ご褒美?
「今のは一体、何だったのでしょう……」
「……それは分からない。けど、多分ギールの――いや、その黒幕の仲間だろうな。それも、あの異常さだ。かなり密接な関係があるかもしれない」
それはユウシアが感じたオーブの反応から返した言葉だったが、リルも同意だったようで頷いている。
「ともかく、リルが狙われてるのは確かみたいだ」
「そう、ですわね……。まさか、城内で襲われるとは……」
「……そうか、となると、安全な場所が……」
「私、これからどうすれば……」
そう。襲撃者が城内にまで現れるということはつまり、リルにとって安全な場所がなくなってしまうということなのだ。何せこの状況、言ってしまえば自分の命を狙って自宅に人が入ってくるということなのだから。それも、通常よりセキュリティがしっかりしている家に、だ。
「普段は誰か護衛を付ければいいだろうし、何なら俺が付いてるけど……問題は寝るときだよなぁ」
「ユウシア様がずっと一緒に……はっ!」
ユウシアの言葉から幸せな想像をして思わず呟いたリル。ユウシアの視線を感じて現実に復帰する。
「こ、こほんっ。私、人が近くにいるとあまり寝られませんの」
「……昨日の朝、俺の上でぐっすり寝てたけど?」
「しっ、親しい方は別ですわっ!」
ジト目を向けるユウシアに、慌てて弁解するリル。
ユウシアはそれに軽く笑ってから、考えるように顎に手を当てる。
「……でも、そうか。親しい人ならOKとなると……フィルとか?」
王女とはいえ騎士でもある彼女なら、実力的にも問題はないだろう。
そう思っての提案だったのだが、リルは首を横に振る。
「フィルは一度寝たらしばらくは絶対に起きませんから、護衛には向いていませんわ」
「えー……」
思わず呆れてしまうのも、仕方のないことだろう。
「うーん……じゃあアヤ……は、実力的に問題がありそうだし……ハクもすぐ寝るしなぁ」
そこまで考えて、諦めたように肩を落とすユウシア。とりあえず思い付く限りの心当たりは、全てアウトだ。
「他に誰か、リルと親しい人で護衛向きなのは、い、る……?」
言いながらリルに顔を向けて、気付いた。
超見てる。
リルが、いつにも増してユウシアを見ているのだ。
それは、何かを訴えているかのようで。
「……え、もしかして」
俺? と聞くように、自分を指差すユウシア。
それにリルは、コクコクと頷く。
つまりは、ユウシアに護衛をやれと、そういうことだろう。
「……本気ですか?」
「むしろ、ユウシア様以上に適した人材がいませんわ」
「いや、あの、俺一応男――」
「ユウシア様が一緒ならむしろご褒美です」
間髪入れずにそう返すリル。
「……いや、ご褒美って」
思わず呆れたようにそう返してしまうユウシア。
普段のリルからは考えられないような発言なのだ。仕方のないことだろう。
「……いけませんか?」
ウルウル。
ついに泣き落とし作戦に入ったリル。既視感が。
(いや、俺がこれに弱いの分かっててやってるよな、この子)
ため息混じりにそんなことを考えつつ、諦めたように肩を落とす。
「……分かったよ。とりあえず事件が解決するまでは、な」
「よろしいのですか!?」
跳び上がりそうな勢いで喜ぶリル。ユウシアはそんな彼女の様子にふっ、と笑ってから真面目な表情になって頷き、胸に手を当て、口を開く。
「二十四時間いついかなる時も、この身を挺して君を守ろう」
「ユウシア様……」
その直後、リルは引き寄せられるようにユウシアの胸へ。
「……えぇと、リル?」
「うふ、うふふふふ……ユウシア様ぁ……」
「いや、ちょっと怖いんだけど」
「今だけ、今だけですから……」
「……まったく」
仕方ないなぁ、と笑ったユウシアは、リルを優しく抱き返――そうとして、弾かれるように両手を上げると、何かをアピールするように手をヒラヒラと。
そのまま、ゆっくり、それはもうゆっくりと、そちらを見る。【第六感】で感じ取ってしまった、つい最近感じた気がする気配がある、左を。
ところで、だ。あの人型が侵入する際、というか主に着地の際、中々大きな音がしていた。当然、国内で最も重要と言っても過言ではない城内でそんな音がすれば、ある程度の数の人が見に来るのは当然だろう。
そして、その時に騎士が現れたとしても、特におかしくはない訳で。
更に更に、その騎士が偶然知り合いである可能性も、まぁあるだろう。
つまり。
ユウシアが見たその先には、騎士としての身分を持った王子――ハイドがいた。フィルでなくて良かったと考えるべきかどうか、悩むところである。
「……何があったのかと見に来れば」
それが彼の得物なのだろうか、背中に大剣を二振り背負い、胸の前で腕を組んだハイドが少し呆れたように目を細めて呟く。
そして、その声が聞こえたのか、リルがユウシアの胸に顔を埋めたまま硬直する。
「お前達……何をこんなところで乳繰り合っている……?」
「……えっ、とぉ……」
どう答えようかとユウシアが目を逸らしながら考えていると、リルがモゾモゾ。ハイドと自分の間にユウシアが来るように回り込む。
(壁にしちゃってるよ、やめようよ)
なんてったって、怖いのだ。ハイドの無表情が。
そんなユウシア達の様子を見たハイドが、顔に手を当てて、ハァッ、とため息を吐く。
「……まぁ、いい。付いて来い、話を聞かせてもらう」
そう言って踵を返すハイド。
「あっ、はい。……ほら、リル、行くよ!」
「うぅ……ユウシア様、守って下さいぃ……」
「守る相手間違ってるから……ホントに苦手なんだな……」
半ば無理やりリルを引っ張って行くユウシアであった。
ユウシア君カッコつけちゃってまぁ。
そして、イチャついていたら義兄(候補)に遭遇してしまうという気まずい展開。これで相手がハイドじゃなかったらヤバかったかもね。