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“元”暗殺者の転生譚!  作者: 浅野陽翔
武闘大会(デカい方)
213/217

最速

 ――その後、グラドとの試合はその背中に短剣を押し当てたユウシアの勝利に終わり、翌日。

 ユウシアは再び闘技場の中央に立っていた。相対するはニア。

 昨日、一昨日に引き続き、各国大将同士の一騎打ちだ。本来一騎打ちとなるのはメンバーの棄権によりそうせざるを得ないディオネスとの試合だけの予定だったのだが、例の事件のせいで日程が一週間程遅れていて、一日でも早く大会を終わらせなければならなくなってしまった。学生達の予定はある程度融通が利くだろうが、観客の中には貴族も数多くいて、多忙な中予定を詰めて見に来てくれた彼らをこれ以上引き止めておくことはもう出来ないのだ。

 選手の疲労もあるので試合自体は時間を開けて行うことになるが、試合が一騎打ちになることで出来た時間に、明日やる予定だった表彰式や閉会式などを行い、夜にはパーティー。明日朝イチで他国の代表や観客達が帰国することになっている。

 閑話休題。

 ニアが口を開く。


「二日連続ともなると、さすがに辛そうね」

「それはまあ。グラドもニアさんも、体力を温存しながら戦えるような相手じゃありませんから」

「悪いけど私はたっぷり休ませてもらったし、全力でやるわよ」

「……お手柔らかに」


 苦笑するユウシア。昨日の疲労はまだまだ残っている上に、消費した弾丸の補充も、多大な魔力を消費する必要があるためにできていない。とても万全とは言えない状態だが、それでも相手は待ってはくれないし、容赦なく向かってくるだろう。


(でも……勝たないと、な)


 闘技場の脇では、チームメイトであるシオンとアランが信頼の眼差しを向けている。観客席では、リル達が固唾を呑んで見守っている。


「期待、か」


 ユウシアは小さく呟く。


(前は――前世では、期待を向けられるなんてこと、なかったな)


 期待に応えなければ、というプレッシャーはもちろんある。だがそれよりもユウシアは、自分を信じて、期待を向けてくれる仲間がいる、という事実に喜びを感じた。


『――それでは、試合開始!』


 先に動いたのはニアだ。急激に加速しながらユウシアに近づいていく。


(分かってはいたけど、速いっ……!)


 瞬く間にトップスピードに到達したニア。その速度はユウシアですら目で追うのがやっとで、予測しなければ対応することすらできない。しかし、


「【完全予測】」


 こと予測に関して言えば、ユウシアのそれはほぼ予知の域である。

 ニアが攻撃してくる場所、そして方法を完全に予測し、完璧に対応してみせるユウシア。彼女が速すぎるためかスキルの予測と実際の動きにほとんど時間差がないが、それでも何が起きるか分かってさえいればユウシアには対応できる。


(スピードに付いてこれている訳ではなさそうだけど……完璧に読まれてるみたいね)


 何度攻撃を防がれても諦めることなく、走り続けるニア。一度足を止めてしまうと、今度は加速しきる前に攻撃されてしまいかねないので、止めることができないのだ。


(なら……!)


 読まれているなら、どれだけ正確に読みきったとしても間に合わないほど速くなればいい。今ここで限界を超えてしまえばいい。

 そんな無茶苦茶な考えを、しかしニアは実行に移す。

 当然、と言ってはなんだが、これだけの速度をスキルの補助もなしに出すことはできない。彼女が持つスキルの名は【電光石火】。その名の通り光の如き速度を手に入れられるスキルだ。つまり、理論上はその速度に限界はないに等しい。あとは使用者がその速度に付いていけるか、ただそれだけである。


「っ、なんて……!」


 速さだ、という言葉を飲み込むユウシア。泣き言を言っている暇があったら、少しずつ、しかし確実に速くなるニアを捉えることに全力を注がなければならない。

 結論から言えば、ニアの無茶苦茶な考えは、ユウシアの【完全予測】に対する答えとしては適切なものであった。その無茶苦茶な考えを実行し、無茶苦茶な才能で成功させてしまった彼女の動きは、今となっては、ユウシアの目に映る【完全予測】による彼女の影とほとんど重なってしまい、意味を成していないのだ。

 それでもなんとか経験から来る直感でニアの攻撃を防いでいたユウシアだったが、ついに勘を外して強力な一撃をもらってしまう。


「ぐっ!」


 レイピアによる刺突。言葉通り目にも止まらぬ速度で放たれたそれは、本来ならあり得ない衝撃波を伴ってユウシアを襲い、彼の体を大きく吹き飛ばす。そして攻撃を当てたニアはそれで満足などせず、勢いそのまま吹き飛ぶユウシアを追いかける。いや、もはや追いかけるというよりは、単なる並走――それですらない。何故ならニアは、すぐにユウシアの前に回り込んでしまったのだから。

 ある程度の余裕を持って止まったニアは、レイピアを構えてユウシアを待ち受ける。ルール上急所は外すだろうが、それでも彼女がここで確実に戦闘不能状態になるような攻撃をしないとは思えない。まさに、万事休す、といった状況。


「これで――ッ!」


 タイミングを見計らい、ニアは再びレイピアを前に突き出す。先程の攻撃でユウシアは右腕を失っていた。そして今度は左腕を切り落とす。本来突きで腕が落ちるなどということはまずないが、ニアは魔力の刃をレイピアの先端に作り出し、それを可能としていた。

 両腕がなくなれば、ユウシアはあの銃で回復することができなくなる。それでもまだ戦えない訳ではないが、両腕を失ったユウシアと万全の状態のニアであれば、どちらが勝利するかは明白というものだろう。

 半ば勝利を確信した彼女の刺突は、頭から吹き飛んでくるユウシアの左肩を確実に捉え――そして、


「……え?」


 ユウシアの体が、消えた。

 完全に予想外の結果に呆けた声を上げるニア。次の瞬間、彼女の意識は闇へ落ちるのだった――。

 ユウシアとアヤのもの以外で初めてスキルが出てきましたが、今後もこれまでのように他の人のスキルについての話が出てくることはそんなにないと思います。この人達みたいにたまに規格外のスキルも出てきますけど、スキルって基本的には“その人にできること”を言葉で表しただけのものなので。……そのつもりで書いてるので。決して考えるのが面倒だとかそういうことでは、ない。ないったらない。

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