仕返し
サブタイくっそ悩んだ。
「あ、ユウ君、おかえり。リルも」
客室へと入ってきたユウシアとリルを見て、クッキーらしきものを頬張りながら声をかけるアヤ。
「遅かったな」
続いてフィル。遅かった、と思うのは、ガイルが二人を呼びに行ったことを知っていたからだろう。ちなみに彼女は優雅に紅茶を飲んでいる。
「ぴぃっ!」
ハクが鳴きながらユウシアのフードに潜り込んでくる。定位置である。
口に入っていたクッキーを飲みこんだアヤが、返事をしようとしていた二人に詰め寄ってくる。
「で、で? どうなったの?」
「……ふむ、それは私も気になるな」
フィルもカップを置いて興味を示す。
それにユウシアとリルはガイルに聞かれたときのように顔を見合わせ、
「え、また説明するの?」
「恥ずかしい、ですわね……」
「そうだな、国王陛下に聞いてくれよ」
「ハードル高くない!?」
「ではそうしようか」
「あっれぇフィルっち!?」
「……初めてそんな頭の悪そうな呼び方をされたな」
「バカって言われたぁ!」
……すぐにコントに発展するこれはなんなのだろうか。主にアヤのリアクションのせいだろうが。
「とまぁ、冗談はさておき」
至って真面目な顔でそう仕切り直すユウシア。
「え、冗談だったの!?」
至って真面目な顔でそう問いかけるアヤ。
「実はカクカクシカジカで――」
「……あの、ユウ君は一体何を言ってるの?」
「ふむ、なるほどな」
「フィル、今の説明で分かったの!?」
「分かる訳がないだろう、冗談だ」
「うぅ、ユウ君が帰ってきてからイジメられてる気がする……」
「気のせいだ」
肩を落とすアヤに、今度は少し笑いながらそう声をかけるユウシア。そのまま、ちゃんと説明を始める。
「えっと――」
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「――という訳で、学校に通うことになった」
話を終え、ふぅと一息吐いたユウシアが、テーブルに置いてあったクッキーをつまむ。
「……ん、美味い」
と呟くユウシアだが、現在この部屋に、ユウシア以外の者の意味を持つ言葉は存在しない。
何故なら。
「うぅ……」
「きゃー! きゃー!」
「〜〜っ」
他の女子三人は全員、顔を赤らめて恥ずかしそうにしているから。
「…………」
そして実はユウシアも、少し恥ずかしそうだったりする。凄い勢いでクッキーが減っていく。実はそのほとんどはハクが食べているのだが。
何故こんな状況になってしまったのか、だが、簡単な話だ。ユウシアがガイルに言ったセリフを、リルが自慢げに話してしまったのだ。それはもう誇らしげに、そこそこ豊かな胸を張って。ユウシアが恥ずかしさのあまり叫び出したりしたが、まぁ、仕方のないことだろう。
さて、この時点でもう頬を染めていたアヤとフィルだが、そこに追撃がかかる。
ユウシアが仕返しとばかりに、ガイルと会話したあとの彼女の痴態を話したのだ。若干顔を赤くしたまま、ニヤニヤと笑って。リルに物理的な仕返しをされていたりしたが、まぁ、それも仕方のないことだろう。
いつの間にかクッキーがなくなっていたが、ユウシアは気付かぬまま空気をつまんで口に運んでいる。
「ぴぃ? ぴぃっ!」
「――はっ!」
クッキーが消えていることにしっかり気付いたハクの声で現実に戻るユウシア。
と、そこへ、ノックの音が届いてくる。
それで女子三人もやっと現実に戻り、代表してリルがノックの主に向けて誰何する。
それに帰ってきたのは、ユウシアには聞き覚えのない男性の声。
「セリックでございます、王女殿下」
「あら、セリック様。どうぞお入り下さい」
「失礼致します」
扉が開いた先にいたのは、優しそうな顔つきの長身の男。鎧をしているところを見るに、騎士だろうか。
一礼して入ってきた、セリックと名乗ったその男はユウシアの前に立つと、ニッコリと笑って彼に声をかける。
「君がユウシア君ですね?」
「はい、そうですが……俺に何か?」
首を傾げて聞き返すユウシア。
セリックはしまった、というような顔をすると、軽く咳払いして口を開く。
「申し遅れました。私はジルタ王国騎士団第三隊隊長、セリック・エアリアスと申します。この度は部下のギールが迷惑をかけたということで、謝罪にと思いまして」
「ギール……あの騎士ですか」
「はい。そして、彼を止めて頂き、ありがとうございました。危うく、名誉ある王国騎士団から王族殺しの大罪人を出してしまうところだった」
そう言って、深々と頭を下げるセリック。
ユウシアは、そんなセリックを止める。
「頭を上げてください、エアリアスさん。あの場にいたのは偶然ですし、当然のことをしたまでですから」
セリックはその言葉に頭を上げ、申し訳なさそうに笑う。
「そう言って頂けると幸いです。ですが、今度何かお礼をさせて下さい。そうしないと、私の気がすまない」
「そういうことなら……あ、そうだ、一つ聞きたいことがあるんですが……」
「はい、何でしょう?」
「その、ギールのことなんですが、あの後どうなったんですか?」
気にはなっていたのだが、ここに来てすぐにガルドに閉じ込められたので、知る方法がなかったのだ。
セリックの話からすると彼はギールの上司らしいし、知っているだろう、と思っての質問である。
「あ、はい。彼は現在、地下牢にて……あー」
そこで少し言いづらそうに言葉を切ったセリックが、ユウシアの耳元に口を近づける。
「地下牢の尋問室にて、尋問を受けています。しかし中々口を割らず、終いには覚えていないなどと言い始める始末でして……。今、拷問の必要性を考えられているところです」
囁くようにそう言ったのは、後ろの女性陣への配慮だろう。確かに、尋問はまだしも、拷問なんて物騒なことはあまり聞かせられない。
「なるほど……分かりました、ありがとうございます」
「いえ、君が捕えた罪人ですから、気になるのも当然でしょう。……では、私はこれで。ユウシア君、何か困ったことがあれば、気軽に言って下さい。出来る限り力になりますよ」
そう言って軽く頭を下げたセリックは踵を返し、部屋を出ていく。
男にしては長めの少しくすんだ銀髪、歩く度に揺れるその先端がうっすらと赤く染まっているように見えた。
いやね、ここ何話か真面目な話だったから、少しふざけたくなった。仕方ないね。……仕方ないんだよ。うん。