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“元”暗殺者の転生譚!  作者: 浅野陽翔
王都ジルティス
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包囲

「――ッ!?」

 その輝きの方を見るユウシアだが、既にそれは視界から消えてしまっている。

 しかし、あの輝きは、あの桃色は間違いなく、誰よりもユウシアを慕ってくれている、リルのものだった。

 ズザザザザッ!! と、大きな音を立てながら走る勢いを消すと、急な方向転換をして、先程の輝きが向かった方向へ全力で駆け出す。

「ユウ君!? どうしたの!?」

 アヤが慌てたように問いかけてくるが、ユウシアはそれに答えない。いや、答える余裕がない。肉眼では捉えきれないほどの速度に対応するので精一杯なのだ。

 王城の一部が崩れるという事態に狼狽える人々を、避け、飛び越え、間を縫うように駆け抜ける。ほんの一瞬でも動くタイミングを間違えれば、衝突し、相手が大怪我を負ってしまう。そんな神経のすり減るような動きを、ユウシアは神憑り的な集中力でこなしていく。

(速く! 速く!! 速くッ!!)

 それでもまだ、貪欲に速さを求める。

 今はただ、なりふり構わずリルの下へ駆けつけたかった。

 遠く離れた位置にあった輝きが、突如急降下し、どこかへと降り立つ。

 ただでさえユウシアの全力で距離が縮まっていたのだ。相手が止まれば、追付くのはすぐである。

 再び、ズザァァアアッ! と大きな音を出しながらブレーキをかけるユウシア。

「ここは……」

「お屋敷?」

 アヤの言うとおり、顔を上げたユウシアが見たのは、ひと目でそれと分かるような屋敷だった。ただし、廃墟の、という注釈が付くが。

 もっと言えば、幽霊屋敷、とはまさにこれのことだろうか。街の外れにあり、窓はところどころ割れていて、玄関の扉も建付けが悪いのか閉まりきっていない。

 ――そして、その閉まりきっていない扉の隙間から、見えた。

 ぐったりとしたリルの姿と、彼女を抱え移動する何者かが。

「――!」

 ユウシアが駆け出す。今度は、【集中強化】も〔エアロ・ブースト〕も使わず、しかし常人よりは速く。

「ユウ君、急にどうし――きゃっ!?」

 言いながらユウシアを追うアヤが、いきなり悲鳴を上げる。

 それにつられて振り向いたユウシアが見たのは、およそ一週間前に彼らを襲った、赤い人型。

 それが、あの時とは違って、大量に。

「なっ……!?」

 絶句するユウシアを取り囲むように、人型たちが動き始める。

 屋敷の中、リルの安否が気になるところではあるが、わざわざ連れ去った以上、すぐに命を奪われるなんてことはないだろう。

 ユウシアはそう結論づけ、まずはアヤを守ろうと――したところで、人型はまるで彼女になど興味がないとばかりに通り抜けると、ユウシア一人を包囲する。

(……どういうことだ?)

「ユウ君!」

 包囲の外からアヤの声が聞こえる。ユウシアは一言「大丈夫」と伝えると、この包囲を突破するため、戦闘態勢に入る。

 襲いかかる人型。

 例え胴と頭を切り離そうとこいつらが死ぬことはないのを知っているユウシアは、攻撃は全て無駄だと割り切って、人型の攻撃を受け流し、邪魔な人型は投げ飛ばして進むことに専念する。

 まるで除雪車に除けられた雪のようにユウシアの前からあらぬ方向へと飛んでいく人型。比喩ではなく、実際に飛んでいっているのだ。【集中強化】により腕力が底上げされたユウシアによって。

 しかし、いくら投げようが除けようが、人型はまるですぐそこで生み出されているかのようにわらわらと集まってくる。

「あぁもう、キリがない!」

 ユウシアが思わず言った、その直後。

「――ならば、俺が助力しよう」

 ユウシアの目の前に降りたった赤い人影は、両手に持つ大剣を振り回し、周囲の人型を吹き飛ばしていく。

「殿下!?」

 そう。今ここに現れたのは、ジルタ王国第三王子、ハイド・ギルティカ・ジルタその人だった。

 ハイドは人型たちを遠ざけると、そいつらを――いや、その向こうの屋敷を睨みつけると、右手の大剣を突きつけ、叫ぶ。

「さぁ! 妹を返してもらいに来たぞ、反逆者!!」

 それは、彼の言う“反逆者”に対する怒りに満ち満ちた台詞。そして、リルを心の底から想っているが故の台詞だった。

(この人は、全く……)

 ユウシアが、内心苦笑する。

 リルやフィルに対しては素っ気ない態度を取っていたハイドだったが、それは彼が不器用だから――いや、単なる照れ隠しだったのかもしれない。

 しかし、彼の妹への愛情は、ユウシアからすれば行動の端々に感じられた。

 初めて会ったときユウシアに襲いかかったのも、ハイドの興味もありはするだろうが元々は妹と親しくする男がどんな奴か試すためだったのだろうし、リルの護衛云々の話になったときユウシアに試験と称して模擬戦を挑んだのも、これまた興味もあるだろうが、中途半端な力の奴にリルの護衛は任せられないと思ったからだろう。どれも彼の血の気の多い性格が幾分か反映されているのが玉にきずだろうが。

「……しかし、何なんだこいつらは、うじゃうじゃと。気味が悪い」

「まぁ、明らかに人間ではありませんし。……ともかく、この包囲を突破しないことには、リルのところへ向かうことも出来ません」

「分かっている。最短時間で抜けるぞ」

「もちろんです。……背中は任せましたよ」

「精々、足を引っ張るなよ?」

 ユウシアはハイドのその言葉にニヤリと笑うと答える。

「殿下こそ! ――ふっ!」

 言いながら襲い来る人型を蹴り飛ばすユウシアを見て、ハイドは何を思ったかふん、と鼻を鳴らすと、両腕を交差させて大剣を振りかぶる。

「ハイドでいい。――ハァッ!」

 二人の、まだ数回しか会っていないとはとても思えないコンビネーションと、包囲の外から時折撃ち込まれるアヤの魔法、そしてハクの尽力により、この包囲を突破するのに、五分とかからなかった。

 ハイドさんも加わって無双。気持ちよさそう。

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