騎士捕縛
華美な装飾が施された白銀の鎧を着込む騎士を押し倒したユウシアは、その首元に短剣を押しつける。
「貴様! これは何の真似だ!」
押さえつけられた騎士がそう叫ぶが、ユウシアは騎士を睨みつけながら冷静に答える。
「……何の真似だ、だと? それはこっちのセリフだ。……そもそも、今更言い逃れ出来るとでも思っているのか? 大方、さっきの男を囮にしてとどめを刺すつもりだったんだろうが……他にも見ていた人はいるだろう」
「ユウシア、これはどういう……」
リルの前に立っていたフィルが声をかけながら近づいてくる。
それに答えようとユウシアが口を開くが、その必要はなかったようだ。
「……くっ、くくく……」
いきなり笑い出す騎士。
「はははははっ! そうか、そうだな、計画は失敗だよ! 全て、お前の言った通りさ! ……はぁ、お前が、お前さえいなければ……!」
「ギール、貴様ッ!」
その言葉にフィルも状況を理解したのだろう、声を荒らげて騎士――ギールに掴みかかろうとするが、ユウシアに遮られる。
「さっきも言ったが……色々と吐いてもらうぞ? 目的から背後関係まで、全てな」
そう言ってユウシアは、ギールの首元に当てていた短剣を少し食い込ませる。
それに少し血が出てくるが、ギールは嘲笑うように鼻を鳴らす。
「ふんっ、吐いてもらう、だと? そんな脅しに私が屈すると? そもそも、死ぬ覚悟が出来ていないとでも、思っ、て……ぇ……?」
不思議そうな声を上げたギールの体から、糸が切れたように力が抜ける。
「何を言ってるんだ。尋問は専門家に任せるに決まってるだろう?」
ギールは眠っているのだ。ユウシアの短剣に塗られていた睡眠毒によって。
ユウシアは立ち上がってフィルの方を振り返る。
「それじゃあフィル、あとは任せた」
「え? えっ?」
いきなりギールが眠ったせいで混乱しているようだが、それを無視してリルの方を見る。
「王女殿下、ご無礼をお許しください。それでは」
一礼して立ち去ろうとしたユウシアだが、
「待って下さい!」
リルのその言葉に足を止める。
「はい、何でしょう?」
「あ、あの、えっと……フィ、フィル……」
いつの間にか兜を脱いでいたフィルは、仕方ないなぁ、というように笑ってユウシアに声をかける。
「リル王女は、命の恩人であるユウシアにお礼がしたいそうだ。少し待ってもらうことになるが、この後私達が滞在している領主館へ同行してもらえないだろうか? 出来れば、国王陛下への報告も兼ねて王都まで向かいたいところではあるが……」
「それなら大丈夫だ。というか、俺達も王都に行く予定だから、そっちでも平気だぞ」
「そうだったのか。それなら王都まで……いや、とりあえずこちらを処理しておこう。すぐに終わらせる」
ギールの方へ向かうフィルを見て、ユウシアは少し考える。
(……分かった! そうだ、王女様、どこかで見た顔だと思ったら、フィルと似てるんだ!)
やっとさっきから残っていたモヤモヤを解消出来たユウシアは、広場の端にいるアヤを手招きする。
それに気づいてこちらに向かってくるアヤだが、それよりも先に彼女の頭から飛び立ったハクが到着し、嬉しそうに声を上げる。
「ぴぃ!」
「まぁ!」
「ん?」
ハクの後に聞こえた声に後ろを振り向くと、リルが目を輝かせている姿が。
(というか、王女様……ここにいたままでいいのか?)
と、思いつつも。
「……えっと、触ってみます?」
「よろしいのですか!?」
「え、はい、ど、どうぞ……」
凄い勢いで食いついてくるリルに若干引きながら、ハクを差し出すユウシア。それを恐る恐るというように受け取ったリルは、おもむろにハクを持ち上げると、
「男の子なのですね……」
そう呟く。
(男の子なのか、知らなかった。それよりも、いきなり何を確認してるんだこの王女様は……)
そんなことをしている間に壇上に来たアヤが、リルを見て口を開く。
「わぁー、王女様、近くで見るとますます綺麗だねぇー」
「色々とツッコめそうなこの状況でその感想が出てくるアヤはある意味尊敬出来るよ」
「へ?」
全く意味が分かっていないアヤであった。
++++++++++
「……で、結局王都行きと」
あれから数日、ユウシアはアヤと共に馬車に揺られていた。
揺られていた、とはいうものの、揺れはほとんどない。それもそのはず、この馬車は、王族や貴族が乗るような豪華なものなのだ。
というよりも、
(肩身が狭い……!)
向かいに王女が座っている。
そしてその隣には、鎧を脱いだフィルが。
(うーん、ますます似ている……)
あの後聞いたところによると、実はフィルはリルの妹――つまり、この国の第二王女らしいのだ。自分は剣を振る方が性に合ってる、ということで騎士をやっているらしいが。要するに、武闘派の王女様なのだ。
ちなみに、それを聞いたユウシア達が態度を改めようとしたところ、今まで通りで構わない、と言われてしまった。どころか、リルからももっと砕けた言葉遣いにしてほしい、とお願いされてしまった。命の恩人に敬語など使ってほしくない、ということらしいが、果たしてそれでいいのか、王女様。
閑話休題。
ともかく、ユウシア、アヤ、リル、フィルの四人とハク一匹で乗っているこの馬車だが、とても肩身が狭いのだ。リルとフィルの地位もあるが、何よりも、男女比一:三(ハク除く)という状況が。
そのためユウシアは、馬車に付いている窓から外を眺め、無心に徹していた。
何故なら、後ろでガールズトークを広げる三人の話題が、
「それでね、目が覚めたらユウ君が近くにいて、訳が分からない私を助けてくれて……!」
「まぁ! それでは、私達はユウシア様に助けられた仲間、ということになりますわね!」
「……姉上、何故そこで勝ち誇ったような笑みを向けてくるのだ!」
完全にユウシアのことなのだから。
(あぁもう、早く王都着かないかなぁ!)
王都まで、馬車でおよそ一週間。馬車はゆっくりとはいえ、かなりの時間だ。
道のりは長い。
フィルの立場は、隠していない訳じゃないんです。ただ、ユウシア達にはどうせ知られることになるだろうからいいか、と。
そして、このまま行くと第一章だけで凄い話数になりそうなのでここで終わりにします。だから、次からは隔日更新になるかと。
……あっ、次は例のごとく(?)幕間入りますよ。