表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
“元”暗殺者の転生譚!  作者: 浅野陽翔
王都ジルティス
50/217

激情

『――なぁ。何故お前は、リルを助けようとする?』

「どういう意味だ?」

 人型の問い。

 なんの脈絡もなく放たれたそれに、ユウシアは訝しげに聞き返す。

『そのまんまの意味だよ。別に、アイツを守る義務がある訳でもねぇ。それには、アイツに惚れてる訳でもねぇ……ま、際どいトコだけどな』

 相変わらず、意味の分からない質問。しかし、答えられない訳ではない。

「……約束したから。守るって」

『あー……そういやそうだったな。じゃあ、アヤは何故助けた? どうして今もアイツに気を配る?』

「……?」

 ますます、意味が分からない。

『そもそも、何故お前は、初めて会ったとき、アイツが付いてくることを了承した?』

「……やっぱり、訳が分からない。なんでそんなことを聞くんだ? そもそも、お前は俺なんだろう? 俺の記憶だってあるんじゃないのか?」

『おいおい、質問に質問で返すんじゃねぇよ』

 笑いながら返された言葉に、ユウシアは少し考えて首を振る。

「……分からない。そういえば、連れて行くのが当然のように考えてた気がする……」

『そうだなぁ。なんでなんだろうな?』

 ユウシアは押し黙る。分からないのだ。何故当然のようにここまで一緒に行動してきたのか、そもそも彼女に連れて行ってほしいと頼まれたとき、自分が何を考えていたのか。

『くくっ、俺なら分かるぜ?』

「なん、だと……?」

『俺はお前だが、ちょいと別の意思も混じってるからなぁ。の記憶も、客観的に見られる。なぁ、教えてやろうか? お前はな……』

 人型はそこで一旦言葉を切ると、ユウシアを馬鹿にするように笑って。

『――“罪滅ぼし”がしたかっただけなんだよ』

「――!」

 その言葉に、ユウシアが目を見開く。人型の発言は、一見、対象の存在しない、その意味が掴めない言葉。しかしユウシアには、彼の言葉の意味が分かってしまった。

『空から降ってきた少女、アヤ。まるでアニメの中みてぇな出来事だ。似てるよな、そっくりだよな、うり二つだよな……“綾奈”に』

「っ!」

『大事だった、大切だった、かけがえがなかった。は……いや、お前は、もしかすると家族よりもその幼馴染のことを想っていた』

「…………」

『だけど!』

「……待てよ」

『死なせちまった』

「うるさい!」

『守れたはずだった、助けられたはずだった。なのにお前には、それが出来なかった』

「やめろッ!!」

『だからお前は、綾奈にそっくりなアヤを、綾奈の代わりに助けることにした。守ることにした。てめぇのくだらねぇエゴに、アイツを巻き込んだ!』

「黙れっつってんだよ!!」

 口調が、どうしようもなく乱れる。人型の言葉は、自分の模倣であるが故に、ユウシアの心の深い部分、意識すらしていない場所を的確に突いてくる。

『記憶をなくして右も左も分からねぇアヤを助けて、満足だったか? 心が洗われたか? 罪の意識が薄れたか?』

「黙れよ……」

『それでも、お前は綾奈を守れなかった。それが事実だ! 生まれ変わったこの世界で何をしたって、それは変わらねぇんだよ!!』

「黙れ、黙れ黙れ黙れ、黙れぇぇええッ!!」

 もう、何も考えられない。何も考えたくない。

 激情と共に繰り出した全力の拳は、人型の頭を捉え、粉々に砕いた。

 体の全てをバラバラにして、溶け始める人型だったオーブの欠片。ユウシアはその中に膝をつく。

「……クソが」

 拳を握りしめ、硬い地面に思い切りぶつける。

「クソ、クソクソクソクソクソ!!」

 何度も、何度も。拳から血が流れ始めても、止めることはない。

「あぁぁぁぁああああああああっ!!」

 叫び、頭を抱え、額を地面に擦り付けて。

「――ユウ君!?」

 そこへ、自分の偽者を倒したアヤとハイドが現れる。二人一緒に、ハクに案内されてきたようだ。

 アヤは部屋の真ん中で蹲って叫ぶユウシアに駆け寄り、彼の肩を抱く。

「ユウ君、どうしたの!? 大丈夫!?」

「うっ……うっ、ぁ……あぁぁ……」

「この液体……偽者の自分に、何かされたか」

 ハイドがゆっくりと近寄り、冷静に状況を分析する。

「……れは……さ……て……」

「ユウ君? 今、なんて言ったの?」

 ユウシアの口から漏らされた小さな声。アヤが聞き返すも、それきりユウシアは何も言わない。

 それからしばらくして、ユウシアがやっと動きを見せる。

「……あぁ、そうだ」

 彼はそう呟くと、アヤがいるのにも構わず立ち上がる。今まで隠されていたその瞳は、とても空虚な、光を写さないものだった。

「ねぇ、ユウ君? 何があったの? おかしいよ」

 ユウシアは、アヤの質問に答えない。それどころか、やはり彼女などいないのだとばかりに、フラフラと歩き始める。

「リルを……助けないと……」

 うわ言のように呟いたユウシア。アヤとハイドは、彼の様子が明らかにおかしいことを分かっていつつも、何故か止めることが出来なかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
他の作品はこちら

どこかゆる〜い異世界転移ファンタジー!
ぼっちが転移で自由人。

一目惚れ合いから始まる学園ラブコメ!
ひとめぼれ×ひとめぼれ
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