と、っ、く、ん!
今更この作品が投稿開始から一年経っていることに気が付いた私。全く意識してませんでした。約一ヶ月遅れのおめでとう。活動報告は……なんか書くことないんでいいですか()。
「戦争をしましょう」
「何言ってんのあんた」
修学旅行最終日。
ぽん、と手を叩き、思い付いたように言うヴェルムに、ユウシアが間髪入れずにそう返す。
「あの……私、先生……」
「あーはいはい。で、急にどうしたんです? ついにイカれましたか?」
「今日のユウシア君当たり強くないですか!?」
「気のせいですよ。ほら、説明」
えー、と、どこか不満げな声を出しながら、ヴェルムは説明を始める。
「いやね、この一週間と少し、この環境に慣れるべく特訓をしてきたじゃないですか」
「特訓というかただサバイバルしてただけのように思えますけど」
「と、っ、く、ん!」
「あっはい」
「……こほんっ。それでですね、最終日にはどのクラスもその成果を確かめる何かをすることになっているんですが、もういっそ戦争でもしちゃうのが一番手っ取り早いと思うんですね。そういう訳で、私引率のクラスには毎回最終日に戦争してもらってるんですよ」
「へぇ」
「雑だなぁ……まぁいいでしょう。それで、普段はクラスを二つに分けてやってるんですけど……分けるの面倒だし、パワーバランス的にも、ユウシア君一人でいいですか?」
「アホか」
しれっと言い放つヴェルムに、ユウシアは真顔でそう返す。
「いやいやいや、いくらなんでもこの悪環境の中これだけの人数を相手にって、出来る訳ないでしょうが」
「悪環境は皆も同じですよ?」
「それは分かってますけど」
「……仕方ない、分かりました。なら、リルさんをあげましょう」
「私ですか?」
「リルを自分のものみたいに言ってんじゃねぇよ」
「ユウシア君!? どうしたんですかその口調!?」
「……あぁ、すみません。リルのことになると、つい」
「……あの、隠す気ありますか……? 大切なのは結構ですけど、君達が恋人だっていうことは一応秘密なんですよ……?」
「じゃああんなこと言わないでくださいよ。リルは俺のです」
「もう、そんな、ユウシア様……」
「あぁはい、隠す気ないんですねごちそうさまです」
……そんな、くだらないやり取りも程々に。
「それで、ユウシア君とリルさんが他の皆と戦うということでよろしいですか?」
「いいですよ。リルがいないなら加減する必要もないですし」
「さては拒否した理由それですね!? 勝てない云々じゃなく、リルさんと戦えないだけなんですよね!?」
「…………」
無言で目を逸らすユウシア。「もうっ……!」なんて言いながら、恥ずかしそうにくねくねするリル。
なんかもういいや。
そう思ったヴェルムは、無表情でルール説明を始めた。
++++++++++
開戦。
山頂でヴェルムが放った魔法により、それが告げられる。
今ユウシア達がいるのは、山の麓。反対側の麓には、他のクラスメイト達がいるはずだ。
今いるのがスタート地点となっており、ヴェルムの合図と共に行動開始。ただし、麓付近で戦っていても意味がないので、戦闘可能エリアは山の上三分の一に限られている。まず最初は、両軍共にしばらく山登りだ。この巨大な山であれば、三分の一だけでも十二分に広大なエリアが確保出来る。むしろ、制限しなければ広すぎて遭遇しないまま時間が過ぎてしまうことだって考えられるのだ。山登りで修学旅行の成果(?)を発揮(?)させることも出来て、一石二鳥である。
そして、そんな中ユウシアはというと。
「ユ、ユウシア様ぁぁあ! 速いぃぃいですぅぅううう!」
リルを抱えて爆走していた。
「もうすぐだから、我慢!」
「も、もうすぐってどのくらいですか……?」
「んーっと……十分くらい?」
「うぅぅ……十分間これは結構辛いですけど、今までと合わせてたった一時間程度で山頂まで到達することを考えると、とても早い……」
そう。リルの言う通り、今二人は山頂を目指している。
理由は簡単、上の方が有利だからだ。
ユウシアの立てた作戦――と呼べる程のものでもないが――はこうだ。
とりあえず山頂に向かう。
敵軍を発見し次第、リルの水魔法で押し流す。これで大半は行動不能、そうならなかった者も濡れたことにより寒さが倍増し行動力が落ちる。
そして、動きの鈍った残りにユウシアが単騎特攻。リルの援護を受けつつ各個撃破する。
以上。なんとも大雑把な作戦である。
と、そんな感想をリルが漏らしたところ、ユウシアの返答は、「だって面倒だし、これでも十分有効だし」だった。
「……ただネックになるのが、アヤとシェリアなんだよな……」
走りながら、ユウシアが呟く。
「アヤさんとシェリアさん、ですか? ……シェリアさんは、寒さが平気のようですし分かりますが……何故アヤさんが?」
リルの質問に、ユウシアは「聞こえてたか」と言ってから答える。
「シェリアに関してはその通り。で、アヤなんだけど……これを言ったらなんだけど、魔法に関しては天才だから、即興で寒さを防ぐ魔法とか使い始めてもおかしくない――っていうか、もう使えそうなんだよなぁ」
「それは……確かに……」
「ただ、アヤ本人が寒さにそんな強くないし、なんなら最初のリルの魔法で押し流されてくれればいいけど……多分無理だろうなぁ」
「最悪は、アヤさん達魔法使い組に防ぎきられること、ですわね」
「そうだな。だからリルは、魔力も何も気にせず、全力の魔法を撃ってくれ。足りない魔力は俺が補う」
「はい。ユウシア様のお役に立てるよう、頑張りますわ!」
「よし! じゃあペース上げるか!」
「ふえっ!? な、なんでっ――」
ですか!? と、聞くまでもなく。
嬉しそうなユウシアのペースは、軽く倍になり。
五分程度で山頂に到達した。