暗躍
「何か言い訳は?」
「あっれぇ予想外れたぁ」
翌日、王城。ユウシアの前には、腕を組み、唇を尖らせるリルの姿があった。
「シオンさんから聞きましたわ。昨日の顔合わせで、ずっとニアさんという方とお話していたそうですね。綺麗な方だったとか。……言い訳はありますか?」
「妬いちゃうリルがめちゃくちゃ可愛い」
「かわっ……い、今はそういう話をしているのではありませんわ!」
「可愛いんだから仕方ない」
「むぅぅ……いつもそうやって誤魔化して……!」
頬を膨らませるリルに、ユウシアは小さく笑う。
「あはは……ごめんごめん。仲良く出来そうな人がニアさん達くらいしかいなくてさ」
「……それも聞きましたわ。でも、それとこれとは話が別ですっ!」
「……大丈夫だよ。俺はリルの前からいなくなったりしない。リルだけを愛してる」
そう言いながらユウシアは立ち上がり――実は今の今まで正座させられていた――、彼女を抱きしめる。
「……当たり前です。……私も、愛しています、ユウシア様……」
ユウシアを抱きしめ返すリル。と、
「……それであたし達は、何を見せられてるんだろうね」
「さぁ。いつものことだろう」
何やら外野――もとい、実は普通にいたアヤとフィルの声が。しかしどうやら、
「えー……この二人抱きしめ合うのやめないんだけど。もしかして聞こえてない? おーい、もしもーし。……ダメだこりゃ」
完全に二人の世界に入ってしまっているらしい。
「……これもいつものことだな。うん」
「否定出来ない……」
……ちなみに、ユウシアの方はちゃんと聞こえているのだが、 リルが嬉しそうにしているのであえてスルーしていたりする。リルは素で聞こえてない。
――と、そんなことを、ユウシアが苦笑を向けてきたことで察した二人。アヤは「リルってホントにユウ君好きだよねぇ」と苦笑を返し、フィルは何も言わず呆れたように肩を竦める。
とはいえそろそろやめた方がいいと思ったのかユウシアはリルの背中をポンポンと軽く叩く。それで我に返ったリルは顔を上げると周りを見て、アヤ達の姿を認めた途端顔を真っ赤に。再び、今度は別の理由で目の前にあった壁――つまりユウシアの胸に顔を埋めてしまう。
「……ダメだこりゃ」
再び苦笑しながら呟くユウシア。
「ごめん、ちょっと二人にしてもらっていい?」
顔を上げると、アヤ達に向けてそう聞く。
「……私達がここにいると、姉上がいつまで経っても元に戻らなそうだからな。分かった、少し出ていよう」
「その辺にいるから、大丈夫そうになったら呼んでね〜」
二人は、仕方がない、とでも言いたげな表情で言うと、さっさと部屋を出て行ってしまう。
「……ほら、リル。二人ともいなくなったよ」
「わ、私、二人の目の前で、あんな……」
「割といつもあんな感じだと思うんだけどなぁ……」
結構人目も憚らず――ユウシアの【偽装】もあるので――イチャイチャしている二人である。
「……言われてみればそうかもしれません……」
「かも、っていうか、なんていうか……まぁいいや。それで、もう大丈夫ならアヤ達呼ぶ?」
「あ、その……」
ユウシアの言葉に口ごもるリル。ユウシアが首を傾げていると、
「……ユウシア様は、明日から武闘大会ですから、寮に戻るのですよね?」
「うん。選手はそこに泊まることになってるから。それが?」
「……そうすると、二人きりになれる機会がしばらくなさそうで……あの、もう少しだけ、このままでは駄目でしょうか?」
「…………」
ユウシア、硬直。
寂しそうに見上げてくるリルが、
(可愛すぎるっ……!!)
という、まぁ、いつもの感じである。
そのまま何も言わずリルを抱きしめるユウシア。
「ユウシア様……ふふっ」
嬉しそうに笑いながら、リルもユウシアを抱きしめ返す。
先程までと同じような状態になった二人は、そのまましばらく、何も言わず抱きしめ合っていた。
そして外に追い出された方の二人は、そんな展開になるであろうことを予想して、さっさとどこかへ行ってしまっていた。賢い。
++++++++++
「先の計画は、何者かによって合成魔獣が討伐され、失敗に終わった」
「しかし改良を重ね、合成魔獣の力は飛躍的に向上した」
「回りくどいことはせず、次は我らの手で、直接中心部に召喚する」
「我らに失敗はあり得ない」
「我らには御加護がある」
「我らが同胞以外この世界には必要ない」
「「「全ては御心のままに」」」
ねじ曲げられた意思は、暗躍する――。
何か起きそうな感じで引っ張っておきます。このペースだといつ起きることやらですが。




