ぶえっくしょい
書きたいこと適当に詰め込んだので少し長めです。当社比一.七五倍くらい(普段は二千文字目安)。
「――ぶえっくしょい! ズズッ……」
「アヤ……いくらなんでも、女性としてそのようなくしゃみをするのは……へくちっ!」
「フィ、フィル様、やけに可愛らしいくしゃみですね――くしゅっ!」
「「「――さ、寒い……」」」
顔を真っ青にしながら、服を重ねに重ね、身を寄せ合い、ユウシアのテントにある炬燵で暖を取るアヤ、フィル、リリアナの三人。そんな彼女達を、ユウシアは苦笑いを浮かべながら見る。
「いや、うん……ごめん」
考えるまでもなく、ユウシアのせいである。極寒の山の中、全身びしょ濡れにしておいて、風邪を引かない方がおかしいというものだ。氷の女王なんてものと契約しているシェリアだけはしれっとしていたのだが……それはまぁ、別の話である。
(……あれ? ラインハルトも割と普通だったような……まぁいいか)
多分、あのイケメンさんもまた何か次元の違う存在なのだろう。
閑話休題。
ガタガタと震える三人のもとへ、リルが両手に何かを抱えてやって来る。一瞬開いたテントに、彼女達は若干恨めし気な目を向けたが――それは次の瞬間、歓喜の表情へと変わった。……テントが一瞬開いた程度で冷気が入ってくるかと言えば、それ以前に大して断熱もしてくれないので大差ないのだが……そこはまぁ、気分の問題なのだろう。
「フィル、アヤさん、リリアナさん。温かいお鍋を作ってきましたわ」
「神来た!」
「姉上、愛してる!」
「リル様ぁぁぁ、一生付いていきますぅぅぅ」
「素直だね君ら……」
思い思いの言葉を口にする三人に、リルは苦笑し、ユウシアはどこか呆れたような目を向ける。
「もちろんユウシア様の分もありますから、一緒に食べましょう?」
「あー……うん、頂くよ」
この三人にほとんど持っていかれそうだけど……と思ったユウシアだが、それも仕方ないだろうと何も言わないでおくことに。
リルが炬燵の真ん中に鍋を置く間に、ユウシアは彼女から取り皿と箸――今更ながら、この国では箸も普通に使われている――を受け取り、全員に配っていく。……というか、配ろうとしたそばから奪い取り、鍋の蓋が開くのを今か今かと待ち始めている。
「ふふふ……そんなに急がなくてもたくさんありますよ。――ユウシア様が獲ってきた鹿肉を使いきらなくてはなりませんでしたので、お肉たっぷりのもみじ鍋ですわ。大鍋で作りましたからおかわりも沢山ありますし、遠慮なく――」
「リル、もう食べてる」
「――あら」
蓋が開いた瞬間とてつもない勢いで飛び込んできた三つの影が、鍋の中身を一気にかっさらっていったのだ。その犯人達は、まだまだ熱い肉をハフハフ言いながら頬張っている。とても幸せそうな表情である。
「俺達も食べないとなくなりそうだな。はい」
「あ、ありがとうございます」
こちらは落ち着いて鍋をよそったユウシアは、それをリルに渡す。そして、自分の分もよそい口に運ん――だ直後、またしても飛び込んできた影達によって鍋が空にされたが、無視して箸を進める。
「……ん、美味い。リル、大鍋ってことは全員分?」
「はい。この様子だと、あまりのんびりしていると大鍋の方もすぐになくなってしまうかもしれませんわね」
「あぁ、確かに……なんかごめんな、結局修学旅行の間毎食全員分作らせちゃって」
「いえ、好きでやっていたことですし……それに、ユウシア様が謝るようなことでは」
「いや、それでも、あまり手伝ったりとかも出来なかったからさ」
「ユウシア様はユウシア様で、私達を引っ張ってくれていましたから。大変ではありませんでしたか?」
「いや、平気。なんだかんだで皆優秀だしな。……まぁ、普通は教師がやるべきことだと思うんだけど」
「あはは……」
ユウシアが付け加えた一言に、リルは乾いた笑いを漏らす。なんか最近どんどんヴェルム様への当たりが強くなっているのは気のせいでしょうか……なんて考えるが、多分気のせいではない。ただ、ユウシアに限ったことでもなく、クラス全体がそんな雰囲気になりつつあるのだが……。
「「「おかわり!」」」
と、そこへ、綺麗に重なった三つの声が。同時にリルに差し出される同数の皿。見ると、その中も鍋の中も綺麗に片付いてしまっている。
「俺行くよ」
席を立とうとしたリルを止め、ユウシアが鍋を持ってテントを出る。と、
「おや、ユウシア君。丁度よかった」
「……あぁ、なんだ、先生か」
「なんか雑じゃないですか!?」
「気のせいでしょう。それで、何か? 三人程腹を空かせて待ってるんで、早めに戻りたいんですけど」
「いえ、少し話したいことがありまして。そう長くはなりませんから……とりあえず、どこかに座りましょうか」
