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“元”暗殺者の転生譚!  作者: 浅野陽翔
武闘大会(デカい方)
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デタラメ

 なんか書くのに異常に時間かかった……なんだこれ……。

 アルベルト達は、他国、他校の土地であるにもかかわらず、道中いくつもある分かれ道を迷いなく進み続ける。


(地図か何かを見ていたのか、同じような構造の場所が彼らの身近にもあるのか、それともこの場所に何度か来たことがあるのか……いずれにせよ、ここに来たのが偶然でないことは確かか)


 偶然でこんな場所を見つける可能性はもちろん低いが、それでもないとは言い切れないだろう。

 ユウシアは考えながらも、一定の距離を保ちつつ彼らを追う。

 歩くことおよそ五分。アルベルト達が足を止める。その後ろ、丁度角になっている部分に隠れたユウシアは、顔を覗かせ、彼らの先を見る。


(行き止まり……?)


 少なくともユウシアの目にはそうとしか見えない。だが三人の中からアルベルトが進み出ると、唐突に声を上げる。


「ヴェレス司教殿。アルベルト、サミラ、カーマイン、到着しました」

『入りなさい』


 どこからか響く声。何かの魔法だろうか――とユウシアが考えていると、アルベルト達は何を思ったかそのまま壁に向かって進み始める。


(何を……っ!)


 アルベルトが壁に触れる。と、その体はまるで何もないかのようにそのまま壁の中に消えていくではないか。サミラとカーマインも同様だ。


(幻覚か……? ともあれ、少し面倒なことになったな……)


 あれでは先の様子を伺うことが出来ない。それに、何か魔法でも施されているのか、音も全く聞こえない。

 先が見えないので危険ではあるが、これは意を決して向かうしかないだろう。

 そう思ったユウシアは、一つ深呼吸をすると、壁に向かって歩き出す。

 壁の前に立つと、まずは本当に通れるのか、軽く手を出して確認。壁に触れるはずの手だが、なんの感触も返してこない。問題なく通れるようだ。


(さて……行きますか)


 もう一度、音を立てないように深呼吸して、ユウシアは足を踏み出す。目の前に迫る壁。反射的に目を閉じたユウシアだが、それも一瞬のこと。目を開けるとそこには――


「どうやらつけられていたようですね」


 こちらを冷ややかな目で見つめる、見知らぬ男の姿があった。


++++++++++


「ユウシア君、大丈夫ですかね」

「彼なら問題ないでしょう。それよりも私達が今するべきことは――」

「対策を立てること、ですね。分かってます」


 闘技場、観客席。優勝候補同士の試合を控え異様な静けさに包まれる中話しているのは、ヴェルム騎士学校“議会”の会長と副会長である、アランとシオンの二人だ。

 これから始まるのはディオネス帝国とアルトゥス共和国の戦い。その両方が、彼らジルタ王国がこの後戦う相手だ。どちらも強敵であり、なんの対策もなしに勝つことはほぼ不可能。メンバーが一人欠けているものの、残った二人で対策を立てるため、観客席の中でも一番見やすい席をどうにか取って試合開始を待っていたのだ。

 そして。


『さぁ皆様、お待たせしました! いよいよ今大会最初の目玉! ディオネス帝国対アルトゥス共和国の試合が始まります! まずは選手入場!』


 実況のエルナの言葉で闘技場の扉が二ヶ所開き、それぞれからディオネスのグラド、サルファ、セアルと、アルトゥスのニア、マルティナ、ルーナが入場してくる。場内を包む歓声。ニアだけはそれに答えて手を振っているが、他は見向きもしない。緊張しているのか、単純に興味がないのか……どちらともにいそうだが。


『えー……ディオネス帝国は変わらず、先鋒グラド・オルグ! 対してアルトゥス共和国も、同様に先鋒ルーナとなります! 両選手は試合場に上がってください!』


 グラドとルーナが向かい合う。両手にナイフを構えるルーナ。グラドの方は、今までのように退屈そうな顔で立っている。武器も持っていないようだ。


「……あまり、舐めないほうが、いい」


 ルーナが呟く。


「ハッ……確かに多少骨はありそうだが、たかが知れてんだよ」

「やれば、分かる」

「いいぜ、教えてやるよ。テメェじゃ相手になんねぇってことをな」

『戦意も十分なようですね! では――試合開始!』


 試合開始の合図。真っ先に動き出したのはグラドだ。

 ルーナに向かってまっすぐに走り込んでくる。何も考えていない特攻に見えるが、その速度は捉えることすら難しい。


「オラァ!」

「っ!」


 無造作に振るわれる拳を、ルーナはギリギリのところで防御する。しかしその驚異的な威力に、彼女の小柄な体は吹き飛ばされてしまう。


「ほら、どうしたよ。やっぱり口だけか?」


 グラドは追撃はせず、馬鹿にするように笑いながら問いかける。大きく吹き飛ばされたルーナは、少しふらつきながらも立ち上がり、グラドの腕を指差す。


「舐めないほうがいいと、言ったはず」

「……へぇ」


 ルーナが指差した、先程振るわれた右腕には、彼女のナイフが深々と突き刺さっていた。

 グラドはそのナイフを抜くと、血が流れるのにも構わず大きく振りかぶる。


「俺の体に傷を付けたことは褒めてやるよ。だが――それだけだ」


 お返しとばかりに投げつけられるナイフ。目にも止まらぬ速さで飛んだそれは、ルーナの脇腹を貫いた。


「ぅ、あっ……」


 小さな呻き声を上げて倒れるルーナ。


『おっと、これは……どうやら気絶しているようです! 勝者、グラド・オルグ! 正直何が起こったのかさっぱり分かりませんでした!』

『ナイフを思い切りぶん投げただけですね。音速くらいにはなってたみたいですけど』

『デタラメな……』

『殺しは禁止ということで、頭や心臓はしっかり避けてますね。速度が速度なので衝撃波も考慮して魔力で道を作ってたみたいです』

『あ、魔法も結構器用に使えるんですね。意外です』

『んー……使える、というか……あ、いえ、やめときましょ。次行きましょ。こちらを見る視線にユウシア君と同じものを感じます』

『はぁ、そうですか……ゴホン。それでは次は、ルーナさんに代わりまして、アルトゥス共和国中堅、マルティナ!』


 マルティナが試合場に上がる。ルーナは既に医務室に搬送された。


「始めましょう」

「へぇ、テメェはおしゃべりしなくていいのか?」

「あまり話すのは得意ではないので」

「そうかい。おい、早く始めろ、実況!」

『あ、は、はい! では! 試合、開始!』


 先に動き出したのは、やはりグラド。先程と同じように、まっすぐに突っ込み、思い切り拳を振るう。が、


「――ッ!?」


 マルティナはその拳を余裕を持って回避。そしてグラドの腕には、薄っすらとではあるものの血が滲んでいた。


「……なるほど、近接型魔法使いか……面白ぇ」


 マルティナは、腰にさした片手剣に触れてすらいなかった。魔法により鋭く尖らせた風を針のように飛ばし、グラドの腕を切り裂いたのだ。然程強力な魔法ではないとはいえ無詠唱での発動。さすがは国を代表するだけのことはあるといったところか。


「…………」


 ニヤリと笑うグラドとは対象的に、マルティナは冷静に次の魔法を準備していた。

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