何を……」

「……えーっと」

　何を言うべきか迷ったユウシアは、複雑そうな笑顔を浮かべながら手を上げて、

「リル、おはよう？」

「状況説明を求めますわ」

「はい」

　ムスッとした表情を見せるリルにあっさりと屈していた。

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「そうですか、そんなことが……」

「覚えてないの？」

「近くで大きな音が鳴ったことは覚えているのですが、そこからは……」

「なるほど」

　そう言って頷くユウシアを見て、リルは頬を薄っすらと染めながら笑う。

「……また、ユウシア様に助けられてしまいましたわね」

　全身から「恋してますよ」オーラを発するリルに、ユウシアは思わず苦笑してしまう。

　リルはそんなユウシアには構わず、彼の胸に頭を預けると、そのまま、二度と離さないとでも言うように強く抱き着く。

「ユウシア様、私（わたくし）の騎士（ナイト）……必ず、私（わたくし）を救ってくれる」

「……うん、助けるよ。いつでも、どこにいても、何があっても、必ず。どれだけの困難が待っていようとも、君を絶対に救い出す」

「ふふっ……」

　リルはその言葉に、嬉しそうに、しかし少しおかしそうに笑う。ユウシアは彼女を見て恥ずかしそうに頬をかくと、

「……なんて、少し気障だったか？」

「いえ、そんなことはありませんわ。とても安心出来ますし、とても格好いい。何度でも惚れ直してしまいそうです」

「なら良かった……のかな？」

　ユウシアは、再び苦笑する。何とも恥ずかしい台詞をあっさり言うものだ、と考えてから、自分も気分が高揚していることに気付く。

「……リル。一つだけ、いい？」

　本当は、こんな状況で言うことではないのかもしれない。

「？　はい、いくらでも」

　だが、媚薬（クスリ）の力を借りないと言えそうにない。

「……俺は」

　自分をよく知る人にも言われたことだった。自分自身にすらも、言われたことだった。ユウシアはそれを何故か否定し続けていたが、理性のタガが若干外れかけているせいだろう、その事実に納得している自分がいた。

「リル。俺は君が好きだ」

「……え？」

　思ったよりもすんなり出てきたその言葉。リルがポカンと口を開ける中、ユウシア自身も少し驚いていた。

　だが、ここまで来れば後はもう勢いで。

「結婚して欲しい」

　自分の胸の中にあるリルの顔にまっすぐ目を合わせ、そう告げる。

　言った。言い切った。言ってしまった。言ったあとになって、とてつもない羞恥心がユウシアの中を支配する。

　しかしユウシアはそれを必死に抑え込み、尚もリルの目を見つめ続ける。

　やがて、状況が飲み込めていないようだったリルは顔を真っ赤にすると目を伏せて、

「……不意打ちは、ずるいですわ」

　そんなことを呟いて、再び顔を上げる。

　改めて見えたその顔には、花が咲いたような笑顔が浮かび、目元には若干の涙があった。

「ユウシア様、私（わたくし）は、ずっとその言葉を、お待ちしておりました……！」

　もう一度、今度はリルから唇を合わせる。

　これまでの二回よりずっと短めのそれを終えると、リルは先程よりも更に強くユウシアを抱きしめる。

「……リル、少し、苦しい」

　困ったように笑いながら、しかし少し恥ずかしそうにしながら言うユウシア。

「少しだけ……少し、だけ……我慢、して、ください……」

　リルの言葉に少しだけ嗚咽が混じっているのに気が付き、彼女の頭を優しく撫でる。

「うっ……うっ、あ、あぁぁあん……！」

　何故泣いているのかなど、疑問には思わなかった。これまで見せていたユウシアへの好意を考えれば、先程の告白が彼女にとってどれだけ大きなことだったのかは想像に難くない。

　むしろユウシアの中は、今まで応えられなかったことに申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

「……遅くなって、ごめん」

　リルは、そのユウシアの言葉に首を横に振る。

「ぐすっ……いえ、ユウシア様に、悪いことなど、一つもありませんわ」

「……そっか」

　ユウシアはそうとだけ返すと、覚悟を決めてリルの体を離す。

　不思議そうな顔をするリルを見てユウシアは、

「……ほら、歯止めが効かなくなりそうだから……色々と」

　媚薬のせいで。さすがにそろそろキツいようだ。

　リルもそれに気付いたのかあっ、と声を上げると、顔を赤くしてユウシアの隣に座り込む。

　気を取り直すように自分の頬を叩いてから、解毒薬の調合を再開するユウシア。リルは何が楽しいのか、そんな真面目な表情の彼を見てニコニコと笑っている。……いや、単に浮かれているだけかもしれない。

「――よし、とりあえず出来るところまでは完成っと」

　と、顔を上げて額に浮かんだ汗を拭うユウシア。そして丁度そのタイミングで、

「ユウくーん、薬草持ってきたよー！」

　アヤとハイドが同時に戻ってくる。

「あっ、リル、目覚めたの！？　よかったー！」

「ふふっ、ありがとうございます、アヤさん」

　笑い合う女子二人。だが、ユウシアとリルを同時に視界に収めたアヤが、ピタリと動きを止める。

　続いてアヤの顔に浮かんだのは、ニヤニヤという憎たらしい笑顔。

「あれれー？　ユウ君とリル、いつの間にそんなベタベタするようになったのー？」

「「っ！！」」

　勢い良く離れる二人。アヤの矛先はリルに向かうも、ユウシアの方に近付いてくる影が。

「……おい、貴様」

「ひゃいっ！？」

　ハイドだ。

「変なことはしないと、そう言ったな？」

「はい、間違いなく！」

「ならば、あれはどういうことだ？」

「……えぇと」

　ユウシアは一瞬言葉に詰まるも、義兄になる訳だし、筋は通さなければいけないと思い。

「……告白、というか、プロポーズ、しました」

「……ほう」

　ハイドはしばらくユウシアを眺めると、

「まぁ、いい。お前になら安心して任せられる」

　そう言って小さく頷く。

「っ、ありがとうございます！」

　バッ！　と勢い良くお辞儀するユウシア。普通、兄より父にやるべきではなかろうか。まぁ、あの国王ならあっさり認めそうだが。そもそも提案者だし。

「……だが」

　ハイドは再び声のトーンを落とす。

「もし妹を泣かせるようなことがあれば、そのときはどうなるか……分かるな？」

「はい、絶対にしません！」

「ならば良い」

　そう言うと薬草を手渡して離れていくハイド。

「……隠れシスコひぃっ、ごめんなさい！」

　鋭く睨まれ、身を震わせる。

　そこには、先程までの思い詰めたような様子は、微塵も感じられなかった。

　あっぶねサブタイ「プロポーズ」にするところだった。ネタバレもいいところだよ。

　……あれ？　そもそも、ユウシアにプロポーズなんてさせる気あったっけ……？　いや、あった。あったはず。

　でもあれだね、超ハッピーエンドな感じだね。アニメとかならまず間違いなく最終回。いいことだ。あ、本作はまだまだ続きますよ。