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“元”暗殺者の転生譚!  作者: 浅野陽翔
武闘大会(デカい方)
201/217

神装騎士

「っ……」

「どうした、もう終わりか?」


 余裕そうな声を上げるグラドだが、その体の至るところに傷がつき、血が流れている。対してマルティナは無傷。しかし、額からは大量の汗を流し、疲労困憊した様子で膝をついていた。

 試合開始からおよそ三十分。その間マルティナは魔法を撃ち続け、グラドは碌な反撃もせずほぼ立っているだけ。ある程度の防御はしていたようだが、強力な魔法を何発、何十発と食らって立っていられる――それどころか平気な顔をしていられるというのは、普通のことではないだろう。


「はぁ……っ、はぁ……っ」

(魔力はほぼ使い切り、体力も限界、集中も途切れてきた……絶体絶命、というやつですか)


 マルティナは、小さく歯噛みして考える。そして――


「……降参します」

「へぇ? いいのかよ、おい」

「構いません。魔法は使えてあと一、二回。何より、私はもうほとんど動けない……このままやっても勝ち目はありません」

「……そうかい。おい、実況!」

『は、はい! えー、マルティナさんの降参により、勝者、グラド! マルティナさんに代わり、アルトゥス共和国大将、ニア!』


 エルナの言葉で、マルティナが試合場を降りる。


「すみません、ニア」

「いいの。あなたまでルーナのように怪我してほしくないわ。あとは任せて、休んでて」

「……ありがとうございます」


 ニアはマルティナに微笑んで手を振ると、試合場へと向かう。


「お前と戦うの楽しみにしてたんだよ。ユウシアってのの次に」

「あら、それは光栄ね。彼に劣って見られているのは少し気に入らないけれど」

「ハッ。誰が上かは――」

「――戦えば分かること、ね」


++++++++++


「……そうなるかぁ」


 ユウシアは、頬を引き攣らせながら呟く。

 彼の目の前には、各々の武器を構えるアルベルト、サミラ、カーマインが立っている。そしてその後ろには、腰辺りまで金髪を下げた男。彼がアルベルトに「ヴェレス司教殿」と呼ばれていた男だろう。


「この壁、誰かが通ると分かるっていうやつか」

「その通り。迂闊でしたね」


 ユウシアの言葉に答えるヴェレス。


「さて……なんの目的でここにいるのかは知りませんが、偶然、ということはないでしょう。なんであれこの場所を知られた以上――」

「――悪いけど、生きて帰る気満々なので。先手必勝、ってね」

「何を……」

「ぐっ!?」


 ユウシアがニヤリと笑い、ヴェレスが眉をひそめた直後、カーマインが呻き声を上げてその場に倒れ込む。続いて、サミラ、アルベルトもだ。


「っ、何を!」


 ヴェレスが叫ぶ。


「あなたもだ」

「なっ!」


 ユウシアが目を向けると、ヴェレスもまた苦悶の表情を浮かべて倒れ込む。彼らの脚からは血が流れていた。


「何を、した……!」

「腱を切っただけだ」

「まさか、動いてもいないのに!」


 ヴェレスの言葉に、ユウシアは小さく笑う。


「別に、動かなきゃ攻撃出来ないって訳でもないでしょう?」


 彼の周りに浮かぶ光の短剣。〔蹂躙ノ光刃〕だ。見つかったのに気付いた瞬間発動し、地面を這うようにして彼らの脚の腱を斬っていったのだ。


「さて、それじゃあ色々と質問をさせて――っ!」


 驚きに目を見開きながら屈み込むユウシア。その上を切り裂く刃。そして斬撃を放ったのは――確実に脚の腱を切断したはずの、アルベルト。

 彼だけではない。サミラとカーマインまで、なんでもないように立ち上がる。慌てて彼らの足元を見るが、やはり脚からは今も血が流れている。この短時間で回復した訳ではないようだ。


「なんで――くそっ!」


 疑問を問う隙もなく、二度目の斬撃が放たれる。その剣筋は、明らかに試合のときよりも速い。


「本気じゃなかったってことか!」


 小さく吐き捨てるユウシアだが、その顔には余裕がない。狭い室内だというのに、アルベルト達三人は完璧な連携で絶えず攻撃を仕掛けてくるのだ。途切れることのない猛攻にユウシアは回避するのに精一杯で、反撃に出る隙がない。


(こうなったら、こっちも全力で……!)


 ユウシアは自分の立っている姿を【偽装】すると、即座にその場に屈み込み、アルベルト達の隙間を縫うように移動して脱出する。


「〔殲滅ノ大剣〕!」


 そのまま真紅の大剣を取り出すと、振り返りざまに全力で振るう。


「っ!」


 大剣を防ごうとしたのかアルベルトが剣を割り込ませるが、その程度でオーブ製の武器を止められるはずもない。彼の剣は腕ごと弾き飛ばされ、そのまま三人まとめて壁に叩きつけられる。


「ふっ!」


 ユウシアが腰から取り出した三本の投げナイフを三人に放つ。それは狙い違わず三人に一本ずつ突き刺さり、彼らはその場に崩れ落ちる。投げナイフに塗られていた麻痺毒の効果だ。


「あとは――」


 と、ユウシアはヴェレスに目を向ける。アルベルト達が動けたのだから、彼も動ける可能性があると考えたのだ。


「フ、フフフフフ……よくやりました、皆さん」


 案の定、アルベルトも血を流しながらも当然のように立ち上がっていた。そして――


「まだ未完成なのですが、この際仕方がありません。試運転と行きましょう」

「それは……!」


 ヴェレスは、懐から取り出した水色の宝玉を、部屋の奥の暗がりにあって、今までは見えなかった石像に近付ける。

 水色の宝玉――そう、ユウシアが感じた違和感の正体であり、彼のよく知る物。つまり、


「さぁ、神の宝玉の力により、今こそ起動し、罪人共に制裁を加えるのです! 神装騎士カヴァリエーレ!!」

「どうしてオーブを持ってるんだっ!」


 オーブは水色の輝きを放つ。

 目を閉じずにはいられない強い光の中、騎士を模った石像だけが動き始めていた。

 神装騎士のルビ悩んだ結果、イタリア語で「騎士」を意味する「cavaliere(カヴァリエーレ)」に。フランス語の「chevalier(シュヴァリエ)」と迷ったんですけど、ほら、なんかこう、絶界で聖霊な感じになっちゃうから……。

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