暗殺(?)阻止
いきなり物語が動き始めます。動かしちゃいます。
そういえば、あらすじの最後ちょっとイジったら閲覧数若干伸びたような……ふざけたのがよかったの? それとも関係ない?
翌日ユウシアは、アヤを連れて再びフリーマーケットエリアへとやって来ていた。ユウシアが買ったマントを見て、「私も何か服欲しい!」と言い出したのだ。
そして今日は、予定されていたリル王女の演説が行われる日でもある。アヤの服を買ったらそれを見て、その後少し滞在してから王都に向かおうか、とユウシアは計画している。
「……それで、アヤ。いつまで服見てるの?」
「女の子のショッピングは時間かかるの! あ、これも可愛いな……でもこっちも捨てがたいし……うーん」
まだまだかかりそうだ、と思わずため息を吐くユウシア。
「あ! ねぇねぇユウ君!」
「ん?」
「これ、ハクちゃんにピッタリじゃない?」
そう言ってアヤが手に取ったのは、ユウシアの髪と同じ水色のハンカチ程の大きさの布。
「ほら、これを、ハクちゃんの首にスカーフみたいに巻くの。従魔の証明にもなるかもしれないし、ユウ君と同じ色だし。あと可愛いし」
「……だってさ。ハク、どうだ?」
ユウシアは後ろを見て、我が物顔でマントのフードに入っているハクに問いかける。
「ぴ?」
ユウシアの声に顔を上げたハクはパタパタと飛び上がり、アヤの手にある布を見る。
「ぴぃ……ぴ!」
少し見つめたあと、布を咥えてユウシアの手に置くハク。
「お気に召したみたいだな」
「そうだね。……折角だし、私の服も青系統にしようかなぁ」
アヤが再び他の店を物色し始めるのを見て、布を購入したユウシアもそれをハクの首に巻いてから追いかける。ハクは満足気にフードに戻っていた。
「どうしようかなぁ……」
「ふあぁ……」
あまりの長さにユウシアがあくびを漏らしていると、
「……よし、君に決めたっ!」
アヤのそんな声が。そちらを見ると、彼女はユウシアの髪よりも更に薄い、白に近い水色の清楚なワンピースを持っている。
「という訳でユウ君、これ買って?」
「……あぁ、そういえば財布握ってるのは俺だったっけか」
そう呟いて店主に金を渡すユウシア。鉄貨二枚、生地の質を考えれば妥当だろうか。ちなみに、ハクのスカーフは石貨三枚だった。
「んふふー、ユウ君、ありがと」
「どういたしまして。でも、さすがに旅の途中は着ないようにな」
「分かってるよ。それじゃあ次は、王女様を見に行こ!」
「そうだな」
++++++++++
街の中心にある広場。そこに用意されたステージに上がったのは、桃色の長髪を靡かせる、穏やかな顔つきの美女だった。それと共に、護衛としてか騎士が数人上ってくる。
「あれが王女様かぁ……綺麗な人」
アヤがそう呟く中、ユウシアは何故か既視感を覚えていた。
(どっかで見たことある顔な気が……うーん、思い出せない)
壇上に上がったジルタ王国第一王女、リル・ヴィレント・ジルタが優雅に一礼すると、広場にこれでもかと集まった民衆から感嘆の息が漏れる。ちなみにユウシア達は、人混みから少しでも逃れようと広場の端に立っている。
「皆様、ごきげんよう。ジルタ王国第一王女、リル・ヴィレント・ジルタです」
自己紹介から始まった演説の内容は、この国にある奴隷制度、その奴隷の扱いについてだった。
この国での奴隷は身売りや犯罪奴隷などが主であり、それ相応の理由をもって奴隷とすることになっている。しかし現在、人攫いが多発しており、そこから奴隷商人に流れていることが多いというのだ。
それだけではない。奴隷にも人権を認めるこの国だが、正規の手段で入手した奴隷でも、非人道的な命令を下す主人がいたり、本来は認められていない命令を強制するための魔導具を使う主人がいたりと、奴隷の入手から利用まで、様々な問題点が存在する、そしてそれらは民衆の意思で改善出来るものである、と、そういったことを訴えるような内容だった。
それを聞いたここに集まる者の多くは、許せない、と怒りを燃やしているようだ。
「内容もそうだけど、話し方が上手いな……」
「話し方?」
「うん。表情や仕草で話に引き込ませて、特に酷い部分をより強調することで怒りを煽る……もしこれが犯罪のための煽動でもしてたら、と思うと恐ろしいな……。――!」
「ふーん……って、ユウ君? どうしたの?」
丁度話を終えたところで雰囲気を変えたユウシアに、アヤが不思議そうに問いかける。
ユウシアは、何やら右手を後ろに回して動かしつつ、壇上を睨みつけながら答える。
「……いや……なんでもない、ことにしといて欲しい」
「え? それってどういう――」
こと、とアヤが聞こうとしたときだった。
「リル王女、覚悟ッ!!」
いきなり壇上に上がった男が、剣を片手にリルに突撃し――
「――ふっ!」
そんなユウシアの声と共に、突撃の勢いそのままに倒れたのは。
「……え?」
驚きに目を見開いていたリルが間の抜けた声を上げる。
「今のは……」
護衛としてリルの前に立ちはだかっていたフィルが兜の中で呟く。
彼女には見えていた。武器を手に走り出した男の眼球、その中心に、どこかから飛んできた釘が刺さるところが。
もちろん、と言っては何だが、これはユウシアが投げたものだ。先程右手を後ろに回していたのは、怪しげな動きをする男を発見し、後ろにある使われていない屋台らしき建物から釘を抜き取るため。あとはそれを【五感強化】による視力の補正、【武神】によるコントロール、そして持ち前の技術を合わせて投げれば、隙だらけの相手の急所を狙うなど簡単なことだった。これで男は死んでしまうかもしれないが、相手も殺そうとしていた以上命を奪われても当然だとユウシアは考えているし、情報がどうのと言われたところで――
「情報源ならもう一人いる。【集中強化】」
「ユウく――ひゃっ!?」
地面を抉るような勢いで飛び出したユウシアは、迷わず壇上へと飛び込む。
「きゃあっ!?」
突如飛来した人間にリルが声を上げるが、ユウシアはその横を通り過ぎ、リルの背後から剣を振りかぶっていた一人の、
「……さて、色々と吐いてもらおうか」
騎士を捕獲した。
おっとぉ? 護衛のはずの騎士さんが捕まっちゃったぞぉ?




