いよいよ全力
大変お待たせしました。小説のトップのとこに二ヶ月以上更新されてないって書いてあってビビったけど私は元気です。もっと頑張って書きます。ハイ。
「あー……クソ、視界がボヤけやがるな」
頭に傷を負ったせいか、グラドは意識がはっきりしないらしい。愚痴を吐きながら額に手を当て、軽く頭を振る。
対するユウシアは、右の膝を砕かれ、持ち味であるスピードを活かした戦いはもう出来ない――はずだった。
「……おいおい、そいつはさすがにずりぃだろ」
ユウシアが手に持つそれを見て、グラドは苦笑いを浮かべる。
彼が持っていたのは、一週間前にもグラドに見せた銃。そして、そこに入っている弾丸もまた、一週間前と同じ物。つまり、
「せっかくあるんだ。使わないと勿体ない」
治癒弾。どんな怪我も――部位の欠損すらも治してしまう程の治癒力を誇る弾丸により、ユウシアの体は砕けた骨も含めて瞬時に全快する。
「ったく、冗談じゃねぇな。なぁおい、それはあと何回使えんだ?」
「治癒弾は、って意味か? ……普段なら言わないけど、今回は特別に。残り一発だ。あと二ラウンドは出来るぞ」
「二回倒せってか……」
はぁ、と、ため息を吐くグラド。しかしその態度とは裏腹に、表情には隠しきれない笑顔が浮かんでいる。
「……戦闘狂め」
「褒め言葉として受け取っとくぜ。……今まで散々張り合いのない奴としか戦れなかったところを、ニアの奴といいお前といい今回は歯応えのある奴がいる。でもってお前ともっと戦れるってんだ、これを喜ばねぇでいつ喜べってんだよ」
「…………」
心から楽しそうに笑うグラドに、ユウシアは呆れたように肩を竦める。しかし彼の口元にも、グラド程ではないにしろ小さな笑みが浮かんでいた。
「ハッ、お前も大概だな」
「……なんのことやら。それより、ほら。時間が経つと辛くなるのはそっちだぞ?」
「……チッ」
ユウシアの言うことも尤もだ。グラドの額からは今も血が止まることなく流れ続けていて、このまま放っておけば血液不足で意識を失ってしまうだろう。
グラドは小さく舌打ちをすると、大剣を構え直――そうとして、それをやめる。そのまま大剣を隣に突き刺すと、今度は拳を構えた。小さくない脳への衝撃と流血により意識が朦朧としている中では、剣で戦うことはできないと判断したのだ。
対するユウシアは、回復する前は行動不能間近にまで追い込まれていたことからか、真っ向から勝負することをやめ、完全に“自分の戦い”をすることに決めた。
「〔蹂躙ノ光刃〕」
大剣はしまい、代わりに光刃を出す。防御力を犠牲にして鎧を更に軽量化し、右手は背中に隠すように短剣の柄に触れ、左手で銃を構える。
「……いよいよ全力ってとこか」
「正直、あまり時間をかけすぎるとあと一回の治癒弾で足りるか分からないからな。悪いけど、さっさと終わりにさせてもらう」
「得意な戦闘スタイルで、全力で戦えばさっさと終わらせれるってか? ハッ、随分と余裕じゃねぇか。それとも俺は舐められてんのか?」
「余裕は別にないし、舐めてもいないさ。ただ、本気でやればそう時間がかからない自信はある。……生憎俺は、少し規格外らしいんだ」
「規格外、ねぇ。面白ぇ。じゃあその力ってやつを、見せてもらおうじゃねぇか。来いよ」
「……いいのか? 終わるぞ」
「終わらせれるもんなら終わらせてみろや」
「そうか……それじゃあ、遠慮なく行かせてもらう」
グラドの返事を待つことなく、ユウシアは左手の銃を発砲する。
本来、両手で構えた上で【集中強化】を全力で使ってギリギリ反動を抑えられる程の威力を誇る銃だが、それではあまりにも使い勝手が悪いということで、治癒弾を除く残り四発中二発は片手で扱える程度の威力に留めてある。つまり、本来の威力の弾丸、威力を抑えた弾丸、治癒弾でそれぞれ二発ずつあるということだ。
閑話休題。
放たれた弾丸は、グラドに向かうのではなくその直前の地面に着弾し、大量の土煙を巻き上げる。それにより視界を制限された彼に襲いかかる無数の光刃。一つ一つは小さいながらも、致命の威力を孕んだ刃を無視する訳にもいかず、彼はその対処に追われることになってしまう。
そしてその隙に【隠密】のスキルを使ったユウシアは、土煙に紛れてグラドの背後へと回り込んでいた。
光刃にグラドを全方位から襲わせつつ、本命である自身は短剣をその背中に突き立てようとする。――しかし、
「ッ!」
僅かな殺気を感じ取ったのだろうか、グラドが光刃を防ぎつつも振り返ったことにより、ユウシアは攻撃をやめて一旦下がる。
(恐ろしいまでの直感だな……でも、確信を持って振り返った訳じゃない。分かってさえいれば……)
今度は【隠密】を使ったまま、もう一度弱い方の弾丸を撃つ。今度は目くらましではなく、直接グラドを狙う――が、発砲時に大きな音がなるこれはさすがに躱される。
だが、相手の注意を引けさえすればそれでいい。先程の土煙はまだ残っているし、依然として光刃による攻撃も続けている。
ユウシアは、僅かにでも相手に気取られる要素を出さないように、何も言わず、ただ歩いてグラドに近づく。
そして、少しでも殺気を漏らさないように、ただ自然体で抜き放った短剣を――