ユウシアはヴェルムのその提案に頷き、座れるところへ移動する。
「話というのは他でもない、例の古代兵器についてです」
「あぁ……これですか」
言いながらユウシアは、普段から身に付けているベルトポーチからリボルバーを取り出す。
「はい。ユウシア君に教えてもらった穴に先程行ってみたんですが、確かに横穴は崩落していて、その先を確かめることは出来ませんでした。……まぁ、その前の縦穴の底に大量にあった水晶、あれはかなり高純度の魔石で滅多に見つからない物なので、それだけでもかなりの大発見なんですがね。――まぁそれはさておき、聞きたいことがあるんですよ」
「聞きたいこと、ですか?」
「はい。……ユウシア君、君は何故、その武器の使い方が分かったんですか?」
「……はい?」
なんで、と言われても、前世で似たような武器を使ったことがあるからです――とは流石に言えない。
「この手帳」
そう言ってヴェルムが出してきたのは、リボルバーと一緒に見つけた例のふざけた内容の手帳。
「ユウシア君、この文字、読めるんじゃないですか?」
――図星だ。
だが、ヴェルムも根拠があって言っている訳ではないだろ。可能性の一つとしてあり得ることで、ユウシアがボロを出せばそれでよし。出さなかったら出さなかったで、特に何も変わりはしない。
そして、暗殺者たるユウシアが、ボロなど出すはずもなかった。
「は?」
「先生に対する口調としてどうなんです?」
「今さらでしょうよ。ていうか、こんなの読めるわけないじゃないですか。俺が使えるのは共通語と……あとは精霊言語が少しくらいですよ」
「あ、精霊言語喋れるんですか。あれ結構難しいのに凄いですね……っと、それはさておき。じゃあなんでその武器の使い方分かったんですか? この手帳に書いてあるものだとばかり思ってたんですが」
「なんとなく」
「……はい?」
「だからなんとなくです。なんとなく弄ってたら以外と行けました」
「そんな無茶な……」
「そういうこともありますって。……で、話は終わりでいいですか?」
「……なんか納得行きませんけど……まぁいいでしょう。引き留めてしまってすみません」
「いえ、では」
そう言って立ち去ろうとするユウシアに、ヴェルムが思い出したように声をかける。
「そうだ。修学旅行が終わったら、あの穴の底の魔石は粗方採掘されてしまうと思います。あの幻想的な景色を楽しむなら今ですよ」
「……ありがとうございます」
ユウシアはそれだけ言い残し、今度こそ立ち去った。
(お節介な……)
そんなことを考えて。
++++++++++
それからしばらくして、夜も更けてきた頃。ユウシアの姿は、例の穴の底にあった。
「凄い、綺麗……」
その隣には、彼が連れてきたリルの姿もある。
「明かりを用意しないと何も見えないのが難点だけど……光があると、それを水晶がいい具合に反射してくれるんだ。最初に見た時からリルにも見せてあげたいとは思ってたんだけど……この機を逃すともう見れなくなるみたいでさ。喜んでもらえたみたいでよかった」
あの時は何も言われなかったが、ヴェルムはきっと、ユウシアがリルを連れてくることを見越してあんなことを言ったのだろう。ユウシアもそれに気付いて、お節介な、などと思ったのだが、助かったことには違いなかった。
ほんの少しだけ感謝しよう、などと思うユウシアだが……増長するのが目に見えているので、その気持ちは絶対に伝えない。
「ですが……少し、寒いです」
「あぁ、そうかもな……それじゃ」
ブルリ、と身を震わせるリル。ユウシアはそんな彼女を後ろから抱き締める。
「こうしてれば寒くないでしょ?」
「は、はい、そうですけど……」
すぐ近くから聞こえるユウシアの声に、リルは頬を赤らめる。
「……この修学旅行中、あまり二人きりになれなかったからさ。さっきの戦争は二人きりだったけど、あれはまた違うし……」
だからずっとこうしたかったと、ユウシアは言外にそう伝える。
「駄目?」
「~~っ、わ、私も……こうしたかった、です……」
「そっか」
ユウシアは小さく笑って、リルをより強く抱き締める。
「ユウシア様、痛いですわ……」
「……今だけ」
「もう……」
不満げな言葉を口にするリルの表情にはしかし、穏やかな笑顔が浮かんでいた。
最後(イチャイチャパート(?))本当はもうちょっと書きたかったけど浮かばなかった……。
ともあれ、第六章は今回で終わり。誰も新登場とかしてないんで幕間ナシで次回は第七章、武闘大会編です。イケメン会長と和風暗殺者系副会長と元暗殺者が闘います。とりあえず私はジルタ王国以外の参加国四つの国名と、それぞれの参加選手が、えー……三×四で十二人分の名前考えにゃならんです。……何人かモブってことで名前考えなくていいっすか……?