クレバス
すみません、いつもは一章三十話くらいを目安にしてるんですけど、今回十話くらいになっちゃってもいいですか……正直この修学旅行でそんなに書ける気がしない……出来るだけ書きますけど、多分すぐ終わります……ごめんなさい……。
その後。
ユウシアは、リルに言った通り山頂を訪れていた。
「あー、流石に寒い……」
いくらユウシアといえど、どこぞのエベレストを見下ろせる高さは流石に堪えるらしい。体を抱くように腕を組み、小さく震えている。
「行動出来ないほどじゃないけどさ……っと」
ブツブツ呟きながら歩いていた彼は、突然一歩足を引く。その直後、つい先程までユウシアの足があった場所が崩れ落ちる。
「クレバスってやつか……危ないな、気を付けて進まないと」
ものによっては、深さが数十メートルにも及ぶという。落ちても無事でいられないこともないが、そうなると色々と骨が折れる。
前世だとひとたまりもなかったのだが……「落ちても平気そう」などと考えてしまうあたり、異世界って色々とおかしいよなと感じてしまうユウシアである。
(っていうか、マッピングとかしようがないよな。一面雪景色で代わり映えしないし、雲の上で吹雪いてる訳でもない上に障害物とかも何もないから見渡しいいし。クレバスの場所でも描いておけって? 俺が危ないよ……)
と、頭の中で愚痴を言いながら歩くユウシア。そんな彼の前方に、先程のクレバスなど比べ物にならない大きさの穴が現れる。
「うわ、斜面で見えなかった。あっぶな……っていうか、なんだこれ?」
いくらなんでも、普通はこんなところにこんな大穴、そうないだろう。彼は首を傾げながらもその穴に慎重に近付き、覗き込む。が、
「見えない……」
相当深いのか、下は完全な闇に包まれている。試しに落ちていた石を拾って投げ込んでみるも、音はかなり遅れて、それもユウシアの【五感強化】で最大まで強化された耳にもギリギリ届く程度でしか聞こえない。普通の人なら聞き取ることも出来ないだろう。
(これじゃあ、音もアテにならないかな……かといって、このままにしておくのもなんか後味わるいし……仕方ない)
「降りるか」
++++++++++
「よっ……と」
最初はロッククライミングの要領で、途中からは存在を思い出した〔蹂躙ノ光刃〕を足場代わりに、ゆっくりと降りていくこと一時間程度。ユウシアはやっと、穴の底へと到着した。
(真っ暗だな……そうだ、光刃で)
ユウシアは光刃を最大数出すと、自分の周りに浮遊させる、光刃は自ら発光しているので、いざという時は明かり代わりにもなるのだ。便利なものである。……本来の使い方とは全く違うことには、きっと触れてはいけない。
光刃の存外強い光は、辺りをしっかり照らし出し、そして――
「……おぉ」
ユウシアは、思わず声を漏らす。
明るくなったことにより見えるようになった穴の底。そこには無数の水晶が、氷柱を逆さにして立てたようにして乱立していた。ユウシアが声を漏らしたのは、光刃の光がそれに反射し、全体を淡く照らし出していたからだった。
「凄い、綺麗だな……だけど、俺、一歩間違えたら串刺しになってたんじゃ……? いや、考えないでおこう」
彼は若干頬を引き攣らせてから、気を取り直すようにして辺りを見回す。
「水晶以外は特に何も――いや、あれは……」
ユウシアが発見したのは、壁に開いた穴。それも、明らかに自然に出来たものではない、何者かの手によって作られたようなどこか不自然さのあるものだった。
(……あの先、何かがある)
根拠がある訳ではない。が、ユウシアは何故かそれを確信していた。
「となると、調べない訳にもいかない、か……よし」
ユウシアは小さく呟くと、人が通るには大きすぎる穴の先、広がる暗闇へと歩を進めるのだった。
便利アイテム扱いされる水晶武装。