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“元”暗殺者の転生譚!  作者: 浅野陽翔
王都ジルティス
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偽者その二

 アヤさんの一人称を「私」から「あたし」に変更。そっちの方が合ってる気がしました。ただし、前の話は変えていない。めんどくさい。

 ハイドが自分の偽物と出会ったのと、丁度同じ頃。

 アヤもまた、部屋に浮かぶ赤い宝石を発見していた。

「わ、キレイな宝石!」

 言いながら無防備に近寄ろうとして、足を止める。ユウシアと出会ったばかり、まだセリドに向かっている頃に、彼に言われたことを思い出したのだ。

 そう。あれは確か、夜中に魔獣の襲撃を受け、それをユウシアが撃退した後のこと。

『ユウ君、寝てたのによく気付いたね』

 なんとはなしにそう言ったアヤに、彼はこう答えたのだ。

『暗殺者さんの嗜みだよ。それに、こんな世界じゃ警戒し過ぎるってことはないしな。アヤも、変な物に不用意に近付いたりするんじゃないぞ?』

『えー、いくらあたしでもそんなことしないって』

 忠告するユウシアに軽い気持ちでそう答えたが、

(あたしのバカ! すっごい不用意に近付こうとしてたよ!)

 部屋の真ん中に光を放ちながら浮かぶ宝石が“変な物”じゃなかったら一体なんなのか。

「……とりあえず、ユウ君に伝えた方がいいかな……」

 そう呟きながら踵を返そうとして、それを見る。

 形を変える、宝石を。

「何、あれ……?」

 ハイドの時と同様、宝石は巨大化し、形を変え――。

『……ふぅっ』

「え……あたし?」

 アヤと全く同じ姿に。

『初めまして……と言うべきかしら? 

「これって、どういう……」

『さぁ。あなたの記憶しかない私に分かる訳がないでしょう?』

 戸惑うアヤに人型はそう返してから、凶悪とも取れる笑みを浮かべる。

『でもね、これだけは間違いないわ』

「これだけ、って……?」

『私はあなたの敵よ』

 分かりやすく告げられた事実にアヤは一瞬目を見開いて、

「……なんで? なんで、あたしのはずのあなたが、あたしと戦うの?」

『あなたが私だからよ』

 人型は一旦言葉を切って、再び口を開く。

『もうね、抑えきれないの。私の中に渦巻く、この衝動が。この世に私は二人もいらない、私であるのは私だけでいい、その欲望が!!』

 そう叫ぶ人型を見て、アヤは確信した。こいつは敵。自分を殺す、ただそれだけを目的とする敵なのだと。

 そしてアヤは、その敵と戦うことに決めた。自分だけの敵なのだから、ユウシアの手を煩わせる訳にはいかないのだ。

「――それなら、先手必勝だってユウ君が言ってたよ!『繋ぐは炎、炎の精霊。汝、我が槍と成りて、敵を穿て』〔フレイム・ランス〕!」

 とても魔法を覚えたてとは思えない速度で魔法を構築し、撃ち出す。

 向かってくる炎の槍に、人型は焦るでもなくニヤリと笑うと、右手を前に翳す。

『――ありがとう』

 そんな言葉を残して。

 そして、炎の槍が、消えた。

「……え?」

 当たった訳ではない。もしそうなら、槍は炎としてしばらく燃え続けるはずだ。

 人型は、無傷だった。

『……私は、あなただから。魔力がないの。残念だけど、魔力貯蔵用の魔導具アーティファクトはあっても、ユウに貰った魔力はなかったのよ。けれど、あれくらいの魔法なら、吸収して、魔力に変えられる。私とあなたの、数少ない違いね』

「そんな……」

 人型の言葉に、アヤが絶句する。それはつまり、低級の魔法をどれだけ撃っても、相手の力に変えられるということか。

『それでも、魔力量が少し心許ないわね……そうだ』

 人型は、いいことを思いついた、というように笑うと、アヤとの距離を一気に詰める。

「っ!?」

『私があなたと違う点、その二。私の方が身体能力には優れているみたいね。『繋ぐは闇、闇の精霊。汝、我が敵の力を奪いて、我が糧とし、力とせよ』〔ダーク・ドレイン〕』

 トン、と当てられた手から、急速に魔力が奪い取られていく。〔ダーク・ドレイン〕、相手との接触を必要とするものの、発動時より多くの魔力を奪える可能性のある、優秀な魔法だ。

 アヤは慌てて飛び退るが、時既に遅し。腕輪に蓄えられた膨大な魔力が、およそ半分にまで減らされていた。

「くっ……!『繋ぐは風、風の精霊。今ここに集まり、融合せよ。汝、嵐と成りて、遍く敵を切り裂け』〔エアロ・ストーム・カッター〕!」

 ――本来、魔法の中で最も攻撃力が高いのは、炎属性の魔法だ。しかし、先に放った〔フレイム・ランス〕ならまだしも、より上位の、広範囲の魔法を撃ってしまうと、この屋敷まで燃やしてしまう可能性があった。

