べったり
「――えぇっ!? ユウ君、あの王子様と闘ったの!?」
ハイドに勝利し、ちゃんと実力を認められたユウシアが夕食の席でその話をすると、真っ先にアヤが反応を見せる。
「ハイド兄上に勝利するとは……さすがだな、ユウシア!」
次いで、フィルも嬉しそうに言う。
「ハイド兄上は、国内随一の大剣の使い手として有名なんだ。確か、丁度いいスキルがあるからとか兄上に聞いた気がするが……うん、詳しいことは覚えていない!」
「そんな誇らしげに言うことじゃないでしょ……」
胸を張るフィルに、呆れたように返すユウシア。前々から思っていたことだが、どうやら彼女は大分脳筋寄りの思考をしているようだ。決して、頭が悪い訳ではないのだが……。
と、フィルの言葉を聞いて、アヤが首をひねりながら呟く。
「大剣……それで、赤……?」
「アヤ、どうした?」
「あ、えっとね。そういえば、あの騎士――ギール、だっけ? を殺した凶器が、赤い大剣だってユウ君言ってたなぁって。ほら、王子様の髪、赤いし。大剣使うって言うし」
「あぁ、なるほど」
アヤの言葉に頷きを返すユウシア。確かに、思ってみれば関連性がある。
「……まさか、ハイドお兄様が犯人、などということは……」
「いやいや、それはナイナイ」
ヒラヒラと手を振って、軽い感じでリルの言葉を否定するユウシア。
そんなユウシアの様子に、他の三人全員が不思議そうに見てくる。
「断言するんだな、ユウシア」
「まぁな」
「何か理由とかあるの?」
「いや? ただの直感だけど」
キョトンとした顔でそう言うユウシアに、フィルとアヤがえー、と言いたそうな顔をする。
もちろん、実際は直感などではなく、いや、それも若干含まれていることは否定出来ないが、ちゃんと理由がある。
ハイドからは、オーブの反応が全く感じられなかったのだ。意識を集中してみても、これっぽっちも。
しかし、そんな中ユウシアの考えになんの疑問も抱かない者が一人。
「……ユウシア様がそう仰るのなら、私はそれに従いますわ……」
まぁ、案の定、と言うべきか、リルである。
「姉上……」
「すっかりべったりだねー」
以前とは随分変わった様子のリルに目を丸くするフィルと、「あー甘い甘い」なんて顔を顰めるアヤ。ユウシアもそれに苦笑いを返す。
いつにも増してユウシアLOVEなリルだが、ユウシアの君を守る云々いう話にすっかりメロメロなのだ。つまり、大体ユウシアのせい。自業自得とは正にこのことだ。
ただ、そのことについてはまだ話していないので、アヤ達は知らないのだが……
「でも、ホント急に一体どうしちゃったの?」
そう問いかけるアヤに、リルが恥ずかしそうに答える。
「実は――」
++++++++++
「「ええぇぇぇええっ!?」」
話を聞き終えたアヤとフィルが示し合わせたように同じタイミングで絶叫する。
「……つまり、ユウシアと姉上は同じ部屋で生活することになるのか……?」
一足先に復帰したフィルの問いかけに頷くユウシア。
「くっ……それはなんとも、うらやっ――けしからんなっ!」
羨ましいと言いかけていたように思えたのは、ユウシアの気のせいか。気のせいでないにしても放っておいた方がいいだろうと考え、聞かなかったことにする。
「大丈夫だよ。寝込みを襲ったりする訳でもないし」
「してくれないのですか……夜這い」
「しないよ!?」
リルの崩壊がとどまるところを知らない。
「ともかく。夜這いなんて絶対しないし、そもそも寝るときにそんな近付く気もないからな」
そのユウシアの宣言に、心の底から残念そうな顔をするリル。
「どうしても、ですか……?」
「どうしても。……そんな目を潤ませたって、ダメなものはダメ」
「うぅ……」
ついにはよく使われる奥の手まで使うが、ユウシアの意思は硬い。
「……分かりました、諦めますわ……。でも! せめて、同じベッドで……!」
これだけは! と言わんばかりに燃えるリル。その諦めなさそうな様子にユウシアは軽くため息を吐いて、それくらいなら、と渋々頷く。
「……分かった。ただし、本当に一緒に寝るだけ。余計なことは何もしないからな」
その言葉を聞いて、リルの表情がパァッと明るくなる。
「……本当に、リルはユウ君にべったりだね……」
「姉上、変わったな……」
そうしみじみと呟く二人。同時に何かを思いついたように顔を上げ、見合わせ、頷く。
「「男は女性をダメにする!」」
「うおい」
その結論に、ユウシアは思わず一言ツッコんだ。
なんか、最近本気でラブコメ化してきてる気がする……。