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遊都カルテリア

 おまけです。もう一本、これの前に登場人物紹介が挟まれてます。よろしければそちらもどうぞ。

 五国間学生武闘大会から数日後のある日。

 ユウシアは、小国、アトルル共和国にある遊都カルテリアにいた。

 ここカルテリアは、遊都という名が表す通り遊ぶためだけに作られた街で、学園祭のミス&ミスターコンテストで優勝賞品となっていたペア旅行の行き先である。

 そして、ご存知の通りコンテストで優勝したのは、ユウシアとリルの二人。という訳で彼らが二泊三日の旅行へやって来たその初日。

 ユウシアは砂浜にて、一人海を眺めていた。こう、ボーッと。

 この日は海で遊ぶということで、当然ユウシアもリルも水着に着替える必要がある。こういった時に女性の方が時間がかかるのは世の常であり、ユウシアはリルが来るのを待っているのだ。

 そして、


「ユウシア様、お待たせしました」


 完全にリラックスするため全てのスキルを止め、ただ無心になっていたユウシアにリルが声をかける。


「いや、全然待ってな――」


 振り返るユウシア、停止。


「……ユウシア様?」


 首を傾げるリルは、当然水着姿だ。


「……嘘だ」

「ど、どうされました? その、似合っていませんか……?」


 不安げなリルに、しかしユウシアは首を横に振る。


「いや、違う。すごくよく似合ってる。似合ってるんだけど……これは、可愛い? 綺麗? 美しい……? ダメだ、俺は今のリルの尊さを表せる言葉を知らない……! こんなの嘘だ……っ!!」

「と、とうと……その、気に入っていただけたようで何よりですわ……」


 割とバカな内容で本気で悔しがり歯噛みするユウシア。一応全力で褒め称えたい気持ちは伝わったのか、リルが顔を赤くする。

 しかし、いつまでも悔しがっている訳にもいかない。ユウシアは一度深呼吸をして落ち着くと、改めてリルを見る。


「……ミスコンの時とは違う水着なんだ」

「はい。その……ユウシア様にお見せするために、新しく」


 リルの水着は、ミスコンの時よりも露出の増えたビキニタイプの物。彼女の言う通り、ユウシアに、いや、ユウシアだけに見せるために選んだ物だ。


「ここにいるのはユウシア様だけですから」

「んー、好き」


 色々な感情が振り切れた結果、どストレートにその言葉だけを伝えるユウシア。リルはまたも顔を赤く――しない。


「……その、少し言い方が悪いかもしれませんが……慣れてしまったかもしれません」

「慣れ……何に?」

「ええと、好き、とか、そういった言葉に……」

「……俺今、そんなこと言ってた?」


 どうやら無意識だったらしい。


「あー……いや、言ってたかもしれない。ダメだ、感情が抑えきれなくなってる……えぇと。まぁ確かに毎日のように言ってるから仕方ないかもだけど、別にリルが慣れたとかは関係ないよ。俺が言いたくて言ってるだけだから。例え無視されようとも、好きだと思ったら俺はそう言う」

「……も、申し訳ありません、ユウシア様。やはり慣れてなど……恥ずかしい……」


 至って真面目な顔で言うユウシアに、結局リルは顔を赤くしてしまう。


「……あ、でも、無視はしないでほしいかな、出来れば。さ、時間がもったいない。遊ぼうか」

「は、はい!」


++++++++++


「……一部屋」

「はい。遊都カルテリアは、その日のたった一組のお客様の為に――現在であれば、ユウシア様とリル様の為だけに存在する街でございます。そして、お客様を最大限楽しませるのが遊都が住民の使命。聞けばお二人は恋人とのこと。我々はお客様のご意思にただ従う機械ではなく、自発的に行動出来る人間です。であれば、いらぬお世話と言われようともこういった部分でお二人の手助けをしたく思います」


 遊都カルテリアに一つだけ存在する宿。本当に同時来客一組限定なのかと疑いたくなる程の大きさのそこで、何故かユウシア達は「一部屋しか空きがない」と言われていた。自分達しか客はいないはずなのに。


「えっと……一部屋しか空いてないってことはないですよね。これだけ立派な宿なんだし、一緒に旅行に来た人達が必ずしも同じ部屋に泊まるわけでもないだろうし」

「いいえ、空きは一部屋のみでございます。我々は、お客様がこの街にいる間最高の時間をお約束します。当然それは宿も例外ではありません。となればそれ相応の準備も必要であり、現在一部屋しかその準備が出来ていないのです」

