獣の戦い
今更ながらに、戦闘シーンマジ難しいなって思います。ていうか無理。もうずっと苦手です。じゃあなんで戦闘シーン入るような話書いてるんだろう……。
「……さて」
ユウシアは立ち上がる。
「勝とう」
勝利を、仲間達に捧げるために。
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『――それでは、皆さんお待ちかね、選手入場です! 先に現れたのは……昨日惜しくもニア選手に敗れてしまった、ディオネス帝国、グラド選手! 対するは、我らがジルタ王国の若きエース、ユウシア選手! 昨日に引き続き、大注目の一戦です!』
エルナの言葉に、会場が沸き上がる。しかしその歓声は、向かい合う二人の耳には届かない。
「随分と惜しかったな」
「負けは負けだ。あいつの方が強かったってだけだろ。まぁ、次は負ける気はねぇし、当然お前にも勝つけどな」
昨日の試合は、紙一重のところで最後の一撃を躱し、逆に自分の攻撃を当てたニアの勝利に終わっていた。とはいえニアの方も直撃を避けただけでその拳の衝撃は食らっており、グラドが気絶した直後に同じく気を失っていたのだが。本当にギリギリの、どちらが勝ってもおかしくないような戦いだった。
「生憎だけど……今まで試合に出てないぶん、しっかりとチームに貢献しないといけないんだ。負ける訳にはいかない。それに……負けるとも思わない」
「自信満々かよ。面白ぇ」
グラドはニヤリと笑みを浮かべる。そしてユウシアは、それには構わず戦う準備を始める。
「〔殲滅ノ大剣〕〔千変の鎧装〕」
取り出したのは、二つの装備。グラドの持つ物にも引けを取らない大きさの大剣と、つい先日手に入れた鎧。動きを邪魔しない革鎧の形を成しているが、その防御力は並の金属鎧では比にならない。
「……ますます面白ぇ。装備を俺に合わせてくるか」
「好きだろう? こういうの」
「よく分かってんじゃねぇか……小細工はなしだ。真っ正面から力比べといこうぜ」
「上等!」
グラドの言葉に、ユウシアは小さく笑いながらただ一言そう返す。そして二人は同時に実況席に目を向け――
『――試合開始っ!』
その宣言の直後、同時に走り出し、同時に剣を振るう!
当然ぶつかり合う二本の大剣。始まった鍔迫り合いをお互い中断せず、ただ全力で力を込める。グラドの言った通り、純粋な力比べだ。
体格ではグラドに大きく劣る、パッと見、華奢ですらあるユウシアだが、大剣は鍔迫り合いが始まった地点からピクリとも動かない。グラドがスキルを使っているかは不明だが、ユウシアは腕に全ての強化を集中させていた。
「……このままだと、埒が明かなそうだな」
「純粋な力は互角ってとこか……ダメだな、どんどん楽しくなってきやがる」
「奇遇だな、俺も結構楽しいぞ」
そう返したユウシアは、唐突に大剣から手を離す。ただの力比べは終わり――ここからは、技術の勝負。
一瞬反応が遅れてしまったグラドが前へつんのめる。その隙を見逃さないユウシアは、取り出した短剣をその首元へ向かって突き刺す――が、グラドに素手で止められてしまう。
そのままグラドも同様に大剣から手を離すと、掴んだ短剣を思い切り引くと同時に、それに引っ張られて丁度ユウシアの顔が来る場所目掛けて殴りかかる。が、即座に反応したユウシアが短剣を手放したことで、その拳は空振りに終わってしまう。
拳が空を切り、隙だらけになった腕を掴んだユウシアは、そのままグラドの巨体を投げ、地面に叩きつける。が、グラドは受け身を取り、すぐさま立ち上がる。お返しとばかりに自分の腕を掴んでいたユウシアの腕を取ると、その腕をグイと引っ張り、今度は逃れようのない拳を放つ。
「っ!」
ユウシアが咄嗟に顔を逸らすが、拳を躱し切ることが出来ず、頬を掠るように食らってしまう。直撃していなくとも、元がグラドの拳なだけあって、掠っただけでもかなりのダメージだ。無理やり腕を振りほどいたユウシアは一旦距離を取る。
(想像以上に対応してくるな……)
ユウシアは、短剣を止められるところ、そして反撃に殴りかかられるところまで予測していた。その上で相手の力を利用する形で投げを選択したのだが、グラドは言わば野生の勘のようなもので反応してくる。
基本的に相手の動きを読んで行動を選ぶユウシアだが、直感で対応してくる相手となると、動きを読むことすら出来ない。ならばどうすればいいか……簡単だ。
「よし、やめた」
「あ?」
「下手に作戦を立てるのは逆効果みたいだからな。俺も感覚に任せて動くことにした」
「……ハッ、そりゃいい。せっかくの楽しい戦いなんだ。変に考えずに、全力で楽しもうぜ」
ユウシアの言葉に、グラドは心底楽しそうに笑う。ユウシアもそれに合わせて小さく笑い――体を、自らの感覚に全て委ねる。
「……ほう」
そのユウシアの姿、その眼光は、獲物を狩る獣そのもの。それを見たグラドはどこか意外そうに呟き、そしてまた自分も、獣となる。
そうして始まるのは、理性のない、ただ本能で動く獣の戦い。
二人は足を止め、ただ正面から大剣を打ち合う。何度も、何度も何度も何度も。しかし、拮抗した二人の力は、互いに一歩も譲ることなく、どちらも傷つくこともない。
やはり埒が明かない――そう判断したのか、ユウシアが動き出した。
一旦下がると、大剣を真っ直ぐに構え、全力で地を蹴る。突進に備え、グラドが防御体勢を取った瞬間、跳躍。回転しながら、グラドの脳天目掛けて大剣を振り下ろす。
ユウシアの力に加え、遠心力と重力も乗ったその攻撃を、グラドは咄嗟に構えた大剣で受け止める。が、その威力に耐えきれずに膝をついてしまう。
ユウシアはお互いの大剣を支点に動き、グラドの顔面に膝蹴りを叩き込む。大剣の防御に意識を割かれていたグラドは、それを防ぐことなく受けてしまう。
不安定な体勢ではあるものの全力の膝蹴り。しかしグラドは、ほんの少し体勢を崩しただけで耐えきった。不安定な体勢のまま空中で身動きが取れないユウシアに、そのまま頭突きを返す。先程自分を蹴り飛ばした膝に向かうグラドの額は――硬いはずの膝に負けることなく、あろうことかユウシアの膝を砕く。
「っ……!」
目を見開き、足が地面に着き次第即座に飛び退くユウシア。右の膝が完全に砕けてしまい、動くことすらままならない。だが、彼の瞳からは、闘志が全く失われていない――それどころか、口元に笑みすら浮かんでいる。
「楽しそうに笑うじゃねぇか。でもよ、それじゃまともに動けねぇんじゃねぇか?」
「そうだな、右脚が全然言うことを聞いてくれない。でも……俺の膝は、タダじゃ持ってけないぞ」
そういうユウシアは、自分の額をトントン、と指差す。
「……とことん面白ぇな、おい」
ユウシアと同じように笑うグラドの額からは、大量と言ってもいいような血が流れていた。
膝。