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“元”暗殺者の転生譚!  作者: 浅野陽翔
武闘大会(デカい方)
198/217

奇襲

 二日目。第一試合、ジルタ王国対クレイド王国。

 ジルタ王国先鋒、シオン・アサギリ、クレイド王国先鋒、アメリア・セルワイト。


『それでは、試合開始!』


 エルナの合図で、先にアメリアが動き出す。

 アメリアの武器は、オーソドックスな両刃片手直剣に、これまたオーソドックスな円盾ラウンドシールド。これは他の二人も同じだ。

 装備が同じなのは偶然ではなくクレイド王国の方針で、得意を伸ばし要所要所で最大限の効果を発揮させるジルタ王国とは違い、兵装を統一することで騎士の汎用性を高め臨機応変な戦略を取るためのものだ。

 実際、盾でしっかり攻撃を防いで隙を見て剣で反撃する戦法はシンプルながら強い。ただ問題があるとすれば、ワンパターンになってしまうので対応されやすいことか。

 閑話休題。

 アメリアは、盾をしっかり構えながらゆっくりと様子を見るようにシオンに近付いていく。


「あくまで様子見、受け身の行動ですね。相手の情報もない状態での突撃は無謀な行為。守りに徹する、大いに結構です。ですが生憎、」


 アメリアには聞こえる程度の声で話していたシオン。その姿が彼女の視界から消える。


「なっ」


 声を上げかけるアメリア。


「私はどちらかというと、正面から戦うよりも奇襲をかける方が得意なのです」


 その声は後ろから。直後アメリアの意識は、闇に落ちた。


『っ……勝者、シオン・アサギリ! あまりに一瞬の決着で、私には何も見えませんでした!』

『ただ素早く後ろに回り込んで、首に手刀を一本。アメリアさんはあまり素早い相手には慣れていなかったんでしょうね。実に綺麗に入りました』

『すみません学園長、歓声で全然聞こえません!』

『いやいやあなた隣! いくらなんでも隣で聞こえないってことはないでしょう!?』

『はいそれでは続きまして、クレイド王国中堅、アリト・フィルサイル!』


 その声に合わせ、アリトが闘技場へ上がる。


「俺はセルワイトのようには行かないぞ」

「そうですか」


 アリトの言葉に、シオンは興味なさげに返す。


「……舐めるなよ」

『試合開始!』


 慎重に行動してもアメリアの二の舞いになるだけだと判断したのか、アリトは一気に駆け出す。


「突撃、ですか」


 先程シオンが、無謀だと一蹴した行動。


「確かにどちらかといえば奇襲の方が得意とは言いましたが……」


 別に、正面からぶつかるのが苦手という訳でもない。

 シオンは、腰の大太刀に手を添える。半身になり、腰を落とす。所謂居合の構え。

 二人がすれ違う。

 シオンはいつの間にか大太刀を抜いており、残心の姿勢から立ち上がると、それを鞘に戻す。


「殺す訳にはいきませんからね。峰打ちですよ」


 シオンが小さく呟いた直後、アリトは剣を振り切った姿勢のまま倒れ伏した。


『勝者、またしてもシオン・アサギリ! 強い!』

『いやぁ、鮮やかな太刀筋ですね。ジェノス君がこれにどう対応するのか見もの――おっと?』


 しっかりと解説の仕事を果たしていたヴェルムが不思議そうな声を上げる。その視線の先では、シオンが闘技場を下り、代わりにユウシアが出てきていた。


『これは……交代、ということでしょうか? えっと、シオンさんは敗北扱いとなりこの試合にはもう出ることは出来ませんが……あ、問題ないみたいですね。分かりました! では次の試合は、クレイド王国大将、ジェノス・ヴィル・クレイド対、ジルタ王国中堅、ユウシアとなります!』


