黒竜襲来
今回は時間に余裕を持って投稿出来たぜ。
その轟音で、ユウシア達がいた部屋そのものが大きく揺れる。
「ひっ!?」
扉の付近にいた衛兵が外を見て、小さく悲鳴を上げる。
「何があったんだ!!」
焦った様子で強く問いかけるフィル。
「は、はっ! み、南の方から、ド、ドラゴンがっ!!」
「なっ!?」
驚きのあまり絶句するフィル。ユウシアも同様に目を丸くする。
ドラゴン。ファンタジーの世界ではよく目にするモンスターだ。その力は絶大であり、例に違わずこの世界でも魔獣の頂点といっても過言ではない。
そんな魔獣が何故ここに。いや、それよりも――
(南、だって……? まさか、村が襲われてたりは……!)
南、というと、ユウシアが来た方向である。つまり、カンナ達の住む村も南。もしあの村が襲われていたりしたら、壊滅は必至。
そんなユウシアの考えをよそに、フィルは外へ出ようとする。
しかし、それは報告に来た衛兵によって止められてしまう。
「何をする、どけ! 皆を逃さなければ!!」
「逃げるのは貴女です、フィル様! ご自分の立場は理解なさっているでしょう!?」
「しかしっ――」
言葉に詰まるフィル。
ユウシアはそんな二人を気にも止めず、衛兵の脇をすり抜けて外へと出る。
「あれが、ドラゴン……?」
外を見て、呆然と呟くユウシア。
そこにいたのは、街を取り囲む防壁をも超える高さを誇る、巨大な、漆黒の竜。
入街検査のため並んでいた者達は我先にと門へ逃げ込み、衛兵達は黒竜に向けて武器を構える。しかし、恐怖には勝てないのだろう、腰が引け、手に持つ武器も、自らの足も小刻みに震えている。
「フィル様ッ!」
衛兵の制止を押し切り外へと出てきたフィルもそれを目にして、思わず、といったように一歩後退る。
「ダークドラゴン……」
フィルがそう呟く。
ダークドラゴン。ユウシアも聞いたことがある。温厚な性格で聖竜として知られるホワイトドラゴンが何らかの要因で変化した姿で、とても攻撃的な性格で、多種多様かつ強力な攻撃系ブレスを操る。ただし、白竜は鱗がとても硬いのに対し、黒竜は鱗が軟化し、防御力が低下しているという。それでも、ちょっとした刃物くらいなら弾き返して仕舞う硬度があるが。
「ゴガァァアアアアッ!!」
黒竜が吼える。
たったそれだけで衛兵達は吹き飛ばされ、揃って防壁に叩きつけられ、気を失う。
「ユウ君!」
「アヤ!?」
と、そこへアヤが駆け寄ってくる。そちらを見ると、後ろの方から見張りの衛兵が走ってくるのが見える。抑えられるのを無理やり振りほどいて来たのだろう。
「これって――」
「逃げろ!」
「え?」
アヤが何か言おうとしたのを遮って、ユウシアが逃げるように言う。
「いいから、早く!!」
「でも、ユウ君は!?」
「俺は――」
言いながらユウシアは、街の方へと向かおうとした黒竜に向け、懐から取り出した短剣を投擲する。それを見たフィルが驚いたように彼の方を見る。武器は持っていなかったはずなのに、とでも言いたいのだろう。それもそのはずだ。これは、見つからないように【収納術】を使ってポケットにしまっていたのだから。
ユウシアが投げた短剣は、手錠を付けたままだったにもかかわらず、狙いたがわず、黒竜の目に命中する。彼にとって、こういった場面で眼球を狙うのは基本中の基本だ。どんな生物も、眼球は鍛えられない。どれだけ硬い皮膚を持っていたって、眼球は軟らかいのだから。
「グギャォォォオオ!!」
黒竜が堪らず、といったように声を上げる。
「――あいつを引きつける!」
続きを言いながら、ユウシアは街から離れるように走り始める。
誰が自分の片目を潰したのか分かっているのだろう。黒竜もユウシアを追って走り出す。
「ユウ君!!」
ゴォウッ!
アヤの叫び声は、黒竜の放ったブレスの音にかき消される。
迫り来る火球を、ユウシアは【集中強化】による超加速でなんとか回避するが、元々黒竜との距離があまり離れていなかったこともあるのだろう、マントの裾に火が燃え移ってしまう。
「あっつ!」
慌てて脱ぎ捨てるユウシア。
黒竜は、続けてブレスを放つ。
今度は雷だ。凄まじい速度で横方向に広がるそれを【五感強化】と【第六感】による直感でなんとか見切ったユウシアは、今度は上に全力で跳び上がる。
しかし、少し間にあわなかったようで、今度は足に掠ってしまう。
「あぐっ!」
体が痺れて着地に失敗し、地面に叩きつけられるユウシア。
そこに突如影が覆いかぶさる。
ユウシアが上を見ると、黒竜が脚を振り上げている。踏み潰してしまおうとしているのだろうか。
ユウシアは慌てて起き上がり、全力で後ろに跳ぶ。それと同時に黒竜の爪に手錠を当て、間の鎖を引きちぎることに成功する。
しかし黒竜の脚が地面に叩きつけられたときの衝撃波で、ユウシアの体が吹き飛ばされる。
「ぐっ! がっ!」
地面を転がるユウシア。顔を上げると今度は、黒竜の口元から冷気が漏れている。
その直後に発射される氷のブレス。それが通った場所はもれなく凍りつく。
散々負ったダメージで動きが鈍り、やっと起き上がったユウシア。また上に跳び上がるも、下半身が薄く凍りついてしまう。直撃を免れたのは不幸中の幸いか。
しかし、今度こそ身動きがとれない。
倒れ伏すユウシアの下へ、勝利を確信したのか黒竜がゆっくりと歩み寄る。
「ユウ君っ!!」
「ユウシアッ!」
アヤとフィルの叫び声が強化された耳に届く。
「は、はははっ……」
ユウシアが諦めたように、しかしどこか不敵に笑う。
黒竜の脚は、無慈悲にも再び振り下ろされた――。
唐突の黒竜からのユウシア大☆ピンチ!
次回、使われることはないと思われていた(俺自身)アレが登場します。