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“元”暗殺者の転生譚!  作者: 浅野陽翔
王都ジルティス
29/217

今、君の後ろに

 このサブタイ、何ぞ……?

 王都までの道のりも、残り二日程度になった。この移動中ユウシアは、四人どころかその倍でも座れそうなとても広い車内だというのに相変わらず肩身の狭い思いをしていた。

 何せ他の三人、ユウシアがいるにも関わらず当然のようにガールズトークに花を咲かせているのだ。

 最初していた共通の話題であるユウシアの話を終えると、この国――というより、この世界について何も知らないアヤに王女姉妹は色々なことを教え始めたのだが、ファッションのことに始まり、王都にある可愛い雑貨屋の話だったり、おしゃれなカフェの話だったり……そのうちに、もうすぐ夏ということもあって、水着の話なんかもユウシアを気にせず堂々とし始めたのだ。ユウシアは本気で他の馬車に移ろうかと考えた。

 そして終いには、ガールズトークの定番(?)である恋話まで始まってしまった。しかも何故か女子三人組は、話の途中チラチラとユウシアの方に視線を送るのだ。ユウシアは走ってる途中だとかは気にせず馬車を降りそうになった。慌てて止められた。

 閑話休題。

 さて、そんなゆるーい感じで進んでいた旅だったのだが、なんと現在王女一行は、何者かの襲撃を受けていた。急展開だが、それが事実だ。諦めろ。

 そしてその「何者か」だが、速攻で目的が判明した。堂々と現れた盗賊風の男達の中のリーダーらしき男が、「あのナル騎士、しくじりやがって、めんどくせぇ……」と呟いたのだ。ユウシアの強化された耳はしっかりとキャッチした。

 つまりはこいつら、ギールのお仲間である。仲は悪そうだが、ともかく、目的はリルの殺害と見て間違いないだろう。

 そして、相手の目的など関係なく護衛達は外に出て、戦闘を開始した訳だが、

「超劣勢?」

「だね」

「ですわね」

 ユウシアの呟きに、アヤとリルが反応する。ちなみにフィルは戦闘中である。表向きは護衛なので仕方ないかもしれないが。

 ユウシアの呟き通り、こちら側の護衛達、大分やられている。少なくとも六、七割が戦闘不能の状態だ。フィルは無事だが。

 対して相手は、まだ半分近く残っている。

 かなりまずい状況である。

「……ねぇ、王女様の護衛って、こんなのでいいの……?」

「いや、単純に相手が強いだけ。こっちの護衛の人達も練度はかなりのものだと思う。――さて、そろそろ助太刀と参りましょうか」

 アヤにそう返したユウシアは、立ち上がって【隠密】を発動する。

「あら、ユウシア様……?」

 急激に気配が薄くなったユウシアが馬車から降りると、リルはもうユウシアを見失ったようで不思議そうな声を上げる。アヤも、特に何も言ってはいないもののキョロキョロとしているので、同じようにユウシアを見失ったのだろう。

 ユウシアは気配を断ったまま、近くにいる敵の方へ向かうと、すれ違いざまに相手の体を浅く切りつける。

「はっ……?」

 当然のように短剣に塗られた麻痺毒により、その場に倒れる男。最後までユウシアに接近されたことに気づかなかったのだろう、訳が分からない、という顔のまま硬直している。

 ユウシアはそんな作業・・を、淡々と繰り返す。

 残り半分程度になっていた相手が更に半分になった頃、ようやく味方が次々に倒れていく不可解な事態に気がついた男達が狼狽した声を上げる。

「おい、どうなってるんだ!」

「いつの間に……!?」

 そして、同様に訳が分からず動きを止めてしまっている護衛達の間を抜け、一人冷静だった敵のリーダーがリルの元へ向かって行く。

「しまっ……!」

 それに気がついたフィルがリーダーを追いかけるが、もう追いつける距離ではない。

「へっ、これで任務完りょ――」

「いや、させるかって」

「――はっ?」

 走りながら剣を振りかぶるリーダーの背中に、小さなナイフが突き刺さる。

 これまた塗ってあった麻痺毒にやられ、崩れ落ちるリーダー。背中に刺さっていたナイフはひとりでに抜けると、そのままユウシアの手元に帰っていく。

 黒竜の角から作られたユウシアの短剣と投げナイフは、メイサの予想通り魔導具アーティファクトと化した。

 その能力は、元の黒竜の力を色濃く反映し、攻撃に使えるタイプの魔法属性を操る、というもの。黒竜がブレスとして放ってきた火、雷、氷はもちろんのこと、水や風、土等も操ることが出来る。あくまで“攻撃に使える”属性なので治癒魔法等は使えないようだが、素材の入手難度に見合った凄まじい効果だ。これでユウシアは、実質魔法を使えるようになったことになる。

 欠点があるとすれば、消費魔力が馬鹿にならないことだろうか。それも、魔力量が人並外れているユウシアからすれば、欠点らしい欠点にはならないのだが。

 そして、リーダーの背に突き立ったナイフが戻ってきたのは、ナイフ自体が気流を操ったため。これでユウシアにとって、投げナイフは消耗品ではなくなった。

 ところで、自分達のリーダーがやられて、そのときに使われた武器が所有者の元に戻っていけば、どんな馬鹿でも誰がやったのか気づくというもの。

「てめぇっ!」

 そう叫んだ一人を皮切りに、次々にユウシアに襲いかかる男達。

 しかしユウシアは冷静に、口元にうっすらと笑みを浮かべてその場に立っているのみ。

「――いいの?」

 唐突にそう問われ、なんのことか分からず走りながら首をひねる男達。

 その答えは、すぐ後に、思いもよらぬ方向からもたらされた。

「ぎゃぁぁあっ!」

 走る男達の後ろから聞こえる悲鳴。前の男が慌てて振り返ると、そこには護衛達に次々と無力化される仲間の姿が。

「ほら、よそ見するからこうなる」

 その笑いが含まれたような呟きは、振り返った男のすぐ後ろから。

 自分の運命を察した男から、乾いた笑いが漏れた。

「俺、暗殺者さん。今、君の後ろにいるよ」

 という訳でした。最後のとこだね、怖いね。

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