「……それならもう一部屋準備」

「それにぶっちゃけ、ジルタ国王陛下から準備するのは一部屋でいいとのご注文が」

「あの人の差し金かッ!!」


 いらぬお節介をかけていたのはどうやら義父だったらしい。目の前の従業員(兼住民)も、周りの従業員も乗り気なようだし、これはもう自分達がいくら言ってももう一部屋用意されることはないだろう。


++++++++++


 ――という訳で、自分達が泊まる部屋へとやって来たユウシアとリル。最上階の角部屋である。


「……うっわ、散々言ったあとになんだけどめちゃくちゃいい景色」

「ありがとうございます。当宿は全室最高の居心地であることを自負しておりますが、その中でも最も良い部屋でございます。――では、私はこれで。何かありましたらどのようなことでもお申し付けください」


 ユウシア達をここまで案内した従業員が、音もなく部屋を出ていく。


「俺でも感心しちゃうくらいの隠密っぷりだな……そういえばリル、この宿に来てから一言も喋ってないような気がするんだけど……同じ部屋になっちゃっても大丈夫だった?」


 従業員が離れていったのを確認しつつ、ユウシアはリルにそう問いかける。と、本当に全く話していなかったリルが、ようやく口を開く。


「いえ、その……わたくしは、ユウシア様と同じ部屋が、よかったですから……」

「……リル」

「へ、変な意味ではなくてですね!? 武闘大会の間はユウシア様とほとんど一緒にはいられませんでしたし、その後も何かとお忙しいようでしたし……ようやくこの旅行でゆっくり出来て、で、出来れば、今までの分もずっと一緒にいたいな、と……お、同じベッドで寝るというのも初めてではありませんし!」

「へぇ……同じベッドで寝るつもりなんだ。この部屋、ベッドはちゃんと二つ用意されてるみたいだけど?」

「なっ……ちゃ、茶化さないでください! それとも、ユウシア様はわたくしと寝るのは嫌ですか……?」

「ごめんごめん、冗談だよ。俺も一緒にいたい。一緒に寝よう」


 頬を膨らませるリルに、ユウシアはクスクスと笑いながらそう返す。しかし、ベッドの数を確認するため寝室の方を向いていた顔を何故か戻そうとしない。

 それもそのはず、リルの言葉に顔が赤くなっているのが分かってしまったので、彼女にその顔を見せたくないのだ。

 しかし、愛するユウシアのおかしな行動を見逃すリルではない。どうせこっそり動いてもバレるのが分かりきっているので思い切ってユウシアに近づくと、そのまま彼の顔を少し強引に自分の方に向ける。


「ちょっ!?」

「ふふ……やっぱり。ユウシア様、照れているんですか?」

「っ……リ、リルの方こそ。顔が赤いよ」

「お揃いですわね」


 微笑みながら言うリル。ユウシアは苦笑して、


「……敵わないな」


 と呟く。


「そうです、ユウシア様」

「ん?」

「先程聞いたのですが、厨房をお借りして自分達でご飯を作ることも出来るそうなのです。ユウシア様は、宿のお料理とわたくしのお料理、どちらがいいですか?」

「んー……リルの……と言いたいところだけど、それは明日に取っておいて、今日は宿の料理を楽しもうかな」

「……ユウシア様は、食事の時好きな物は先に食べますか? それとも取っておきますか?」

「取っておくタイプかな。楽しみも、ね」

「うふふ……分かりましたわ。遊都カルテリアのお料理、何が出てくるのかとても楽しみです。お勉強させて頂きましょう」

「……なるほど、リルの料理が更にグレードアップするのかもしれないのか……ますます明日が楽しみになってきた」

「お料理だけではありませんわ。明日も明後日も、目一杯遊都を楽しみましょう。せっかくの二人きりの旅行ですから」

「それじゃあ、しっかり食べてしっかり寝て、明日に備えようか」

「はい!」


 ――念の為に言っておくが、この日とその翌日の夜、二人は本当に同じベッドでただ寝ただけである。それ以外は特に何事もなかった――宿の従業員の準備・・が一部無駄になったことも付け加えておこう。

 ちょっと見返してたんですけど幕間の短編って投稿ペースがどうのとかは関係なく久しぶりなんですね。前回あったのが三章の後ですよ。書き終えてから確認したから今まで過去編みたいな感じで書いてたの完全に忘れてたし。

 でまぁ忘れた結果が、本編で出てきたペア旅行イベントの雑な回収です。正直これだけで一章とか絶対無理だし。ならもう短編でいいかな、と。そんな感じ。

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