だらしない
(……気まずい……)
テラスに置かれた丸テーブル、ユウシア達は元々そこに備えられた椅子に座っていたのだが、元々四席のそこに椅子を一つ追加し、エリザベートとディルクも同じテーブルを囲むことに。
ちなみにリルはまだ寝ている。もたれかかられているユウシアであるが、起こす気は微塵もないらしい。むしろご褒美です――なんて言う訳ではないが、心境的にはそんなところである。
「……それにしてもリルったら、だらしない顔で寝ちゃって……王女の自覚はあるのかしら」
「それだけユウシア君を信頼しているってことなんじゃないかな。……それに、自覚の話をするなら、母さんだって決して王妃らしくはないからね」
「どういう意味よそれは」
「いや……母上、否定は出来ないと思うぞ?」
「フィルまで……ユウシア、何か言ってやってよ」
「え? いやぁ、ははは……」
そんなこと言われてもまだあなたのこと何も知りません、と、ユウシアはとりあえず誤魔化し笑い。
「……でもまぁ、確かにリル、ユウシアを信頼しているみたいね。でもなければこんな顔して寝られないもの。……あぁ、だらしない、可愛い顔……ふふ、さすがは私の娘ね。ねぇユウシア、あなたも思わない? リルかわい――」
「――は? 何言ってるんですかリルが可愛いなんて空が青いことより当たり前のことじゃないですか」
「……そ、そう。あ、愛されてるのね……」
食い気味に、しかも真顔で言い切るユウシアに、エリザベートは逆に引き気味に。
「リルに恋人が出来たって言うからどんな人かと思ったけど……うん、しっかり大切にしてくれそうないい人じゃないか」
「駄目よディルク、そんな簡単に心を許しちゃ! 私達の大切なリルが生涯を共にするかもしれないのよ!? 慎重に見定めなきゃ! 実は連続猟奇殺人鬼とかだったらどうするのよ!」
「母上、想像がオーバー過ぎるぞ」
「さすがに連続猟奇殺人鬼はひどくないですか……いや、職業的には暗殺者ではありますけども」
「ほら! ほら見なさい! 物騒じゃないの!」
「母さん、暗殺者って言っても悪い人ばかりじゃないからね?」
「分かってるけど物騒は物騒よ!」
断固としてその姿勢を譲らないエリザベート。まぁ確かに物騒かもしれないが、そこまで否定しなくても……と、ユウシアは思わず苦笑する。だったら言わなければよかったのかもしれないが、恋人の家族にあまり隠し事はしたくなかったのだ。
と、そんなエリザベートに対して、ユウシアのすぐ隣から不満げな声が飛ぶ。
「――お母様。いくらお母様でも、私の恋人を悪く言うのは許しませんわよ」
「んみゃっ!? リ、リル、起きてたの!?」
「すぐ近くであれだけ大声で話されたら、誰だって目が覚めます。……申し訳ありません、ユウシア様。ずっと肩を貸していただいていたようで……」
「ん、全然平気だよ。俺の肩でよければいくらでも」
「……では、もう少しだけ……」
そう言って、一度起こした体を元の位置に戻すリル。
「今日はやけに甘えたがりだな」
「こうしていたいのもありますが……お母様は、こうして私が本気だということを見せないと納得してくれそうにありませんから」
「そ、そんなイチャついてるだけで認めたりはっ……! 何この甘ったるい空間はっ!」
「いつもこんなだぞ」
「なんですとぉ!?」
「普段からこんな感じでイチャイチャしてる。どこでも」
「あはは……それはまた、凄いね……」
「隠してますし。こんな風に」
そう言うとユウシアは、いつものように【偽装】を発動し、自分達二人が普通に座っているように見せる。
「……甘ぁい空気が漏れてるわよ?」
「それはもうどうしようもないですねー。ま、どうせ数年したら公表するんですし、いいかなって」
ユウシアは、【偽装】を解きながら笑ってそう言う。段々接し方が分かってきたのか、口調が砕けたものになってきている。
「はぁ……まぁ確かに、愛し合ってるみたいだけどね。リル、あなた、この人以外あり得ない、とか思ってるでしょ」
「当然ですわ」
エリザベートの問いに即答するリル。それを見て、エリザベートは少し考え、ユウシアに向けて口を開く。
「ユウシア、必ずリルを幸せにするという意思は――覚悟は、あるの?」
その問いにユウシアは、考える素振りすら見せず、リル同様に即答する。
「陛下には……義父さんには言いましたが、――俺の全てを、懸けてでも」
幸せにしてみせると、そう言い切るユウシアの目を、エリザベートはジッと見つめる。全てを見透かすようなその瞳を、ユウシアは目を逸らさず見つめ返す。
「……そう」
やがてエリザベートは、小さく笑うと視線を和らげる。
「本気みたいね。――分かったわ。ユウシア、その意思を信じて、リルとの婚約を認めます。ガイルやハイドを呼ぶように、私のことは「義母さん」とでも呼ぶといいわ! ……もしもリルを泣かせたら、承知しないからね」
「ふふっ……僕のことも兄と呼んでくれると嬉しいな」
「……必ず、幸せにします。お二人にも、俺に任せてよかったと思ってもらえるように。――ありがとうございます、義母さん、ディルク義兄さん」
テーブルの下で、ユウシアとリル、二人の手は固く結ばれていた。