 だからこその、風属性。炎属性程ではないにしろ、この〔エアロ・ストーム・カッター〕も、嵐の中に取り込んだ敵を切り裂く、殺傷力に優れた魔法だ。

『……さすがに、それくらいの配慮はするのね。なら私も、屋敷を壊さないように気を付けないと。『繋ぐは風、風の精霊。汝、今ここにて力を開放せよ』〔エアロ・ボム〕』

 人型の目の前で弾ける空気。それによって〔エアロ・ストーム・カッター〕は気流を乱され、霧散してしまう。

「なら!『繋ぐは水、水の精霊。汝、我が剣と成りて、舞え、舞え、舞踊れ。敵を切り裂き、血潮をも力と変えよ』〔アクア・ブレイド・ダンス〕」

 アヤが魔法を発動すると、彼女の周りに水で形作られた小さな剣が十本ほど出現する。そして、

「もういっちょ!『繋ぐは氷、氷の精霊。汝、我が剣と成りて、舞え、舞え、舞踊れ。敵を切り裂き、血潮をも力と変えよ』〔アイス・ブレイド・ダンス〕」

 同様に、氷の剣も十本ほど出現する。水魔法と氷魔法は、元が同じものだからか、似た魔法が多いのだ。

『なら、私も。『繋ぐは水、水の精霊。汝、我が剣と成りて、舞え、舞え、舞踊れ。敵を切り裂き、血潮をも力と変えよ』〔アクア・ブレイド・ダンス〕『繋ぐは氷、氷の精霊。汝、我が剣と成りて、舞え、舞え、舞踊れ。敵を切り裂き、血潮をも力と変えよ』〔アイス・ブレイド・ダンス〕』

 全く同じ詠唱から、同じ魔法が発動される。しかし、人型の周りに浮かんだ剣は、それぞれ五本。アヤの半分だ。

『……あら? 経験まではコピー出来なかったかしら。違う点、もう一つ見つかったわね』

 これはアヤにとっては、嬉しい誤算だ。これで大分有利になるはず。

 アヤと人型が、同時に叫ぶ。

「『行け!!』」

 相手に向かってまっすぐに飛んでいく、水と氷の剣。人型は自分を攻撃するそれらを必死に躱し、アヤは残しておいた半分の剣で対処する。

『――っ、さすがに、ここまで高位の魔法は、吸収出来ないわねっ……!』

 脅威の身体能力で剣を躱しながら、悔しそうに歯噛みする人型。さすがに躱しきれないのか、少しずつ傷が増えていくが、元が宝石だからだろう、血も流れないし、痛みを感じている様子もない。

『『繋ぐは光、光の精霊。汝、我が意に従い、敵を貫け』〔ライトニング・スピア〕』

「きゃっ!」

 人型が攻撃の合間に放ってきた魔法、光速で向かってくる針に対処しきれず、アヤの脇腹が小さく貫かれる。

 そこから飛んでいった少ない血が、人型の水剣と氷剣に当たり、それらをうっすらと赤く彩る。

 途端、二種の剣の動きが速さを増す。

 この魔法、詠唱にある『血潮をも力と変えよ』の言葉通り、敵の血を吸い、能力を上げるのだ。どこの魔剣だよと言いたくなる効果だが、生憎そんなツッコミが出来る人物はアヤの周りにはいない。

 そして、アヤにとっては悪いことに、相手の人型は血を流さない。つまり、彼女の魔法が強化されることはないのだ。

 アヤは、このままでは強化された魔法に対処しきれずに更に血を吸われてしまう可能性があったので、慌てて水剣と氷剣を一本ずつ呼び戻す。

『……あら、残念。せっかく、もっと強化してあげようと思ってたのに』

「そんなことされたら、負けちゃいそうだからね!」

 人型にそう返して、アヤは考える。

(……ああは言ったけど、実際、もう少し余裕がなくなってきてる。今は守りを増やしてなんとかしてるけど、その分攻撃が減って向こうに余裕が出てきてるみたいだし、このままだとまた横槍を入れられる可能性だってある)

 一応、手がない訳ではないのだ。しかしそれは、奇を衒っているため相手に悟られることはないだろうが、逆に衒いすぎて諸刃の剣となり得る手、と言うか、普通に捨て身の攻撃だった。

(うーん……それでも、勝たなきゃどうしようもないしね。うん、背に腹はかえられない! 後で回復魔法でも使えば多分平気だよ!)

「『繋ぐは光、光の精霊。汝、力を解き放ち、我が道を照らせ』〔ライト〕!」

 本来は、辺りを照らす、ただそれだけの魔法。しかし、明らかに過剰な魔力を乗せて放ったそれは、部屋中を埋め尽くすほどの光量をしていた。

『くっ……!』

 それは一瞬だけだったが、目を潰すには十分だった。

『目くらましのつもり!? ……なっ!』

 元が宝石であるが故に、周りが見えなくなるといったこともなかったのだろう。目を覆う腕を取り払った人型は、それを目にした。

 その色を真っ赤に変える、敵の剣を。

 自分に、切られた様子はない。そもそも、傷つけられても血が出るはずはないのだ。

 なら、どうやって――

 と、考えて、ある一つの可能性に思い至る。

 いや、しかしそんなこと、あり得ない。と、そう思いつつも、人型はアヤに目を向けて――見た。

 体の至るところに傷を負い、血を流すアヤの姿を。

『う、そ……』

 絶句する人型。

 自分の剣たちが付けた傷、ではない。あの光の間、人型は剣を動かせてはいなかったし、そもそも血を吸った様子がない。

 そう。彼女は、人型の予想通り、自らを傷つけたのだ。剣を強化する、ただそれだけのために。その時間を稼ぐための目くらましだったのだろう。

『あなた……剣たちに自分を敵だと認識させて……』

「えへへ……せい、かい。これしか、勝つ方法が、なかったから」

 苦しそうに言いながら、アヤは魔法を操る。

『速いッ……! きゃあっ!』

 力を増した剣たちに対処出来るはずもなく。

 決着がつくまで、そう長い時間はかからなかった。

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