多分俺
「それはそれとして……この反動だと、使いづらいことこの上ないな……」
両手で持っていたにもかかわらず、撃った瞬間ユウシアの腕は大きく跳ね上げられた。完全に拳銃の反動ではない。威力を見れば、納得ではあるが……。
「【集中強化】使えば、なんとかなるか……?」
ものは試しと、ユウシアは自分の腕に【集中強化】を施し、もう一度先程の場所を狙って撃つ。
魔法陣が現れ、発射、轟音。
ほとんどタイムラグなしで着弾したそれは、先程の穴を更に深く抉る。
そして反動はというと、
「ギリッギリ……」
全力の【集中強化】で、かろうじて抑えきれるレベル。やはりとてつもないが、それでも抑えられれば正面切って戦う時でも使えるだろう。隠密行動時に使うのは、音量的に完全NGだ。
「でも、それを除けばかなり優秀だぞ、これ……威力も高いし、弾速も速い。弾も魔力っぽいから実質無限……そういえば、魔力の込め方って……普通に魔力を流せばいいのか?」
そう考え、とりあえず弾倉部分に魔力を流し込んでみるユウシア。だが、魔力が込められている感覚がない。弾倉……というか、銃自体に魔力が弾かれているようだ。
「んー……? あ、弾倉を出せばいいのか」
銃に魔力が弾かれるのなら、弾倉を出してしまえばいい……というか、そのための振出式なのだろう。今度は弾倉を出してからもう一度やってみると、今度は問題なく魔力が流れ、二つの水晶弾に失われていた輝きが戻る。
それを見たユウシアは、額に汗を浮かばせながら呟いた。
「……訂正。音の他にも、燃費が馬鹿みたいに悪いのを除けば、だな」
++++++++++
ユウシアが拠点に戻ると、そこではユウシアを除いたクラスメイト全員――ついでにヴェルムも――が一ヶ所に集まり、何やら話をしていた。
「ただいま。どうかした?」
「あっ、ユウシア様! 大丈夫でしたか!?」
声をかけたユウシアに、リルがそんなことを聞いてくる。
「大丈夫……って、何が?」
思わず首を傾げるユウシアに、リルもまた首を傾げ、
「ええと……気付きませんでしたか? 二回大きな地震があったのですが……」
「そうなんだ、全然気付かなかっ……ちょっと待って、地震が二回? ……それって、いつ頃の話?」
「三十分程前ですわ。一、二分の間に二回」
「三十分前、ねぇ。…………」
三十分前。丁度、ユウシアが新たに手に入れた銃の試し撃ちをしていた頃である。二回。丁度、試し撃ちをした回数である。一、二分。丁度、試し撃ちに使った時間である。つまりどういうことかというと、
「それ、多分俺」
ということだ。
「……はい?」
何を言っているんだろうこの人、とでも言いたげな顔をするリル。
「いや、その……まぁとりあえずこれ見てよ」
ユウシアは、あの拳銃をリルに見せる。
「これは……?」
「山頂にあった穴の奥で見つけた物でさ。銃口を向けて、この引き金を引くと――」
言いつつ、ユウシアは誰もいない方に向けて一発。
少し上にあった雲を切り裂き飛んでいく魔力弾。
そちらを見て丸くなる皆の目と口。
「まぁ、こういう物なんだけど、これの試し撃ちとその地震、時間も回数も大体一致するから、これが原因かなぁ、と」
「えー……」
思わず呆れた声を出すリルである。
他の皆も二人のやり取りを聞いていたのか、同じように呆れた顔をしている。
(まぁこれは仕方ないな……俺だって呆れる)
と、そんなことを考えながら苦笑するユウシアである。
「ユウシア君……それはまさか、古代兵器の一つでは……?」
「へ?」
そこへ、ヴェルムが恐る恐るといった様子で尋ねてくる。
「なんですか、それ?」
「そのまんまですよ。古代の、失われた技術で作られた兵器……中には国々のパワーバランスを崩壊させるようなものもあるとかなんとか。それ、どこで手に入れたんですか……?」
「さっきリルにも言いましたけど、山頂にあった穴の奥に……もう崩れましたけど」
「へ?」
「いや、だから崩れたって。こんな威力の弾を壁に撃ち込んでたのがいけなかったんでしょうねぇ。まぁ、崩れたのは横穴だけなんですけど。他にはこれといって何もなかったからまぁいいやと。……あ、これ渡しときますね」
そう捲し立ててからユウシアが投げ渡したのは、例の手帳。念のため持ってきておいたのだ。
「……どこの文字ですか、これは?」
「さぁ?」
まさか、異世界の言語です、などと言えるはずもなく。ユウシアは適当にすっとぼけておく。
「ふぅむ……とりあえず、帰ったら調べるとしましょうか。ユウシア君、一応その場所に案内――」
「はい、地図」
「…………」
ヴェルムは、差し出された地図をげんなりした様子で受け取った。
「リル、夕食の準備でもしようか。手伝うよ」
「あ、はい、ありがとうございます」
何事もなかったかのようにユウシアが言い、当然のようにリルが頷く。ヴェルムは泣きたくなった。
……ちなみに、他の皆もすっかり興味を失ったように自由に動いていて、ヴェルムは地図を見ながら山頂の方向へ走り去ったとか。目の端に光るものがあったのはきっと気のせいだし、そもそも誰も見ていなかった。
なんとなく思い出したので、今さらながら。
主要メンバーの年齢は、入学時点でユウシア、アヤ、リリアナは十五歳、フィルは十六歳、リルは十八歳、シオンは十九歳です。他の人達も、基本的には十五歳で入学してると考えてOK。十五歳で入学出来なかった人は学年と年齢がズレてます。王女姉妹はしなかっただけですね。
ちなみに、ハイドは二十二歳で、ガイルは四十三歳。ヴェルムは年齢不詳です。他に知りたい人がいたら、感想かツイッターでどうぞ。