婚約?
え? 婚約?
ジルタ王国首都、王都ジルティス。
ファナリアの中心であるこの国の更に中心に位置するここは、立派な王城を囲むように広がった街だ。
ジルティスは街同様王城を囲むように区画分けされていて、王城を中心に、貴族街、高級商店街、高級住宅街、通常住宅街、通常商店街、職人街と大まかに分かれている。詳細については読んで字のごとく。語る必要はないだろう。
それぞれの区画の間にも色々な施設があったりして、例えば娯楽街が何ヶ所か存在するし、高級商店街の一角には大きな学校もあるらしい。貴族街と高級住宅街から行きやすくなっているのは、それだけ通うのに金がかかるからだ。また、それぞれの区画を更に東西南北の四つに分け、それぞれに兵士の屯所も置かれている。日本で例えるなら、交番代わりといったところか。
さて、そんな王都に到着したユウシア達だが、現在何故か、王城――それも、国王の目の前にいた。
「おお、君がリルを守ってくれたユウシア君か! ありがとう、本当にありがとう!!」
「!?」
謁見の間、ではなく、国王個人の書斎に入ってきたユウシアを見るなりそう言いながら抱きついてきたこの男性こそ、ジルタ王国国王、ガイル・デリオス・ジルタだ。整った顔のダンディなオジサマ……の、はずなのだが、
「君がいなければ、可愛い娘を失ってしまうところだった! そうだ、礼をしなければな! 何が欲しい? 私が出せる物なら何でも渡すぞ!」
この通り、親バカである。
「……お父様、ユウシア様を離してあげて下さい。とても困った顔をしてらっしゃいますわ」
「おお、すまない!」
リルに言われてやっと気がついたように離れるガイル。顔に手を当ててため息を吐くリルを見るに、彼が娘関係で暴走するのはいつものことなのだろうか。
予想を遥かに超える力で抱きしめられて痛みの走る背中を擦るユウシアに、ガイルが一つ咳払いをして話しかける。
「……それで、だ、ユウシア君。先程も言った通り君に礼をしたいのだが、何か望むものはあるかな?」
そう聞かれたユウシアは考える。が、正直特に欲しいものがない。金には困ってないし、実物を貰うにしても旅の邪魔になるものなど必要ない。
「……いえ、特には……」
首を振るユウシアに、ガイルは「そうか……」と呟き考えて、いいことを思いついた! というように顔を上げる。
「ならば、リルを嫁にどうだ?」
「「はいっ!?」」
見事にハモるユウシアとリル。
「そうだ、それがいい。私も、君のような強い男に娘を貰ってもらえるのなら安心だ」
そんな二人を置いて、ガイルは一人納得したように頷いている。
「おっ、お父様! は、話が飛躍しすぎですわ! 何故そうなるのです!?」
顔を真っ赤にしてそう抗議するリル。
しかしガイルはそんなリルを見てニヤニヤと笑う。
「意外と満更でもなさそうだな、娘よ」
「なぁっ!?」
「ほら、ユウシア君、どうかね? 見た目もいいし、性格もいい。そして家柄は最高。それにまだ生娘――」
「お父様!?」
「いやいやいや! ちょっと待って下さい! 何で国王陛下は会ったばかりの男を娘と結婚させようとしてるんですか!? ていうか、俺、平民ですよ!? ただの!! 王女と結婚なんて――」
「何、こいつの王位継承権などあってないようなものだ。気にするな」
「気にするわぁッ!!」
「……ふむ、ならば、君に貴族位を――」
「お父様! 国王の権利を変なことに使わないで下さい!!」
「「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」」
叫びまくって息が切れたユウシアとリルに、ガイルはその笑みを崩さぬまま提案する。
「そうだ、ユウシア君、学校に通うのはどうかね? 成人したての頃に通う学校があるのだが、そこで良い成績を残せば貴族位が授けられ――」
「「打開策を提案しないでくれません!?」」
「……息ピッタリではないか」
「……くっ」
「ユウシア様!? 何故諦めたように膝を付くんですの!?」
「……仲も良さそうだな。お似合い、というやつだと思うぞ?」
「そんな、そんなこと……ありませんわ……ふふっ」
「リル!? 何でちょっと嬉しそうに笑ってるの!?」
「諦めろ、君達はベストカップルだ!!」
「「何ですかそのノリ!?」」
「……やはり息ピッタリだな」
「「くぅっ……」」
同時に声を上げ、同時に項垂れる二人。
「……ふむ、埒が明かんな」
(誰のせいだと!)
ユウシアが心の中でそう叫んでいる間に何かを思いついたらしきガイル。「少し待っていてくれ」と告げて部屋の扉を開け、部屋の前に立っていた二人の見張りに何やら命令をしている。
そしてその十分後、ユウシアとリルは、王城の離れの塔、その天辺にある監禁部屋に放り込まれていた。囚われのお姫様? と考えたユウシアだが、半分正解である。
「……陛下? これは一体どういうことでしょう?」
「何、二人きりで一晩過ごせば考えも変わるのではないかとな」
「……それは、今が午前中だということが分かってて言ってるんですよね?」
「当然だ。……そうそう、この周辺は人払いしておくから、多少声が大きくても問題ないぞ?」
「どういう意味ですか!?」
「……ユウシア君、男なら責任はしっかり取るんだぞ」
「やっぱりそういう!?」
「やり過ぎないように、な」
そう言い残して扉を閉め、鍵をかけるガイル。
「しねぇからな! 絶対、しねぇからなッ!!」
多少言葉遣いが悪くなるのも、仕方のないことだろう。
多少やり過ぎてしまった感は否めない……けど、超楽しかった。だから、後悔なんて微塵もない。