++++++++++


 ユウシアは、闘技場の上でジェノスと向かい合う。


「無駄に一人減らすとはな。それが仇となっても知らないぞ」

「大丈夫。俺が負けるはずないから」


 馬鹿にしたように言うジェノスに、ユウシアはニッコリと笑ってそう返す。ジェノスの額に浮かぶ青筋。


「貴様……!」

「あれ、やっぱり王子様は煽られ慣れてない?」

「よし決めた殺す」

『あちょっ、まだ試合開始してなっ……あーもういいですスタート!』


 挑発にあっさり乗ったジェノス。彼が動き出すのを見て、エルナが慌てて試合開始のコールをする。

 本来であれば、クレイド王国戦は全てシオンが出てユウシアは温存しておく予定だったのだが、ユウシアとジェノスには因縁――と呼べる程かは別だが――があるので、少し無理を言って最終戦だけ出させてもらうことにしたのだ。


「俺の防御を容易く破れると思うなよ!」

「ごめん、破っちゃった」


 アメリアと同じように受けに回るつもりで取った、完璧な防御姿勢。自信に満ち溢れた宣言の直後のユウシアの気の抜けるような言葉。

 なんということはない、ただ盾を掴み、手刀で無理やり離させて奪い取ったただけ。


「っ!」


 それを認識した瞬間、盾は完全に捨てて数歩下がるジェノス。


「確かにあんなことを言えるだけの実力はあるのかもしれないけど……それ以前の問題だな。俺の方が圧倒的に強い」

「ふっ……盾を奪った程度で何を」


 実際、盾を失ったときを想定した訓練もしていたのだろう。剣を正眼で構えるその姿に隙はない。


「……というより、俺はこっちの方が得意だしな」

「……なるほど」


 それを見てユウシアは納得したように呟く。なんなら、半ばわざと盾を奪われたまでありそうだ。

 ユウシアは邪魔な盾を捨て、右腕を隠すように半身に立つ。隠した右手で、背中に装備した短剣をいつでも抜けるように触れておく。

 ジリジリと近付く二人。

 やがてジェノスの剣の間合いまで近付いたとき、


「ハァッ!」


 彼は構えた剣を勢いよく振り下ろす。

 ユウシアはそれを、抜いた短剣の峰、凹凸のある方で受け止める。そのまま刃先に左手を当て、梃子の原理でジェノスの剣を折ろうとするが――


(黒竜の角製の武器で折れないか……! さすが王子様、いい武器使ってるみたいだなっ!)


 武器の硬度としては最高級のはずなんだけど――と、ユウシアは思わず舌打ちする。

 武器破壊は諦めて弾き返し、ジェノスの胸を踏み台にバク宙をするように離脱。着地した瞬間地面を蹴り、ジェノスの後ろに回り込む。ジェノスはまだ体勢を立て直せていない。

 ユウシアはジェノスが倒れ込むのを止めるように背中に手を当てる。手の場所を動かし襟を掴むと、首に短剣を当てる。


「これで終わり」

「っ……降参だ」


 ユウシアが止めなければ、ジェノスの首を掻き切ることさえ出来ていた。ジェノスは剣を捨てて両手を上げ、素直に負けを認める。


『しっ……勝者、ユウシア! いつの間に回り込んだのでしょう! 全く見えませんでした!』

『実はあれ、もうちょっとスピード出るんですよねぇ。いやぁ、前に戦ったときは苦労しました。というか彼の真骨頂は、その隠行術を活かした――いえ、このくらいにしておきましょう。手の内をバラすなって睨まれてますし』


 言う通りユウシアに睨まれているヴェルムは、彼に向かってヒラヒラと手を振ってみせる。

 小さくため息を吐いたユウシア。試合も終わったことだし、と、闘技場を下りようとする。


「――あれで全力ではない、か」


 後ろから聞こえる声。


「ふ、ははははは。そうか……遠いな。認めよう。俺よりも貴様の方がリルには相応しい」

「……お前に認められる筋合いはないよ」


 ユウシアは肩を竦めながらどこか不機嫌そうに言って、改めて去って行くのだった。

 なんかユウシアがウザい人になってるけど相手某生ゴミさんだからね、仕方ないね。

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