ダブルパンチ
イチャイチャ回(一方的)。……どういうこっちゃ。
次の日。
ユウシアの朝は早い。
と、言う訳でもなく、日の出からそこそこの時間が経ってからユウシアは目を覚ました。
「くあぁっ……」
寝転がったまま腕を上に上げ、思い切り体を伸ばしてあくびをするユウシア。この全身を一直線に伸ばす感じが気持ちよくて好きなのだ。
バタッと腕をおろして、そのまま少しぽけーっとするユウシア。
寝ぼけ眼を擦りつつ、さて起き上がろうか、というところで気付く。
「……んんっ?」
毛布が膨らんでいる。
そして、今まで眠気で意識していなかったが、胸の下あたりから足にかけて何やら重みが。
(ハク? ……は、こんなに大きくないし、もっと軽いし……っていうか、アヤの方行ってたはずだし)
はて、この膨らみはなんだろう。
そーっ、と中を覗き込む。
薄暗くて分かりづらいが、何やらピンク色の物体が。
「…………」
一旦顔の位置を戻して、考える。
(なんだろう、すごく見覚えが……って、いうか)
軽く頬を引き攣らせたユウシアが、毛布をバサッ! と剥ぎとる。
「んぅっ……」
そこにはユウシアの予想通り、
「……リル、何やってんの……?」
王女様の姿が。
「んん……」
「寝てるし……おーい」
毛布を取られたからか少し不機嫌そうな寝顔を見せるリルの頬を軽くペチペチと叩く。
「んっ、んむぅ……」
「あっ、ちょっ」
ユウシアの手を捕まえたリルが、頬を手に擦り付ける。幸せそうな顔をしていらっしゃる。
「……えーと」
「んふふぅ……」
一応引っ張っているのだが、何故か抜けない。中々力があるようだ。
「っていうか、なんでリルがいるのに気付かなかったんだ……? 【第六感】が仕事してくれない……」
素の技能もだが、それは悲しくなるので考えないことにする。
「……ほっぺた、ぷにぷにだな……。それに、肌も綺麗だし、髪もサラサラしてる……」
ふとそんなことを考えるユウシア。そして、意識してみると何故か触るのをやめたくなくなってしまう。
「……気持ちいい。病みつきになりそうだ」
というか、もうなってしまっている。
「んぅぅ……」
「ん?」
突如モゾモゾと動き始めるリル。寝心地が悪かったのだろうか。
「ん〜……」
モゾモゾ。
「…………」
モゾモゾ。
「うにゅぅ……」
モゾモゾ、ピタッ。
「……え?」
モゾモゾ、というか、ズリズリとユウシアの体を這い上がってきたリルの顔が、ユウシアの顔の丁度目の前で停止する。リルが動く過程でユウシアの体は横を向いていたので、完全に隣同士で向き合う感じである。
しかも、ユウシアを抱き枕と勘違いでもしているのか、ガッシリと抱き着いて離れない。
「これは……参ったな、いろんな意味で」
起きられない、というのももちろんそうだが、美しいという以外に表現のしようがないような彼女の顔がここまで近くにあると、色々とまずい。そして、昨日のアレを思い出してしまって妙に恥ずかしい。
顔をほんのり赤くしたユウシアは、恥ずかしさを誤魔化すように再びリルの頬や髪を弄り始める。
(やっぱり気持ちいいな……)
「……あ、やば、眠くなってきた――ふあぁっ」
ただでさえ昨夜は、オーブの件が気になって中々寝付けなかったのだ。そこに、リルの頭を撫でていたら何故か訪れた安らぎと、彼女の体の暖かさによる落ち着きのダブルパンチである。簡単に言うと、まずい。
「あ、もう無理、耐えられない――」
そこでユウシアは、まるで催眠術でもかけられたかのように一瞬にして眠りに落ちた。
++++++++++
ユウシア、この日二度目の目覚め。といっても、そこまで時間は経っていない。
そして、目の前には、
「お、おはよう、ございます……」
「……うん、おはよう」
すっかり目を覚ましたリルが。
ユウシアが二度寝する直前まではリルがユウシアに抱き着いていたはずなのだが、何故か今はそれが逆転してしまっている。
つまり、ユウシアがリルに抱き着いているのだ。
(何があったァァァアアアッ!)
内心絶叫するユウシア。
「あの……申し訳ございません、ユウシア様。起こしに来たつもりだったのですが、つい……」
「……あ、うん」
何が「つい」なのかとか、なんで「つい」でベッドに潜り込んでるんだとか聞きたいことはあったが、とりあえず一大事が。
(やばい、離れるタイミング逃した)
先程は、逆転している、と言ったが、それは事実ではない。
実際は、「抱き着いている」のではなく「抱き合っている」のだ。
つまり、リルの方も変わらずユウシアに抱き着いているのである。
そして、そのまま話し始めてしまったことで、なんとなく離れるタイミングを逃してしまった。
(どうしよう、この状況、この空気)
と考えるユウシア。リルも似たようなことを考えていそうな表情である。
これはどうしようもないんじゃないか、などとユウシアが諦めかけた、その瞬間。
バァンッ!
扉が勢い良く開く音と共に、
「姉上! 人を一人起こすだけなのに、時間をかけ、す、ぎ、だ……」
フィル。
「「「…………」」」
が、気まずそうな顔をして扉をゆっくりと閉める。
「……すまない、邪魔をしてしまって……」
そんな言葉を残し、扉は完全に閉じてしまった。
そしてそのまま、廊下を勢い良く走り去る音が。きっと今頃フィルは、顔を自身の髪と同じように真っ赤にしていることだろう。
そちらを呆然と見ていたユウシアとリルだったが、やがてユウシアが絞りだすように一言だけ言う。
「……起きようか」
それにリルも、同じく絞りだすように。
「……はい」
お互いに、離れるとき少し名残惜しかったのは内緒だ。
うわぁ、ユウシアさんリルさんにメロメロじゃないっすか。これはもうリル勝ち確だな(ネタバレ?)。