嬉しそうな姉妹
「そうですか、そんなことが……」
ユウシアの話を聞いて、神妙な顔つきで呟くリル。
「うん。……一応聞いておくけど、ギールが殺される理由とか犯人について心当たりは……」
そのユウシアの問いかけに対し、フルフルと首を振るリル。ユウシアは「だよな」と呟いて、椅子の背もたれに体を預ける。
「ともあれ、考えていたって仕方がない、か……」
「ですわね」
ユウシアの言葉に、同意するように頷くリル。
そう。考えていたって、なんの手がかりもない以上犯人の見つけようもないし、こう言ってしまっては何だが、そもそもユウシアに犯人探しをしなければならない理由などないのだ。
まぁ、彼とて何かしら手がかりを掴むことがあれば協力する気は十分にあるが。あとは、自分自身やアヤ、リル、フィルなんかが事件に巻き込まれたとき、だろうか。リルは被害者一号だが、それはギール達を捕えたときに解決したということで。
と、ユウシアがそんな少し言い訳がましいことを考えていると、隣から声が。
「話は変わるんだけど」
「ん?」
朝食を取るときに合流し、そのまま一緒に話を聞いていたアヤだ。
「私達って、いつまでこのお城にいるの?」
そんな、本当になんの脈絡もない質問に答えるのは、同じく先程合流したフィル。
「父上が、いつまでいても構わない、と言っていたぞ? なんならそのままここに住み着いてもいいと。……姉上に婿入りして」
「でぇいっ!?」
「でぇいっ!?」
フィルの言葉に対して上がったアヤの驚きの声と、それに対して上がったユウシアのニュアンスの違う同じ言葉。つまり、「でぇいって何!?」という驚きだ。
「うぅぅ……お父様ぁ……」
顔を赤くして、その顔を恥ずかしそうに手で覆いながら体をくねらせるリル。
「……本当に、父上には困ったものだ。……私の気も知らないで」
(どういう意味ですかそれは!?)
フィルのとても小さな呟きを拾ってしまったユウシアが内心絶叫する。よもやリル的なアレではあるまいな、と。
余談だが、この国では、貴族と王族には一夫多妻制が認められている。……だからどう、という訳ではないし、深い意味もないが、念の為。
小さくため息を吐いて気を取り直したユウシアが、少し困ったように頬をかく。
「そうは言っても、いつまでも居座る訳にもいかない、し、なぁ……」
その言葉の最後が途切れ途切れになったのは、とあるものを見てしまったから。それを見たユウシアは、思わずうっ、と言葉を詰まらせる。
そのとあるものというのは、何を隠そう、リルである。正確には、リルの表情。その顔に現れる感情を言葉にするなら、「行っちゃうの……?」といったところだろう。
「……えぇと、でもまぁ、しばらくは世話になるかもなぁ、なんて……」
それを聞いたリルの表情が、パアッ! と明るくなる。素直だ。
「そうだな。学校に行くのであれば寮生活になるはずだ。それまではここにいるのがいいだろう」
フィルが頷いている。その口元が若干緩んでいるように見えたのは、ユウシアの気のせいか。そういうことにしておこう。
ちなみに、その学校だが、入学の時期は当然決まっている。幸か不幸かそれはあと二、三ヶ月程というところまで近づいており、更に、そのための入学試験は来月行われる予定とのことだ。
そして、ユウシアが言われた、“成人したての頃に通う学校”というのは、いわゆる“騎士学校”であり、試験には筆記はもちろん実技も伴う。
中々に倍率の高い学校らしいが、正直、筆記に関しては計算やなんかは現代日本で学んできたユウシアからすれば余裕もいいところだし、歴史系もラウラに英才教育(?)を施されているので問題は全くない。実技だって、他に黒竜を一人で倒せる者がいるとも思えない――というか、実は黒竜を一人で討伐したのは、記録に残っている限りではユウシアが初めてらしい。よって余裕。
という訳で、ユウシアの合格は確実である。と、ガイルに太鼓判を押された。
閑話休題。
どこか嬉しそうなフィルと喜びを全面に押し出しているリルをニヤニヤと見ていたアヤが、視線をユウシアに向けて問いかける。
「それで、ユウ君。今日は何しよっか?」
「……そっか、やることないな」
思い出したように呟いて、うーん、と考え始めるユウシア。
「でしたら、私とフィルで城内を案内しますわ。まだよく分かっていないと思いますし」
「うん、それがいい」
リルの提案に、フィルが頷く。
「そうだな、それじゃあ、王城探検とでも行きますか」
「さんせーっ!」
ユウシアも頷くと、アヤが楽しそうにそう言いながら手を挙げる。
「ぴぃっ!」
最後に今までユウシアのフードで寛いでいたハクが一声鳴いて、ユウシア達は王城探検へと繰り出した。
いやいや、わざわざ一夫多妻制がどうのとか書いたのに、深い意味なんてないですよ? うん、ナイナイ。