本の虫王女
モンスト×SAOコラボ、キリト君四体出たんですけどどうすればいいですか? 私のアスナさんとシノンさんはどこですか? っていうか、ユウキ出ませんか?
「皆さん」
翌日。朝になって集まった生徒達に、ヴェルムが声をかける。
「……どうしました?」
皆の、「ほら、リーダー」みたいな視線を受け、嫌そうに、それはもう嫌そうにしながらも前に出るユウシア。
「朝食はまだですね?」
「はぁ、まぁ」
「食料ないので、採ってきてください」
「……は?」
「いえ、ですから。今日までで食料は尽きたので、採集するなり狩るなりして、確保してきてください」
「…………はぁぁっ!?」
至って真剣な表情で言うヴェルムに、ユウシアは思いきり、それはもうここしばらくで一番叫んだ。
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「……確かに、食料少ないんじゃないかなとはちょっと思ってたよ」
見渡す限り純白に染まる斜面を歩きながら、ユウシアは一人ブツブツと呟く。
「でもさ、普通、一昨日、昨日と普通に食事出てきたら、ちゃんとあると思うじゃん。修学旅行、一週間半くらいだっけ? それくらいの分の食料さ」
だというのに、ヴェルムときたら三日目の朝にして「食料もうないです」だ。この極寒の中、動物はおろか植物すらある可能性は低いと言うのに――
「……ハク、聞いてる?」
独り言を言っているようなユウシアだったが、ハクに愚痴を言っていたらしい。正直寒さでそれどころではなかったハクは、ユウシアのフードの中で丸まりながら小さく「ぴ」とだけ答える。
「にしても、本当にこんなところに食材になるような物なんて……ん?」
あるとはとても思えなかったが、それでも探さない訳にはいかない。【第六感】と【五感強化】を最大にして探索していたユウシアは、小さく声を上げると、異変を感じた場所に駆け寄り、しゃがみこむ。
「……これ……」
ユウシアが見つけたのは、雪の上に転々と、一定の間隔で続く凹み。見間違えるはずもない。これは、
「足跡……?」
雪の上ではないが、土の上に続くものなら何度も見てきた。そして、ユウシアの記憶が正しければ、
「これ……多分、鹿、だよな……でも、ここに動物なんて――あぁ、そうか」
ユウシアは何かに気づいたように顔をあげ、軽く頭を掻く。
「なんで気づかなかったかな……魔獣がいないとは聞いてたけど、獣がいないなんて誰も言ってないじゃないか」
この世界の野生動物は、何も魔獣だけではないのだ。普通に、地球にいたような獣だって存在はする。尤も、ユウシアが住んでいた魔の森は、魔獣が跋扈しているせいか普通の獣はほぼいなかったが、それはあそこが特殊過ぎただけ。寒さが厳しいとはいえ、魔獣の寄り付かないこの場所は、一部の獣達にとっては住みやすい土地なのだろう。
「まぁ何はともあれ、これで手ぶらで帰る羽目にはならなさそうかな。っていうか……」
ユウシアは、その足跡を見て若干頬を引き攣らせつつも、それが向かう先へと歩き始めるのだった。
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「あ、ユウ君。おかえりー」
「おかえりなさいませ、ユウシア様」
「うん、ただいま」
ユウシアが拠点へと戻ってくると、そこには既にクラスメイト達が勢揃いしていた。一足先に戻ってきていたらしい。
「どうだった?」
「リルが食べられそうな野草を見つけてさ。なんとか大丈夫そうかな」
ユウシアの問いに、アヤが答える。ユウシアは一人だったが、基本的には皆二人一組で行動していたのだ。何故ユウシアが一人だったかというと、単純に余ったからである。単独行動するなら一番強いユウシアで、と、満場一致の答えであった。
「……リル、食べられる野草とか分かるの? 王女様なのに?」
「小さな頃は、暇さえあれば読書でしたから。今でこそそんな暇はありませんが、当時は本と見ればどのような物でも読み漁っていましたわ」
「あぁ、その中に野草について書かれた本もあったと。……本当になんでも読んでたんだな」
「えぇ。おかげでフィルには本の虫だのと……いえ、その話は置いておきましょう。ユウシア様は何か成果はありましたか?」
「ん、あぁ……ここじゃあれだから、後で出すよ」
「はぁ……? 分かりました」
首を傾げるリルとアヤ。ユウシアはそんな二人を置いて、優雅に寛ぐヴェルムの元へ向かい――
「ちょっとストップユウシア君。あの、殺気が凄いんですが、何事です?」
「……あぁ、気にしないでください。生徒達が生きるために必死こいて食べられそうな物を探している間もこの教師はふんぞり返ってたのかと思うと、軽く殺意が沸いただけなので。で、朝食――いや、時間的にはもう昼食なんですけど」
「あの、仮にも私、先生で担任で学園長ですよ? 殺意がどうのとか言っていい相手じゃ――あっはいごめんなさい謝るから怖い顔しないで。――ごほん。それで、昼食がどうしました?」
「……いや、ちょっと……食材確保出来たはいいんですけど、やり過ぎた感が否めなくて。多分、っていうか絶対、消費しきれないんですよね。捨てるのも勿体ないし、残りどうしようかと」
「あぁ……生物ですか? 雪の中にでも埋めておけば、しばらくは保つと思いますよ。それで、確保した食材というのは?」
「あぁ、なるほど……えっと、ちょっと大きいんでこっちで」
そう言うとユウシアは、開けた場所まで歩くと、背負っていたリュックの口を開き、それを逆さまに――
――ドォオンッ!
「……へ?」
舞い上がる雪、響く音。そして、素っ頓狂な声を上げるヴェルム。
少しして、晴れた雪の中から現れたのは――
「これ、数日分は賄えますよね」
苦笑いしながらそんなことを言うユウシアと、その隣に横たわる、体長十メートル近くありそうな巨大な鹿だった。
魔獣っていう分かりやすい敵がいないと、進めづらいことこの上ない。今更ながら失敗だったかもなぁ、って、少しだけ。