なろっ
いざ書こうと思ったらエンターキーしか反応しなくてめちゃくちゃ焦ったのは内緒。
穴に入ってから五分程。ユウシアは、行き止まりにぶつかっていた。
「やっぱりただの穴だったのか……? いや、それにしては道が長かったし、やけにまっすぐだった……」
顎に手を当て、呟く。一見自然に出来たようにも見えるが、一応偽装工作やらなんやらもよくやってきた身からすると、自然発生に見せかけた人工物であるように思えてならなかった。
「となると……」
と、ユウシアは、何やら辺りを探り始める。
それから少し。
「これだ」
カチッ。
と、ユウシアがスイッチらしきものを押した直後、ゴゴゴゴゴ、と音を立てて、行き止まりになっていた壁が開く。
「よし、ビンゴ」
やはり、と言ってはなんだが、この壁の向こうにも道は続いていたらしい。その先には、魔導具によって照らされた部屋が見える。
「今度は随分と明るいな……さて、何があるのかなっと。……何もないのだけはやめてほしいな」
なんて独りごちながら中に入るユウシア。そこは、ほとんど物のない広い空間だった。
そして、その最奥には。
「……これは」
ユウシアはそれに近づき、目を丸くする。
そこにあったのは、簡素な木の椅子。そしてそこに座るのは――骸骨だった。
ユウシアは手を合わせ、目を閉じ、目の前の誰とも知れぬ遺体に祈りを捧げる。
目を開いた彼は、骸骨の手に何かが握られていることに気がついた。
「手帳……? 失礼します」
申し訳程度に声をかけると、ゆっくりとそれを引き抜き、まず表紙を見る。
「何も書かれてないか……結構古そうだけど、読めるかな」
言いながら、表紙を捲る。古く、脆くなっているかと思ったのだが、何かしらの処理がされていたのだろう、以外とそんなこともなく、中に書いてある文字もハッキリと読み取れる。
――そしてユウシアは、ここに来てから二度目の驚きに見舞われることになる。
何故なら、そこに書かれていたのが、
「日本語……!?」
間違えるはずもない、異世界の言語だったからだ。
ユウシアは小さく息を呑んで、手帳の中身を読み始める――。
++++++++++
「なろっ」
手帳をぺいっと下に投げ捨てるユウシア。その額には青筋が。
……というのも、中身、クッソくだらなかったのだ。やれ飲み屋の看板娘の子が可愛いだの、王女様のおっぱいが大きいだの……最後の最後に至るまで、何一つとして重要なことが書かれていなかった。
「普通! 死んでまで大事そうに持ってたら、何か重要なこと書いてあると思うじゃん! 何、このゆるふわな感じの日記! てかおっさんか! 女の子に目がないおっさんか! あと王女が巨乳なのって伝統か何かげふんげふん!」
余計なことまで口走りかけるユウシアである。
一頻り叫んで満足したのか、彼は息を荒らげながらも、ついには手帳を踏みつけそうになっていた足をどかす。
「もういいや、最後のページに『もしこれを読んだ人がいたらここにある物は全部持っていっていいからね~♪』とか書いてあった、ことだ、し……あああウザいぃぃい!」
内容もさることながら、書き方も相当にウザかったらしい。頭を抱え、ユウシアはまたも叫ぶ。
「っていうか、このガラガラの部屋に何が……ん?」
幾分かやる気を削がれた様子で辺りを見回すユウシアは、ある物に気が付く。それは、
「これ……宝箱?」
椅子の後ろにあった、ザ・宝箱! といった様子の箱。
「いやなんでだよ……」
ゲームじゃないんだから……と疲れたように呟くユウシア。誰もいないのに、完全にツッコミ役である。
「……はぁ、もういいや……中身次第では貰っていこう」
やる気を更に削がれつつも、ユウシアは宝箱を開く。トラップを警戒する元気もなかったのか、あっさりと開いたその中には、
「え、これ……銃?」
回転式拳銃――俗に言うリボルバー。
中から出てきたのは、それに非常に近い物だった。他には何も入っていないようだ。
試しに弾倉――振出式だった――を出してみると、そこに弾は入っておらず、代わりに何やら水晶のようなものが込められている。
「これ、穴の底にあったやつか」
水晶の違いなど全く分からないが、輝き方が同じように見えたのだ。
「……それで、どうやって撃つかなんだけど……っと」
ものは試しだ、と、ユウシアは弾倉を戻し、手慣れた様子でコッキング。適当な方向に狙いを定めて引き金を引く――その瞬間だった。
銃口の目の前に魔法陣が出現。放たれた弾丸は、そこを通る瞬間に巨大化し、その先にあった壁を深々と抉ったのだ。
「はい……?」
土煙が上がる中、思わず首を傾げるユウシアである。
「もしかして、魔力弾な感じですか……?」
などと言うユウシアだが、弾丸から強い魔力反応を感じたこと、六つの弾倉の中一つだけ水晶が輝きを失っている――元々魔力が込められていたのだろう――ことから、半ば確信を持っての呟きである。
「音も反動もえげつないことになってるけど……まぁ、いい収穫だった、のかな?」
射撃の反動で腕を上に振り上げたまま、ユウシアは再び首を傾げるのだった。