解毒薬
え? 福袋? 開始数十分で売り切れって言われましたけど何か?
……あれ、始発とかで行かないと間に合わないんかね……無理だよ。
まぁいいんです、色々収穫はあったから。ムフフな感じの本とかムフフな感じの本とか。まるはだかですよ、すぷらっしゅですよ!
……はい、落ち着きます。どっちかというと活動報告に書いたほうがよかった内容かもですね。しないけど。
この部屋に、出入り口を除いて唯一存在する扉。
頑丈な金属製の物だ。当然、鍵は閉まっていた。
ユウシアは、右腕に【集中強化】を施し、短剣の力で炎による推進力まで得て、全力で殴る。
しかし、扉はビクともしない。
「なっ……!」
ちょっとした金属程度なら、突き破る威力があったはずだ。ユウシアは驚きのあまり絶句する。
「ユウ君、どいて!『繋ぐは炎、炎の精霊。汝、今ここにて力を開放せよ。全ての障害を吹き飛ばせ』〔フレイム・エクスプロージョン〕!」
ユウシアが大きく飛び退ったところで、扉の目の前で起こる大爆発。
しかしそれでも、扉は若干焦げ跡を残すのみで歪みすらしない。
「おおおッ!!」
裂帛の気合と共に、ハイドが双大剣を全力で振るう。しかし、大剣の方が吹き飛ばされてしまう。
「どうなってるんだ……」
ユウシアは言いながら、【鑑定眼】を使用する。
その結果は、
「アダマン、タイト……」
「アダマンタイト……だと? 世界最硬とも言われる金属だぞ」
ユウシアが漏らした呟きに、ハイドが反応する。
世界最硬ともなると、破壊は不可能か、とユウシアが鍵穴を見るが、魔力も併用する特殊な鍵が使われているようで、ピッキングは出来そうもない。
「クソ、どうしたら……」
悔しそうに歯噛みするユウシア。
『ユウさん! さっき手に入れた力を使ってください!』
「あ、そうか!」
ラウラの言葉に思い出したように顔を上げたユウシアは、おもむろに手を前に突き出す。
「〔殲滅ノ大剣〕」
ユウシアの手の前に赤い光が凝縮し、形を成す。そこに現れたのは、セリックが持っていたものと似た、しかしそれよりも更に巨大な赤い大剣だった。
この大剣は、オーブそのものだ。全てのオーブは、このように武器などに変化することが出来る。今回はセリックが大剣として使っていたためユウシアが使うときも大剣となったが、まだまっさらなオーブであればある程度武器の種類を決められるだろう。
ユウシアは、女神の力でより強力になった大剣を大きく振りかぶり、アダマンタイトの扉に思い切り叩きつける。
ドッゴォォォオオオオオン!!
大きな音を立てて吹き飛ぶ扉。
『これが、“水晶武装”の力ですか……』
ラウラが驚きと感心が綯い交ぜになったような声を出しているが、ユウシアにはそんなことはどうでもよかった。
「リルッ!」
大剣を放り投げるようにして消し、ユウシアは駆け出す。質素な部屋の真ん中に無造作に置かれたベッドで眠る、リルのもとへ。
彼女は、朝見たときの格好のまま、額に汗をびっしょりと浮かべ、顔を赤くして眠っていた。
「媚薬……」
そんなことを、セリックは言っていた。
相当に強力なものらしいので、こうして眠っていても体が火照って辛いのだろう。苦しそうな表情をしている。
ユウシアは何を思ったか立ち上がると、辺りを見回して、隅に置いてある机へと向かう。
その引き出しを片っ端から開けて取り出したのは、何やら液体の入った瓶。
「ユウ君、それって……」
アヤの言葉には答えず、ユウシアは瓶を開けると、中の液体をほんの少しだけ舐める。
それから、目を閉じて何か考えるようにしていたユウシア。目を開けると、ベルトポーチから草らしきものを何種類か取り出す。
その草を見たユウシアは、紙とペンを取り出して何やら書き、二枚のメモをそれぞれアヤとハイドに渡す。
「……これは?」
訝しげに聞いてくるハイド。
「これから、リルに使われている媚薬の解毒薬を調合します。いくつか薬草は持ってきていたのですが、これらが足りません。二人には、このメモに書いてある薬草を調達してきて欲しいんです。アテは大体書いてあります」
「薬を舐めただけで、解毒薬の調合に必要な素材が分かったというのか?」
「職業柄、必須なスキルです」
ハイドはあっけらかんと答えるユウシアに呆れたような目を向けてから、その表情を真面目なものに変える。
「お前は、どうする気だ?」
「……彼女を、一人にする訳にはいきませんから。誓って、変なことはしません」
「……分かった、信じよう。すぐ戻る」
頷いたハイドは、そう言って部屋から出ていく。
「あたしも、行ってくるよ」
「うん、よろしく。ハク、アヤに付いていてあげて」
「ぴぃっ!」
アヤとハクも部屋から出て、残されたのはユウシアと眠るリルの二人だけ。
ユウシアは安心したように息を吐くと、ベッドに背を持たれさせて座り込む。
「はぁっ、はぁっ……キッツ」
たった一舐めではあったが、媚薬の効果が出ているようで、体が火照って仕方ない。興奮が止まらない。ユウシアが薬草の調達を二人に任せて自分だけ残ったのは、この状態では行動が出来ないと考えたというのもあるのだ。
「……でも、出来るだけのことをやらなきゃ……」
ユウシアは重たそうに体を起こすと、必要な薬草を手に取る。現時点で調合可能なところまで進めておくつもりなのだ。
解毒薬の調合は、ミリグラム単位での調整を必要とする繊細な作業。少なくとも、今回の解毒薬に関してはそうだった。分量を間違えれば、むしろ症状を悪化させてしまう可能性もある。
精神を研ぎ澄まし、これまででも一、ニを争うほどに集中しながら調合を進めていくユウシア。
と、そこへ。
「っ!?」
背中に何やら重みが。危うく分量を間違えそうになる。
「ユウシア様ぁ……」
後ろから抱きついてきたリルが、甘えた声を出す。
「……リル、悪いんだけど、少しだけ待っててもらっても……リル?」
話をしたいのは山々だが、今は大事な作業中だ。そういう訳にもいかないとリルを止めようとしたユウシアだが、リルの様子がおかしいのに気が付く。
(そうか、媚薬……!)
「ユウシア様、ユウシア様……! あぁ、この匂い、この感触……好きぃ……」
「ちょっ、リル!」
「もう、我慢出来ませんわ……ユウシア様……」
「駄目だって、落ち着いて!」
「うふふ、何がいけないんですの……? ほら、ユウシア様だってこんなにして……」
「くっ……それは、媚薬のせいで……!」
ユウシアが何を言っても、リルは止まらない。
「頼むから、正気に戻って!」
「私は、ちゃんと正気ですわ……ふふ、ユウシア様、照れちゃって……」
「いや、確かに照れてるかもしらないけど、そうじゃなくて! ……あぁもう、これで我慢してよ!?」
「んっ!?」
なんかもう色々と諦めたユウシアは、リルの唇に自分の唇を強く重ねる。
(……これ、“変なこと”に入らないといいなぁ……)
なんて、ユウシアは遠い目をしていた。
最後の方シリアス抜けかけた気がするけど気のせいです。例え読者の皆さんがどう思おうと、私は気のせいだと言い張ります。ついでに水晶武装とかいう名前が安直&ダサいのも気のせいです。更に、前書きが無駄に長いのも気のせいなんです。後書きも長い気がするけど、それも。