全裸女神降臨
サブタイが危ない……!
「「…………」」
「うぇへ、うぇへへへ……ボールと仲良く、ね」
絶句する二人に、看板娘が気持ちの悪い笑みを浮かべながらそう言って、天井の板を閉める。
「それじゃあ、ごゆっk」
バァンッ!!
「「「!?」」」
突如響き渡る大きな音。音源は、ユウシアの後ろだ。
ユウシアが恐る恐る振り向くとそこには、
(これが般若か……!?)
そう思わずにはいられない恐ろしい表情をしたこの宿屋の女将が。あの音は、扉を勢い良く開いた音だったのだろう。
「お、お母さん……」
「ミーナ……私はいつも言ってるはずよ? お客様に迷惑をかけるな、って。理解出来ていない訳じゃないでしょう?」
「は、はいっ!」
女将の冷たい声に、ミーナと呼ばれた看板娘が身を震わせながら返す。
「ミーナ、降りてらっしゃい?」
女将にゆっくりと手招きされたミーナは、天井裏から飛び降りる。
(わーお、見事な着地)
そんなどうでもいいことを考えているユウシアを尻目に、女将にゆっくりと近づいていくミーナ。
ゆっくりと……ゆっくり……ゆっく
「遅い!」
「イエス、マム!!」
瞬時に近づいたミーナが、女将に捕縛される。
「あ、あの縛り方って……」
「亀甲縛り、だと……!?」
その恐るべし手際にユウシアとアヤが戦慄しているが、縛られたミーナを平然と担いだ女将はつい先程までの恐ろしい表情を霧散させ、そんな二人に笑いかけてくる。
「ご迷惑をおかけして、ごめんなさいね。よーーく言い聞かせておきますから」
ミーナが潤ませた瞳をこちらに向けてくるが、ユウシア達はゆっくりと手を振るしかなかった。
++++++++++
その後、宿の食堂で夕食を食べたユウシアは、これまた宿にあった大浴場を訪れていた。
「おぉ、広い……奮発した甲斐があったな」
そう。実はこの宿、結構お高めの所なのだ。その分部屋は広く綺麗だし、食事も美味しいし、こんな風呂まで付いているのだが。
もちろんちゃんと男女分けしてあるこの浴場だが、男は風呂など面倒であまり入らないらしく、今は丁度ユウシアの貸し切り状態だった。風呂へ向かうユウシアをミーナ(散々怒られて涙目だった)は、物珍しそうな目で見ていたものだ。
とりあえず体を洗ったユウシアは、早速湯船に入る。
「ふぅ〜……」
久しぶりの入浴に思わず声が漏れる。
湯船で体を弛緩させたユウシアは、今後のことを考え始める。
「とりあえず、オーブ集めのために情報収集しないとなぁ……情報が集まるところといったら、やっぱり王都か?」
「そうですねぇ……」
「でも、今王女様が来てるって言うしなぁ……折角だからひと目見ておきたいよなぁ……」
「綺麗な方らしいですからねぇ……」
「……ん?」
「どうされました? ユウさん」
「うっわぁ!? ごぼっ!」
驚きのあまり溺れかけるユウシア。慌てて体勢を立て直し、それを見る。
「……えっと、ラウラさん? 何をなさってるんです?」
そう。何故か現れたラウラを。
「いやぁ、丁度出れそうだったもので、つい」
「つい、って何だ、つい、って」
「いいお湯ですねぇ……」
「話をそらさない」
「いたっ」
ユウシアのチョップを受け、頭を押さえるラウラ。
「何ですかユウさん、感動? の再会だって言うのに、いきなりチョップなんて。酷いです」
「雰囲気ぶち壊しだよ。って言うか、自分でハテナ付けちゃってるし。で、どうやって現れた全裸女神」
「えっと、このお湯、どうやらこの前の川と同じ水みたいなんですよね。あとは、すぐ近くに教会があるおかげで、神気が失われるどころか強まったのではないかと。全裸なのは、お風呂だからですよ。決して服を作るだけのリソースがなかったとかではありません。えぇ、ありませんとも」
「なるほど、全裸なのにはそんな二つの理由があったのか」
「あれ? ユウさん私の話聞いてました?」
「ところで」
「あ、無視ですか」
「他にも人入ってくるかもしれないけど?」
「私の姿はユウさんにしか見えないので、問題ありません」
「そうなると、俺は一人で喋ってる頭のおかしい奴ってことになるんだけど」
「……問題、ありません」
若干目をそらしながら返すラウラ。ユウシアの額に青筋が浮かぶ。
ユウシアの無言の威圧に耐えられなくなったラウラが、それよりも! と声を上げて立ち上がる。
「ユウさん、私、裸なんですよ? ほら、女神の裸ですよ? 興奮しないんですか?」
「慣れた」
「慣れた!?」
「いやだって、子供の頃は風呂入れてもらってたし」
「そんなぁ……」
その場にくずおれるラウラ。
(……実は我慢の限界だったりしないでもないけど)
ユウシアが顔の向きを正面に戻しながらそんなことを考えていると、隣から視線が。
ラウラを見てみると、彼女もこちらに視線を向け……
「ユウさん、ご立派になられて……」
「下半身を見ながら言うんじゃない! あぁもう、ラウラが壊れてきてる……!」
「失礼な。私はまだ数万年は生きますよ」
「そういうことを言ってるんじゃない」
言いながら立ち上がったユウシアは、出口へと向かって歩いていく。もちろん、前はしっかり隠しつつ。
「ユウさん、もう出るんですか?」
「ラウラがいるから落ち着かないんだよ……」
「……何だかんだ言って、ユウさんもお年頃なんですね」
「余計なお世話だ!」
この後ラウラの本体は、分身に込める感情を間違えたと嘆いていたとか、いなかったとか。
たまたま分身が暴走しただけで、本来のラウラはもっとおしとやか、なはずです。
……この作品にマトモな女性がほとんど出てきていないのは気のせいだろうか。