策
ニアが闘技場内を縦横無尽に駆け巡り、神装騎士を翻弄する。その速度は全力で脚に【集中強化】を施したユウシアにすら迫る程で、常人の目には映ることすらない。
その恐るべき速度に、しかし神装騎士は少し遅れながらも付いていく。
「っ、こんな大きな図体で、ここまで付いてくるなんて……!」
それも、神装騎士の速度は、慣れてきたとでも言うように、少しずつ、しかし確実に速くなってきているのだ。ニアも最初は攻撃を余裕を持って避けていたのに、今は掠りそうになることが増えてきてしまっていた。
「グラド、早くしてちょうだい! あまり長くはもたなそうだわ!」
「うるせぇな、分かってんだよ! ――オラァッ!!」
余裕のない表情で叫ぶニアに、グラドは拳で答える。
動きの止まった一瞬の隙を突いたグラドの攻撃は、神装騎士の脚を捉え、その体勢を大きく崩すことに成功した。
「今っ……!」
ユウシアは銃を構える。狙いは――
(とりあえず、頭!)
一瞬で照準を合わせ、撃つ。前世で散々繰り返してきたその動きに迷いはない。
放たれた弾丸は、タイムラグなしに狙い通り頭に着弾し、大爆発を引き起こす。
「やったか……は、なしだよな」
フラグになるから――とかではなく、ユウシアには、そして爆発に合わせ神装騎士から距離を取ったニアやグラドにも分かっていたからだ。
「確かにすげぇ威力だが……」
「……えぇ。ダメだったみたいね」
爆発により舞っていた砂埃が晴れる。そこには、神装騎士が先程と全く変わらぬ姿で立っていた。
「傷一つない、か。せっかくの初陣だけど……活躍はまた今度かな」
困ったように笑いながら、ユウシアは銃をしまった。銃を撃った反動で崩れていた体勢を立て直して呟く。
「〔蹂躙ノ光刃〕」
その声に呼応して現れた光の短剣が、ユウシアの周囲に浮かぶ。
「それは……」
「手の内を隠すとか、言ってる場合じゃないんで。向こうが動く前に、こっちから仕掛けましょう」
「でも、どうする気? 頼みの綱の銃とやらも通じなかったのよ?」
「……策はあります。それがダメだったら……そのときまた考えますよ」
「まさかそのちっこい剣がその策だって言うんじゃねぇだろうな」
「違うよ、これじゃ威力が足りない。一部ではあるけどな」
「……まぁいい、俺は考えるのは好きじゃねぇ。その策とやらを信じるとするぜ。で、どうすりゃいい?」
「基本はさっきと同じ。ニアさんが引きつけて、グラドが隙を作り、俺がトドメを刺す。違うのは、俺が全体的なサポートに付くのと、最後に使う武器」
「了解。それじゃあ、行きましょうか」
ニアの言葉を合図に、三人は走り出した。それと同時に神装騎士も再び動き出す。
最初に神装騎士にぶつかったのは、ユウシアの光刃。オーブ製とはいえ結局のところただの短剣でしかないそれはあっけなく弾かれてしまうが、神装騎士の鎧に小さな傷を付けることに成功する。
(やっぱり……オーブにはオーブってことかな)
弾かれた光刃だが、ユウシアの意志に従いすぐさま神装騎士へ向かい、撹乱する。
「サポートって、こういうことね……!」
呟きながら、ニアも撹乱に加わる。そして――
「――ラァッ!」
自分から意識が完全に外れた一瞬。そこを的確に見極めたグラドが、先程と同じように拳を叩き込んだ。神装騎士の体勢が崩れる――いや、先程よりも強力な打撃により、神装騎士はその場に倒れ込む。
「さっすが……〔殲滅ノ大剣〕!」
光刃を消したユウシアは、続けて大剣を取り出し、大上段に構えた。空中に跳び上がり、落下の勢いを全て重さに変えて仰向けに倒れる神装騎士へと思いきり振り下ろす。
持っていた盾を掲げ防ごうとする神装騎士。ユウシアの大剣はその盾と真っ向から衝突する。
せめぎ合う大剣と盾。
「っ……オオオオオオッ!」
ユウシアが吼える。滅多にないこと――それだけ、全力ということだ。
しかし、大剣は盾に防がれたまま一向に動かない――それどころか、徐々に押し返されてきているではないか。
「くっ……そ……!」
腕を最大限【集中強化】し、更に力を込める。投げナイフの能力を遠隔起動し、盾を持つ腕を横から攻撃する。だがそれでも、再び拮抗状態まで持ち返したが……そこからが動かない。
「手伝うわ!」
と、そこへニアが加わり、盾を押し返そうと力を込める。更に、
「……仕方ねぇ!」
グラドは言いながら大剣の上へ回ると、そのまま拳を大剣の峰に打ち込んだ。
それで一気に勢いづいた大剣は、神装騎士の盾に深く食い込み――
バキィッ!
硬質な音を立て、盾が真っ二つに割れた。大剣は勢いを緩めることなく神装騎士の体へと届き、しかしその鎧にまたしても動きを止められてしまう。
「まだまだぁっ!!」
が、ユウシアは諦めない。限界まで振り絞った力を、大剣を握る手に込める。
「もう一発、行くぜっ!」
叫んだグラドは、神装騎士の体の上に乗ると、再び全力の拳を振り下ろす。
盾のとき以上の力を加えられた大剣は、一瞬の抵抗感のみを残し――その鎧を断ち切った。
盾と同様に、神装騎士の鎧が真っ二つに分かたれる。
「……やった、の……?」
大剣の柄に手を添えたままのニアが、呆然と呟く。
「中は空洞みてぇだな」
鎧の断面を見てひとりごちるグラド。そしてユウシアは――
「……残念ながら、まだみたいですね」
鎧の中から這い出て来るそれを険しい表情で見つめながら、ニアの言葉にそう返した。
何故だろう、そんなことないはずなのに戦闘シーン久々に書いた気がする……やっぱり苦手だ……。