隠し扉
やっとこ日間PVが千超えるようになってきた。まぁ、更新日だけだけど。当然だね。
屋敷の中に侵入したユウシアたちは、玄関を入ってすぐのところにある小さめのホールにいた。
「……ここにいるのは、間違いないんだな?」
そのハイドの言葉に、ユウシアはゆっくりと頷く。
「一瞬でしたけど、扉の隙間から確かにリルの姿が見えました。間違いないかと」
「そうか。ならば、手分けして調査と行こうか」
「はい、そうですね。でんっ……ハイドさんは、上をお願いできますか?」
殿下、と呼びそうになったところを、睨まれて慌てて言い直すユウシア。
ハイドは頷くと、さっさと正面の階段から二階へ上がっていってしまう。外から見た高さからして、二階建てなのはまず間違いないだろう。屋根裏部屋がある可能性もあるが、ハイドなら見付ければ勝手に調べるはずだ。
「それじゃあユウ君、私たちでいっか――」
「いや」
ユウシアは、アヤの言葉を遮って頭を振る。
「一階の調査は、アヤだけで頼みたい」
「え? なんで?」
「んー……」
ユウシアは、アヤの質問に少し考えるようにして、
「暗殺者には暗殺者なりのやり方があるから、かな」
実は暗殺者は全く関係のないやり方なのだが、何だかんだでユウシアは“暗殺者”の名をいいように使っている。
「……? ……まぁいいや、よく分からないけど分かった!」
アヤは、そんな矛盾した答えを返すと、張り切った様子で近くの扉へと入っていく。
「何かあったら、すぐに呼ぶんだぞー」
「はーい」
アヤに向かって手を振っていたユウシアは、彼女の姿が扉の向こうへ消えたところでその手をピタリと止めると、その場にしゃがみ込む。
「……さて、と。俺は俺のやることをやらなきゃな。――【五感強化】、【第六感】……全開」
その、最後に付け加えた言葉に意味はない。あくまで気分的な問題だ。
――【五感強化】。
五感、つまり、視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚の五つを強化するスキル。
これまでは、視覚や聴覚を強化することが多かったが、今回はその聴覚に加え、嗅覚も大幅に強化する。
目は閉じ、外界からの情報を音と匂いだけに限定する。
おそらく木が腐った臭いなどだろう、異臭が普通より敏感になったユウシアの嗅覚を刺激するが、それを努めて意識から除外し、他の匂いに集中する。……そう、散々同じベッドで寝るうちに覚えてしまった、リルの匂いに。聞こえは悪いが、事実なのだから仕方がない。
そして聴覚は、自然の音ではない、人間が発する音を探る。
――上から、足音が聞こえる。重く、床板がギシギシと軋んでいる。間違いなくハイドだろう。大剣を二本も背負っている上に、部分部分にとはいえ、金属の鎧も着けているのだ。重くなるのも当然か。
――そして、同じ高さ、つまり一階からは、それよりも明らかに軽い足音が。重量的な意味ももちろんだが、調子も軽いように聞こえる。
(……アヤ、もしかしなくても浮かれてるな?)
これは後で説教かな、などと関係のないことを考える頭を振って、余計な考えを振り落とす。今はただ、リルの居場所にのみ集中する。
「……いない……? 二階はハイドさんだけだったみたいだし、一階は俺とアヤだけ……。音からも、【第六感】の直感からもまず間違いないな……」
顎に手を当て、考え込むユウシア。
と、そんな彼をよそに、ハクが下に降りると、暇だったのかぴぃぴぃ鳴きながらてくてくと歩き始める。
邪魔にならないならいいか、と、ユウシアが再び目を閉じて集中し始めた、その瞬間。
ギシィッ。
「……?」
今まで聞こえてきたものとはどこか違う、床板の軋む音。
どこが、と言われると答えに困るが、違う。それだけは確信出来た。
――そう、軋む、というか、撓むようなその音――。
「――!!」
バッ! と、ユウシアは勢いよく顔を上げる。
そのまま、今の今までハクが歩いていたところに行くと、何を思ったか床を何度も踏み始める。
ギシィッ。ギシィッ。
続いてユウシアは足を少し動かして、同じように踏みつける。
ギッ。ギッ。
「……やっぱり。明らかに音が違う。さっきの方が、深い」
そう呟いたユウシアは一歩下がると床に這いつくばり、先程まで自分が立っていた辺りをペタペタと触り始める。【五感強化】を用いて触覚を敏感にし、入念に。
それを五分ほど続けていたか。
ユウシアは得心したように頷くと、何かを辿るような動きで、壁に目を向ける。
そしてそちらの壁も触ること、今度は短く、およそ十秒。
「……あった」
呟き、笑う。
ところで、魔力が多い者は、自分以外の魔力にも敏くなる、と言われている。
そしてもちろんそれは、魔力量が桁外れのユウシアも、例外ではない。
ユウシアは、手で触れている場所に魔力を流す。
ユウシアから放たれた魔力は、壁に吸い込まれ、丁度彼が視線で辿った場所を通り、先程触っていた床へ。
瞬間、床がぼんやりと光を放つ。五秒ほど続いたそれが収まると、ガコンッ! と音を立て、床の一部、光を放っていた場所が浮き上がる。
「ビンゴ」
ユウシアは、ニヤリと笑う。
浮き上がった床を掴むと、そのまま力を込めて横に動かす。
若干の抵抗を残しつつも力に従って動いたその下には、縦一.五メートル、横一メートルほどの穴が。更にその穴からは、下に向かって階段が続いている。
地下への入り口だ。
踏んだときの音が違ったのは、下が空洞だったため。
その可能性を思い付いたユウシアは、何かが隠してあるはずだ、と、まずは外れる部分とそうでない部分の境目を探していた。やがて床に微弱な魔力反応が残っていることに気付くと、その反応を辿り始めた。その先、壁を見たユウシアは、魔力が鍵になっているのかもしれない、と考える。そして試してみたら、見事正解だった、という訳だ。
「……いる」
下からうっすらと漂ってくる、この香り。間違いなくリルのものだと、強化された嗅覚が訴えてくる。
「ハク」
「ぴ?」
「ここで待って、アヤとハイドさんが来たら下まで案内してくれ」
「ぴぃっ!」
任せろ! と言うように鳴いたハクを見て、ユウシアは暗闇へと一歩足を踏み入れた。
さて、次はリル救出編――ではなく、このまま放置は可哀想だから、ハイドさんやアヤっち(なんだそれ)視点でもちょっとイベント起こす予定ですよ。