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“元”暗殺者の転生譚!  作者: 浅野陽翔
王都ジルティス
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黒幕

 オーブの欠片があった部屋の奥にあった小さな扉から先に進むユウシア達。

 先程までと同じ、土が剥き出しの通路。誰も、何も話さない。ユウシアはもとより、アヤもハイドも、何を言えばいいのか分からなかった。

 そんな中、いつもとは違って、俯いたまま歩くユウシアの肩に止まっていたハクが、彼の頬をちろと舐める。

 顔を上げるユウシア。澄んだ瞳で自分を見つめるハクを見て、軽く微笑む。

「……心配してくれるのか? 俺は大丈夫だよ。ありがとう」

 ユウシアはハクを撫でながらそう言うが、その言葉が強がりであることは、アヤにも、ハイドにも、そしてハクにすら分かった。

「ぴぃ……」

 ハクが小さく鳴く。ユウシアはやはり少し強張った微笑を浮かべると、再び俯いてしまう。

「ユウ君」

 しかし、一度破られた沈黙を無駄にはしないとばかりにアヤがユウシアに近付き、声をかける。

「大丈夫には見えないよ。お願い、何があったのか教えて? 力になるから」

「……本当に、大丈夫だから」

「ユウ君……」

 ユウシアは、俯いたままアヤにギリギリ聞こえるくらいの小さな声で呟くと、歩くペースを少し上げる。アヤには、それが少し避けられているように感じて、悲しげに彼の名前を呼んだ。しかし、ユウシアは依然俯いたまま。

「……ハイドさんも、何か言ってやってください。あたし、あんなユウ君、見てられない……」

 いつの間にか隣に並んでいたハイドにそう頼むも、彼は少し間を置いてから首を振る。

「心の問題というのは、デリケートなものだ。あいつのことをよく知らない俺に出来ることはない」

「そう、ですか……」

 アヤは俯いて、グッと拳を握る。何も出来ない自分が嫌になってくる。なんだかんだといって、既にユウシアと出会ってから一ヶ月程が経過しているというのに、自分はなんて無力なんだろう、と。ユウシアには、散々助けられた。なのに、自分が彼のために出来ることは何もないのか、と。

 そんなことを考えている間に、通路の先に扉が見えてきた。シンプルな、木製の扉だ。

 その前に立ち止まったユウシアが、何を思ったかフードを目深に被る。ハクが彼から離れ、アヤの肩に止まる。

 いつものようにフードの中にいたのならともかく、今はわざわざこちらに来る必要はないはずだ。何故だろう、と考えるまでもなく、分かった。

「ひっ……」

 思わず、小さく声を漏らす。

 殺気。そんなものには触れたことがないアヤにもそれと分かるほど、濃密な殺気が、ユウシアから放たれていた。

 ユウシアはそのまま、扉をゆっくりと開く。

「お、やっと来たか。遅かったなァ」

 その中から聞こえてきたのは、そんな声。どこか聞き覚えのある、しかし雰囲気が全く違って、どこで聞いたのかは分からない、そんな声だった。

「……貴様」

 顔を上げたユウシアが呟く。今のアヤの位置からだと見えないが、ユウシアには部屋の中が見えているのだろう。

「おぉ、怖い怖い。その様子じゃ、大分効いてるみてぇだなァ。くひっ、どうだったよ、思い出したくねぇ記憶を掘り起こされる気分は?」

「…………」

「おいおい、だんまりかよ。つまんねぇなァ」

 ユウシアは黙り込んだまま、室内に入っていく。アヤとハイドもあとに続き、そこにいたのは。

「……え? セリック、さん……?」

 ジルタ王国騎士団第三隊隊長、セリック・エアリアスだった。

「セリック……貴様が黒幕か」

 ハイドが怒りを隠そうともせずに言う。その手には、既に背中の大剣が握られている。

「血の気の多い王子サマだなァ」

 セリックが、赤い髪・・・をかき上げながら笑う。

 そう、赤。今までの銀髪など見る影もなく、髪も、瞳も、真っ赤に染まっていた。

「質問に答えろ」

「ククッ、あぁそうさ。セリドで王女を襲わせたのも、ギールを殺したのも、今回王城を壊して王女を攫ったのも、全部ぜぇんぶ俺がやったことだ」

「……そうか。なら、死」

 ね、と言いながらセリックに斬りかかろうとして、止まる。

 ユウシアが、こちらを見ていた。光のない、冷ややかな目で、邪魔をするなと。邪魔をするようなら殺すと、そんな意思まで感じられた。

「――っ」

 しかし、邪魔をする云々の話ではない。そもそも、体が動かなかった。蛇に睨まれた蛙というのは、まさにこういうことを言うのだろう。それくらい、指一本たりとも動かない。

「……セリック」

 ユウシアが、何かに堪えるように震えながら口を開く。

「何故、リルを殺そうとした?」

「お? あぁ、動機ってヤツか。いいぜ、答えてやる。邪魔だったんだよ」

「邪魔?」

「あぁそうだ。あの王女はバカだよ。何が、奴隷の待遇改善だ。奴隷なんてのは、無理矢理奴隷にして、命令を強制させて。そうでもしねぇと儲かんねぇってのによ」

 その言葉に、アヤが信じられないとばかりに目を見張る。

「……そんなことのために、リルを殺そうとしたのか」

 ユウシアが発した言葉は、アヤが考えたものと全く同じだった。

「自分の醜い欲望のために、民衆のためを思って行動していた彼女を殺そうとしたのか、お前は!!」

 ユウシアが叫ぶ。と同時に、彼の怒りに呼応してか、彼の中から魔力が解き放たれ、荒れ狂う。

 しかしセリックは平然とした様子で、

「そうだよ。コイツは自分の欲を抑え込んで生活してたからなァ。俺が解き放ってやった・・・・・・・・のさ」

 アヤには、全く意味の分からない言葉だった。まるで自分を他人のように呼んで、解き放ってやったなどと言って。しかし、ユウシアには分かったようだった。

「そうか……お前が、オーブか」

 ユウシアにも、薄々感づいてはいた。しかし、今の発言でそれが確信に変わった。

「……お? なんでそれを知ってやがる? ……まァ、別にいいか」

 そう言って笑ったセリックは、手のひらに赤い大剣を生み出す。ギールの胸に突き刺さっていたのと、全く同じ大剣を。

 ユウシアは、短剣を構えながら口を開く。

「最後に、一つだけ答えろ。何故、今回に限って、リルを攫ったりした?」

「利用価値があったからなァ。向こうで殺せるのがそりゃ一番よかったが、こっちにいるならそれはそれで、色々と都合がいいんだよ」

 セリックはそこで言葉を切ると、ニヤリと醜悪な笑みを浮かべる。

「あんだけの上玉だ。いーい値で売れるだろうよ。従順にするためにな、早速薬を使ってみてんだ。どんな不感症だろうとすぐにいい声で鳴き始めるような、強力なヤツだ。量を間違えるとブッ壊しちまうかもしれねぇけどなァ。ククッ、今から仕上がるのが楽しみだなァ。あ、なんならちょっと見てくか? 騎士様の登場だ、泣いて喜ぶだろガッ!?」

 一人勝手に興奮してペラペラと喋るセリックの体が、部屋の端まで吹き飛ぶ。

「……殺す。絶対に」

 そう呟いたユウシアが纏う雰囲気は、まるで別人だった。

 ラストバトル! なんだけど、内容が薄っぺらくなりそうでビクビクしてます!

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